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てんかん患者さんが暮らしやすい社会を目指して――渡辺雅子先生の思い

新宿神経クリニック 院長 渡辺雅子先生

てんかんは、神経疾患の中ではもっとも頻度が高い病気のひとつで、1,000人当たり5~10人の割合でみられます。一生のうち1回でも発作を経験する人の割合は人口の約10%で、日本には約100万人のてんかん患者さんがいます。このようにてんかんは私たちの身近にありますが、まだ社会の理解が十分ではありません。1995年からてんかんを専門とし、数多くの患者さんを診ている渡辺 雅子(わたなべ まさこ)先生は、2015年に新宿神経クリニックを開設。これまでのあゆみと、てんかんの診療にかける思いを伺いました。


弁護士に憧れるも、医師の道へ。精神科領域に強い興味を抱く

私はもともと本を読むことが好きで、文科系の人間だと自覚しています。弁護士に憧れたこともあったのですが、当時は法曹界で活躍する女性という存在が今よりも少なく、躊躇しました。そして、医師ならば仕事の結果がわかりやすく、自分の力を発揮できる予感がして、医学部に進むことを決めました。

 

鹿児島大学医学部で精神科という分野に出会いました。精神科の教科書だけは非常に面白く、自分の進む道は精神科領域だと確信しました。


大学での経験を経て、てんかんを専門に診ることを決めた

医学部を卒業後、大学医局に入局。1960〜70年代、当時大学は、“教授の意見は絶対”という印象でした。特に精神科の場合は客観的な診断ツールが少なかったこともあり、そのような傾向が強かったように思います。たとえば、患者さんが普段はデイルームなどでリラックスしてお話しされていても、教授回診では緊張のあまり表情が硬くなってしまうことがあります。すると、その様子から“疎通性がないから、統合失調症である”と診断されてしまうのです。普段の様子を知っている私は「統合失調症ではなく、神経症の範疇ではないか」と思うのですが、しかし反論する根拠がないのです。今と違い、CTもMRIもない時代ですから。

 

そのような経験があり、徐々に脳の機能を客観的に測ることに興味を抱くようになりました。そして、恩師の鶴 紀子(つるのりこ)先生にてんかんを学んだこと、そして和田 淳(わだ じゅん)先生にお会いして「てんかんは、神様が私たちにくれた“脳の機能を知るための窓”なのだよ」という言葉に感銘を受けたことで、てんかんを専門として歩んでいくことにしました。このような出会いが、現在も力を注ぐてんかん診療につながるきっかけです。


てんかんの診療を専門的に行う現在の思い

大学の精神科で8年間診療を行ったあとは、静岡てんかん・神経医療センター病院に入職しました。MRI、SPECT、脳磁図(脳の電気的活動がつくり出す磁界の変化を捉えた検査)を用いたてんかんの検査、診断、治療を行ってきました。同病院に21年勤めた後、国立精神・神経医療センター(NCNP)へ。

NCNPには9年勤めたのち、2015年に新宿神経クリニックを開設しました。てんかん診療を専門として、中学生から高齢の方まで幅広い年代の患者さんを診ていますが、てんかんにもさまざまなタイプがあり、患者さんごとに異なる問題、課題を解決することの重要性を実感しています。

 

記事2でもお話ししましたが、てんかんは患者さんのライフステージに合わせて治療を行うことが大切であり、特に女性の場合には妊娠、出産に際して適切に薬剤をコントロールするなどの対応が必要です。「てんかんの治療を続ける限り、妊娠や出産はできない」と考える患者さんがいらっしゃいますが、そのようなことはありません。諦めずに、ぜひご相談いただければと思います。安心して妊娠、出産したいという患者さんを全面的にサポートし、無事に赤ちゃんが生まれたときには、本当に嬉しいです。

 

新宿神経クリニックでは、患者さんやご家族の話を伺い、必要に応じて検査などを行いながら、患者さんごとに適切な治療を選択できるよう最善を尽くしています。治療に関しては、薬の処方はもちろんのこと、日々の生活指導も大切にしています。

 

てんかんという病気は、社会の理解が進んでいない部分があり、いまだにわずかながら偏見が残っています。しかし実はてんかんという病気そのものの解明とてんかんの診療は確実に発展しています。適切な治療を行うことで、生活への支障を最低限に抑えながら毎日を過ごすことは可能なのです。私は、てんかんに関する正しい知識を、患者さんご本人はもちろんのこと、社会にも広く知っていただき、てんかん患者さんがより暮らしやすい環境をつくりたいと強く思っています。

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