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病気治療後も社会で自分らしい生活を――牛場直子さんがリハビリテーション科医として思うこと

医療法人平成博愛会 世田谷記念病院 リハビリテーション科 部長 牛場直子さん

リハビリテーション(以下、リハビリ)は、病気やけがで損なわれた身体機能を回復させるために行われます。しかし、単に体の調子がよくなるだけでは十分ではありません。患者さんが社会生活に復帰し、自分らしく生きるための体制を整えることも含めて「リハビリ」と考えられています。急性期治療後の在宅復帰を支えるために設立された世田谷記念病院のリハビリテーション科 部長の牛場 直子(うしば なおこ)さんに、リハビリ科医としての思いや、やりがいについて伺いました。


「在宅に帰りたい」願いを支えるリハビリ

病気やけがで入院された患者さんは皆、「住み慣れた場所に帰りたい」という切実な願いをお持ちです。その願いを叶えるための手段がリハビリです。現在は、治療直後からリハビリを開始して筋力低下を防ぐのが一般的です。私たちも、急性期病院からできるだけ早く患者さんを受け入れ、1日も早い在宅復帰を目指しています。
世田谷記念病院において、リハビリテーション科は病院の中核です。「地域包括ケア病棟」と「回復期リハビリテーション病棟」の両方で、原則毎日リハビリを提供し、在宅復帰を支援しています。 また、退院後のフォローも私たちの重要な役割です。訪問リハビリや在宅診療を継続できますし、もし自宅で体調が悪化しても、当院で再びコンディションを整えて(リコンディショニング)、また自宅へ戻るというサイクルを支えています。
在宅復帰の大きな課題となるのが「排泄」です。1日に何度も行う排泄動作の自立度をいかに上げるか。私たちはここに特に力を入れています(詳細は下部の関連情報参照)。ただし、リハビリは患者さんご自身の努力が不可欠な医療です。私たちスタッフは全力でサポートしますが、最後に頑張るのは患者さんご本人。「自分がやるんだ」という意識を持っていただけるよう、ご家族も含めたチーム全員で支えています。

これからリハビリを受ける人には、ぜひ「自分の力で家に帰るんだ」という強い気持ちを持っていただきたいと思います。患者さんを送り出すとき、私は「またね」とは言わないようにしています。できれば医療機関と関わらずに過ごせるほど元気になってほしい、一期一会であってほしいと願っているからです。もちろん、長くケアが必要な患者さんとは、長いお付き合いをさせていただいています。


リハビリ科医は多職種チームのリーダー

リハビリは医師1人では完結しません。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、臨床心理士、看護師、ソーシャルワーカーなど、多職種が連携するチーム医療です。それぞれの専門的な視点から得た情報を統合し、大きな方向性を示すのがリハビリ科医の仕事です。 私はチームのリーダーではありますが、専門スタッフから教わることも多く、常にフラットに意見交換できる関係を心がけています。
リハビリ科医は、一般的な「お医者さん」のイメージとは少し違うかもしれません。手術などの手技を行うのではなく、PTやOT、ソーシャルワーカーなど、あらゆる職種の視点を持ち合わせ、全体を調整できるのがこの仕事の面白さです。当院では、患者さん全員にソーシャルワーカーがつき、どうすれば地域に帰れるかをチームで検討します。その中で、医学的な知識を駆使して「この制度が使えるのでは?」と提案するのも医師の大切な役割です。どのような制度が使えるかなど、患者さんだけで見つけるのは非常に困難です。医療知識だけでなく、福祉制度まで熟知していなければ務まりません。病院の中だけでなく、退院後の生活まで見据えてどんな準備ができるか。それを考えることがリハビリ科医の使命です。


“レジェンド”に学びリハビリの道を目指す

私がこの道を選んだきっかけは、母校である藤田医科大学の才藤 栄一(さいとう えいいち)先生(現・藤田学園最高顧問)の授業に感銘を受けたことです。「病気は治っても、元の生活には戻れないかもしれない。そのとき、医療者は何ができるのか」。その問いかけが、リハビリ科への興味を掻き立てました。今もその思いは変わりません。病気が治った後の体で、どう生きていくか。よりよい生活をどう送るか。それを患者さんと一緒に考え続けています。

私のライフワークは、社会全体のノーマライゼーション(障がいの有無にかかわらず平等に生活できる社会)を推進することです。たとえば、片麻痺の人が歩きやすくなる「下肢装具」というものがあります。しかし、「つけている姿を見られたくない」「恥ずかしい」と拒否される患者さんが少なくありません。装具が必要な人がいることを社会全体が理解し、当たり前に受け入れられる世の中をつくるお手伝いができたらと思っています。

そのためには社会全体の意識改革も必要です。日本には「ハレ(非日常)とケ(日常)」という文化がありますが、日常だけでなく、お祭りなどの「ハレの日」にも、障がいのある人が当たり前に参加し、周囲も自然にサポートできる。そんな社会を作っていきたいと考えています。


一緒に同じ目標に向かうチームの一員に

リハビリ医療は、多種多様なスタッフが関わる「チーム医療」の最前線です。医師、看護師、療法士だけでなく、検査技師や事務スタッフまで、全員が「患者さんの在宅復帰」という同じ目標に向かって連携しています。 もしリハビリ医療に関心のある人がいれば、ぜひ職種の垣根を越えて、チームの一員として共に歩んでほしいと思います。私たちは、そんな熱意ある仲間と共に、患者さんの生活を支え続けています。

【関連情報】排泄リハビリテーション(世田谷記念病院)

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