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“南砺市モデル”での学びを故郷・沖縄の地域医療に生かしたい

以和貴会西崎病院 病院長 山城清二先生

西崎病院で病院長を務める山城 清二(やましろ せいじ)さんが、富山県南部・南砺市で取り組んだ地域医療再生プロジェクトは“南砺市モデル”として、超高齢社会や地域の過疎化など日本のみならず世界が抱える課題の解決策として注目を集めるようになりました。“南砺市モデル”やその後の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)への対応などが認められ、第50回医療功労賞も受賞されています。“南砺市モデル”の継続と発展を支えたさまざまな人との出会い、そして出身地・沖縄での今後の展望についてお話を伺いました。

※山城さんのインタビュー前編はこちらのページをご覧ください


“南砺市モデル”はいかにして作られたのか

政策科学の手法で地域医療の再生へ

次の一手をどうしようかと悩んでいたとき、素晴らしい出会いがありました。石川県にある北陸先端科学技術大学院大学から小林 俊哉(こばやし としや)先生が富山大学 地域連携推進機構に赴任され、学内の会議で偶然隣の席になったのです。小林先生のご専門である地域再生システム論は地場産業の復興に取り組む学問です。「医療でも同じようなことができますか」と相談したところ、「分からないけれどおもしろそうだからやってみましょう」ということになりました。

地域医療再生マイスター養成講座

こうして始まったのが、地域の医療者や住民を対象とした「地域医療再生マイスター養成講座」です。講義と討論を組み合わせた1回2時間半ほどの講座を計5回約2か月かけて行い、地域医療再生のためにそれぞれの立場でできることを考えます。最終回は報告会とし、マイスターの修了証も授与することにしました。政策科学という科学的な手法を用いて、地域住民参加型の医療システムの構築を目指したのです。
講座ではまず、改革を実践している病院の事例を紹介いただき、「私たちにもできるんだ」と気付きを得ました。そのうえで、行動を起こすために四画面思考というビジネスモデルを近藤 修司(こんどう しゅうじ)先生(北陸先端科学技術大学院大学)に教えていただきました。これは、現状と目標をありたい姿、なりたい姿、現状の姿、実践の姿の4つに分けて分析する方法で、参加者の意識を改革し変化のための具体的な手段を明らかにすることが目的です。そして、参加者同士が討論を行ってアイデアを出し合うことで「楽しく取り組めそうだ」とモチベーションを高めます。

“南砺市モデル”がもたらしたもの

こうして2009年末、1期生となる地域医療再生マイスター44人が誕生しました。2010年には育成した人材が顔を合わせてつながる場として、住民参加型医療システム「南砺の地域医療を守り育てる会」も立ち上げました。いずれも実情に合わせて少しずつ名称や取り組みを変化させながら継続し、2019年3月までに計428名のマイスターが誕生し、守り育てる会は毎年3回ずつ開催されて計30回となりました。
地域で活躍する医師や訪問看護師などの養成講座も続けられ、南砺市民病院の医師数は2021年には30人(2008年は15人)に、訪問看護師も2021年には19人(2008年は11人)へと増加したのです。住民グループの「思い出ガイド養成講座」なども継続的に開催され、医療者・住民・行政の連携が目に見える形となりました。現在ではこれら一連の取り組みは、地域包括ケアシステム「南砺市モデル:地域・大学パートナーシップモデル」として、よく知られています。


“南砺市モデル”の継続と発展

継続を支えたさまざまなビジネスモデル

では、なぜ南砺市モデルを継続することができたのでしょうか。今振り返るとやはり大きかったのは、四画面思考を取り入れたことでした。四画面思考は意識改革と実践の方法論であり、経営の視点から地域医療の再生について教えていただいたのだと思っています。

他にも、行ってきた取り組みはさまざまなイノベーションの方法論に沿ったものでした。たとえば、個人の知識や経験を全体で共有し、新たな発見を創出するためのフレームワークである「SECIモデル」、効果的な知識創造を行うためにはその知識の存在基盤となる“場”を創っていくことが求められるという「“場”の理論」、ジョン・P・コッターが提唱した「8段階の変革プロセス」、トロント大学OpenLabの「デザイン思考」などがあげられます。

「地域包括ケアシステムと地域共生社会」については、堀田 聰子(ほった さとこ)先生に何度も講演に来ていただきました。猪飼 周平(いかい しゅうへい)先生の「地域包括ケアシステムの社会理論」では、早くから治療医学モデルから生活支援モデルへの移行について学ばせていただきました。その他にも、ミルトン・メイヤロフの「ケアの本質」、山崎 亮(やまざき りょう)さんの「コミュニティ・デザイン」など、多方面からの示唆が活動に豊かな学びをもたらしてくれたのです。

国内外での評価がさらなる活動の飛躍に

私が長年取り組んできたことは、実践活動グループを生成することによる「実践コミュニティづくり」を通じて、ウェルビーイング(Well-being)や“人生100年時代”の社会のあり方に貢献するものだったのです。

富山大学では、地域医療の立て直しという地域のニーズに沿って、「南砺家庭・地域医療センター」やまちなか総合ケアセンター内に設置された「まちなか診療所」など、さまざまな研修施設を生かした総合診療医・家庭医を養成する体制を構築したことで、志を同じくする医師や医療スタッフの入職につながりました。さらに、2013年には文部科学省の「未来医療研究人材養成拠点形成事業」において、総合診療医を養成する全国15大学の1つに選定されたことでさらに活動が広がりました。トロント大学と連携し、医局員に短期研修の機会を設けたり、現地の専門家を招聘して講演会を実施したりすることができたのです。併せて英語論文の執筆も行い、2023年にはイギリスの医学雑誌BMC Primary Careに“南砺市モデル”の取り組みが掲載されたことをうれしく思っています。


地域のネットワークで立ち向かった新型コロナ

2020年から新型コロナの流行が始まると、それまで12年間に渡り培ってきた地域のネットワークが大きな力を発揮することになりました。2020年4月に富山市で発生した全国初の高齢者施設でのクラスターは、全国的にも注目されました。この出来事をきっかけに、行政と病院、介護福祉施設との連携が強化され、介護関係者のマイスターによって、介護福祉施設の感染対策支援を行う「とやま安心介護ネットワーク」が立ち上げられたのです。また、マイスター養成講座を受講した地域住民や商店街・歓楽街の組合長と協働して「まちなかコロナ対策チーム」を作って、ポスターを配布し換気に注意するなど感染予防の指導を行いました。市内の飲食店など50件ほどを1件1件まわりましたが、直接市民の皆さんとふれあい、それぞれの立場での苦労や工夫を共有できたのは貴重な経験だったと思います。


出身地沖縄に戻って、山城先生の今後のビジョンとは

現在私は出身地である沖縄県に戻り、糸満市にある以和貴会 西崎病院の院長として地域医療に携わっています。他の地域と同様、当院でも高齢の患者さんのケアは大きな課題です。寝たきりの人やご家族をどのようにサポートしていくのか、今後さまざまな試みを検討しようとしているところです。当法人は特別養護老人ホームや介護老人保健施設、デイサービス、障害者支援施設も運営しているため、法人内の資源をうまく活用して、地域で信頼される優しい病院、ケアミックス型病院を目指していけたらと思っています。これまでの経験を生かして、今後は沖縄の僻地・離島医療の発展にも貢献したいと考えています。

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