• facebook
  • facebook

女性の“てんかん”――ライフステージに合わせた治療の重要性とは

新宿神経クリニック 院長 渡辺雅子先生

てんかんは、神経疾患の中ではもっとも頻度が高い病気のひとつで、1,000人当たり5~10人の割合でみられます。一生のうち1回でも発作を経験する人の割合は人口の約10%で、日本には約100万人のてんかん患者さんがいます。1995年からてんかんを専門として治療に従事してきた渡辺 雅子(わたなべ まさこ)先生に、女性のてんかん患者さんに対するライフステージに応じた治療の重要性とポイントについてお話を伺いました。


女性のてんかん――ライフステージに合わせたてんかん治療の重要性

思春期には、“親からの自立”が課題。自分の病気について知ることが大切

女性のてんかん患者さんには、特にライフステージを考慮した包括的なカウンセリングを行う必要があります。たとえば、思春期には、妊娠や出産についての基礎知識とてんかんの病態と治療への理解を促します。中学生、高校生の患者さんは小児科に通われている方も多いのですが、将来的な妊娠の可能性を考えると、どこかの段階で成人のてんかんに対応する診療科、たとえば精神科や脳神経内科、脳神経外科などに移行していただきたいです。

親から自立し、患者さんがご自分の病気について知ることは、薬を飲む意味や、飲まないことで起こり得ることを理解することにもつながるため、意義は大きいと捉えています。

 

妊娠に際しては、胎児に対してより影響の少ない薬剤の選択、葉酸の補充を行う

女性の患者さんからのご相談では、妊娠、出産に対する抗てんかん薬の影響に関する質問が多いです。妊娠、出産に関しては、リスクを減らすためにできるだけ計画的な妊娠、出産をすすめます。そして、抗てんかん薬の治療を継続する場合には、妊娠前から催奇形性リスクの少ない薬を選択することが重要です。

 

抗てんかん薬が胎児に与えるリスクは主に、形態異常(先天性心疾患など)です。また、薬の種類によっては、子どもの知能の低下や自閉症などのリスクが指摘されています。形態異常は一般人口においても一定の割合で存在しますが、一部の抗てんかん薬の服用によってそのリスクが増加することが分かっています。しかしながら、リスクは薬によって異なりますし、リスクの少ない薬を選択することは可能です。「てんかんの治療を続ける限り、妊娠や出産はできない」と考える患者さんもいらっしゃいますが、そのようなことはないので、諦めずに相談していただければ幸いです。

 

写真:Pixta

 

妊娠と出産時には、以下の点に留意しててんかんの薬物療法を行います。

 

  • 単剤投与を原則とする
  • 投与量は必要最低限にする
  • できるだけ先天性心疾患などの発生リスクの少ない抗てんかん薬を選択する
  • 妊娠期間中、抗てんかん薬の血中濃度の変動に注意する

 

また、妊娠の可能性があるてんかん患者さんに対しては、妊娠前から葉酸の補充(0.4mg/日)を行います。葉酸はほうれん草や干ししいたけなどに含まれる微量栄養素ですが、食事だけでは不足しがちなのでサプリメントの活用を推奨しています。

 

中高年期には、骨粗しょう症に注意が必要

抗てんかん薬の中には、長期服用によって骨密度を低下させるものがあります。そのため、長期間抗てんかん薬を服用している方の場合には、骨粗しょう症にも注意が必要です。特に女性は閉経に伴って骨量が急激に低下するため、女性、高齢、てんかんという3つの要素が揃う場合は“骨折予備軍”と考えるべきでしょう。

また、高齢で発症するてんかんには認知症を原因とするものがあり、記事1でもお話ししたように、認知症との鑑別が難しいという特徴があります。


今後の課題の1つは、てんかん患者さんが美容医療を受けやすい環境づくり

近年、課題として捉えているのが、“てんかん患者さんが美容医療を受けやすい環境づくり”です。きっかけは、エステサロンや美容脱毛クリニックなどで、てんかん患者さんが病気を理由に施術を受けられないという事例を知ったことです。なかには、主治医の診断書を持参しても断られてしまうケースがあると聞きました。

施術に伴う痛みやストレスによる発作を懸念してのことかと思われますが、それは歯科の治療でも同じはずで、てんかんを理由に断られてしまうのは問題だと考えています。てんかん症候群の中には、強い光に反応する“光過敏性発作”のある方がいらっしゃいますが、全ての患者さんが該当するわけではなく、一般的に光過敏性は加齢とともに弱まります。光感受性てんかんの頻度は、4,000人に1人と少ないのです。

 

抗てんかん薬の中には、体毛が濃くなるという副作用を持つものがあり、そのような薬を服用しているてんかん患者さんこそ美容脱毛が必要です。また、子どもの頃にてんかんを発症されてからすくすくと成長し、治療によって発作も治り、日々の生活を楽しんでいたところに、このような差別を受けたことでひどく落胆される方もいらっしゃいます。あるいは、差別を乗り越えてきた方が、美容脱毛さえも受けられないのかと苦しまれているケースもあります。

私は、このように、てんかんを理由にさまざまなチャンスを失う患者さんがいるという現状を変えたいのです。そのために、日本てんかん学会を中心に、皮膚科や美容医療関連の学会と連携し、てんかん患者さんがより安心して生活できる社会づくりに貢献したいと思っています。

記事一覧へ戻る

あなたにおすすめの記事

詳しくはこちら!慢性期医療とは?
日本慢性期医療協会について
日本慢性期医療協会
日本介護医療院協会
メディカルノート×慢性期.com