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災害に強い地域・病院づくりのポイントと具体策――慢性期病院への期待

一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム 理事長 有賀徹先生

災害やテロ、システム障害などの発生時にも組織の事業を継続することを目的として、限られた必要資源を基に非常時の優先業務を目標時間・時期までに行えるよう策定する「事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)」。医療分野では2017年に災害拠点病院にBCP策定が義務付けられました。災害に強い地域・病院体制はどのように形成されるのでしょうか。一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム(災害時福祉・医療機能存続事業連合体)理事長の有賀 徹(あるが とおる)先生にお話を伺いました。【後編】


災害に強い地域の「3層構造」とは

災害に強い地域は、3層構造で成り立ちます。その3層とはすなわち、「病院」とそれを取り巻く「医療・介護組織」、それ以外の「地域の多様な関係者」です。

 

災害に強い地域づくりを理解するための3層構造

 

Healthcare BCPコンソーシアムは、この3層構造を前提に「災害に強い地域づくりに向けた病院の評価基準」を開発しました。その評価基準には3つの領域があります。すなわち▽病院としての機能存続と地域におけるリーダーシップ▽災害への備えとしての医療・介護連携の推進と支援▽地域における防災力の向上への支援――です。

 

その3領域は、以下のとおりそれぞれ詳細な評価項目に分かれています。

 

1)病院としての機能存続と地域におけるリーダーシップ

└1.1:災害の備えを進めるための組織体制

 └1.1.1:充実した組織体制

 └1.1.2:病院全社員を対象とした教育・研修

 └1.1.3:自治体等の地域関連組織との取り決め

└1.2:病院BCPの実効性

 └1.2.1:委託業者・地域住民等を含む実践的訓練の実施

 └1.2.2:防災消防計画、保健医療計画(都道府県・市区町村)との整合性

 └1.2.3:BCPの見直し体制と改定歴

└1.3:自院が対象とする圏域の把握

 └1.3.1:日常診療圏の把握

 └1.3.2:制度上と実際の圏域との異同の確認

 └1.3.3:診療圏把握の取り組み

 

2)医療・介護連携の推進と支援

└2.1:医療・介護連携の強化を促す院内体制

 └2.1.1:地域連携に関する組織体制の整備

 └2.1.2:災害対策に関する担当部署と委員会における地域連携部門の位置付け

└2.2:医療関連団体に対する「災害への備え」に対する啓発

 └2.2.1:医師会・病院団体との連携状況

 └2.2.2:病院の平時の病院連携・病診連携を通した取り組み

└2.3:医療介護関連組織の、災害医療の啓発活動への支援

 └2.3.1:病院から医療介護関連組織への災害医療に関する研修会の開催や支援

 └2.3.2:医療介護関連組織が開催する災害医療に関する検討会・研修会への参画

 

3)地域における防災力の向上への支援

└3.1:地域防災力向上へのリーダーシップが発揮されるための院内体制の構築

 └3.1.1:日常業務で関連する組織の担当部署

 └3.1.2:日頃関係のない組織の担当部署

└3.2:日頃関係のある組織との連携

 └3.2.1:救急時・災害時に連携することになるメディカルコントロール協議会

 └3.2.2:そのほかの組織

└3.3:日頃関係の薄い組織との連携状況

 └3.3.1:地区防災組織を含む地域防災・災害対応組織

 └3.3.2:民生委員等の地区組織

 └3.3.3:社会福祉協議会

 └3.3.4:ボランティア活動

 

これら評価項目を見ても分かるとおり、BCPはもはや一病院の範囲では収まらない話なのです。「病院」を中心に据えたとき、その周りには「医療・介護組織」があり、それ以外の「地域の多様な関係者」も含めた地域という単位で考えなくてはなりません。さらにそれを具体的にすれば、平時における医療機関同士の前方連携・後方連携という流れがまさにBCPにシンクロするという視点が必要です。

これからの時代には“公的”な視点での連携が必須であり、それは民間病院も例外ではありません。その根幹を成すものが、地域ごとの医療需要・医療機能を見据えた「地域医療構想」というわけです。その地域を守らなければ、病院も立ち行かなくなります。「自治体に丸投げ」ではいけません。災害の発生を前提とした地域社会を生き抜くためには、視点の切り替えが必要です。


地域の災害レジリエンス向上――慢性期病院への期待

地域医療・社会を守るために慢性期病院が活躍できる場面として、先の評価基準における「2.3:医療介護関連組織の<災害医療の啓発活動>への支援」が考えられます。たとえば、地域の介護施設などに赴き感染症対策や救急搬送トリアージ(多数の傷病者が発生した場合に、傷病の緊急度や重症度に応じて治療優先度を決めること)の方法を伝えることも大切な役割でしょう。手洗いの手順など医療現場では当たり前のことも、介護施設や一般の方々は分かりません。またトリアージタッグの取り扱いを伝えることで、救急搬送時や発災時における迅速な対応が可能になるでしょう。

 

写真:PIXTA

 

実際、発災時には医療ニーズが急増します。傷病者が適切にトリアージ・搬送できるかどうかは、現場の対応力やその後の地域社会の回復力に影響を及ぼすのです。適切なトリアージを前提に、自力で歩ける・軽症の方を慢性期病院で引き受ける体制構築を進めておくことで、地域の災害レジリエンスは高まるでしょう。


「Healthcare BCPコンソーシアム」への参加を

災害時の福祉・医療機能を存続させるための事業連合体として、2017年に「一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム」を設立しました。“自然災害大国”ともいえる日本において現在のような病院単体でのBCPでは不十分であり、今後はさらに地域に根差したヘルスケア(医療・介護福祉)BCPが必要です。当コンソーシアムは異なる視点や専門性を持った者たちが英知を結集させ、実効的なヘルスケアBCPを構築する場として学びを深めています。災害医療・BCPを勉強したいという方は、奮ってご参加ください。

 

2018年コンソーシアム設立記念シンポジウムにて 講演の様子

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