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IMSグループにおける人材への取り組み――巨大組織のマネジメントとは

医療法人IMSグループ 会長 中村 哲也先生

IMSグループは関東・東北・北海道・ハワイに全134施設を有し、総職員数は24,268人にものぼる総合医療・福祉グループです(2022年4月時点)。そんな巨大組織におけるマネジメントの秘訣とは――。「医療は人材が全て」と語る、IMSグループ会長の中村 哲也(なかむら てつや)先生に、人材面に注力する理由や取り組みについてお話を伺いました。


人材に注力するIMSグループ

IMSグループでは、経営効率を上げるために薬剤や医療材料など共同購入できるものはロットで仕入れ、規格を統一させることで単価を抑えるなどの工夫をしていますが、それ以上にもっとも力を入れて取り組んでいるのが人材の発掘と育成です。人が組織を作るという考えに基づき人材面に力を入れており、IMS基本方針にも「医療人としての自覚と技術向上への教育」を掲げています。


初期研修医とのコミュニケーション

初期研修医など若手医師にとって、医学的な勉強はもちろん必要ですが、医療以外の社会的な勉強も大切です。しかし今はそのような学びの機会が昔に比べて少ない印象があります。かつて行われていた製薬企業による接待なども、今思えば駆け出しの医師にとってはよい社会勉強の場だったのではないでしょうか。

 

アメリカでは月に1回ほど上級医が研修医をおもてなしする慣習があると、研修医教育に関する本で読んだことがあります。そこで初期研修医に対する慰労の意も込めて、お互いの情報交換や上級医と研修医のコミュニケーションの場を積極的に設けるようにしています。最近は新型コロナウイルス感染症の影響でできていませんが、初期研修医と会食をしたり、我が家に招いてバーベキューをしたりしています。院内ではなかなか話せないようなことも、場所が変わって雰囲気が変われば自然と話せるようになることもあるのです。またそういったコミュニケーションの中で、私自身も刺激を受けながら今後の医学教育・卒後教育をどのように行えばよいのか学ばせてもらっています。


ハワイ「ハレホアロハ・ナーシングホーム」を持つ意義

IMSグループにはハワイに「ハレホアロハ・ナーシングホーム」という介護付有料老人ホームがありますが、この施設も人材という点において重要な意義を持っています。

 

日本で寝たきりの高齢者が社会問題となっていた頃、我々としても解決策を模索していた時に、ちょうど銀行からハワイのナーシングホームの物件を紹介されて現地へ見に行ったことがありました。そこでは高齢者を寝たきりにさせるのではなく、常に体を起こしたり手足を動かしたりなど、リハビリテーションまではいかなくともアクティビティを積極的に行っていました。そして帰国後、ちょうど日本でも介護老人保健施設の概要などが発表され、まさにハワイで見た光景と同じことが言われていたのです。「やはり、あれが将来必要とされる医療の形だ」と感じ、すぐにハワイのナーシングホームを譲受しました。

 

ハワイはアメリカの中でも高齢者が多く、高齢者の医療・介護分野のモデルケースとして学ぶのに最適です。そこでIMSグループではハワイで4泊6日の幹部研修を開催し、ハレホアロハ・ナーシングホームを含め、現地の施設や病院を見学しています。まずその中で感じたのは、医療・介護者は「心」でケアすることが大切だということです。アメリカは多民族国家のため、言葉が通じない人に医療・介護をしなければならないことが多々ありますが、彼らにとって、それは何ら障壁ではないようです。大切なのは最新の医療機器を持っていることでも、単に優しい言葉をかけることでもありません。それを知るだけでもハワイに行くことは大いに価値があります。

 

また研修中は毎晩遅くまで反省会を行い、最終日には全員でダイヤモンドヘッドに登って頂上で写真を撮ります。全員で1つの同じことに取り組むことで一体感が生まれ、団結力も高まります。これもハワイ研修の目的であり、我々が「ハレホアロハ・ナーシングホーム」を持っている意義でもあります。

 

提供:PIXTA


組織を前進させるスピリット「協調・協力・競争」

IMSグループでは働くうえでのスピリットとして「協調・協力・競争」を大切にしています。医療の現場においては、全員が同じ目標に向かって同じ考え方を持つ「協調」が必要であり、チームで「協力」して物事に取り組んでいくことが重要です。そしてほかの病院(ライバル)の取り組みや存在を意識する「競争心」も加わることで、組織が大きく前進していきます。

 

この「協調・協力・競争」の精神を培えるのが運動会です。IMSグループでは毎年約6,000人が集まり、病院対抗の運動会を開催しています。優勝という目標を掲げて病院全体が協調し、他部署と協力しながら本番に向けて練習を行う。その中でライバルには負けたくない、今年こそは絶対勝つなどという競争心も芽生えます。しかし、ただ集まって開催すればよいというものではありません。運動会を通して「協調・協力・競争」のスピリットを培ってほしいということは、最初にメッセージとしてしっかり伝えるようにしています。


IMSグループへの愛着の醸成――IMS旗のもとに

私はIMSグループの2代目として、創業者である父が取り組んできたことをそのまま踏襲するだけではいけないと考えています。先述した運動会も含め、1つ1つの取り組みの意義を改めて伝えていくことは、私に課された責任です。

しかし職員に対して、代表である私のもとに集まってほしいという考えはありません。グループ全員が同じビジョンを共有し、IMS旗のもとに集まってほしいという思いを込めてIMSグループのロゴや旗を作りました。運動会や学会では旗やロゴを掲げていて、職員が「”うち”のロゴだ」と仲間意識を持って言ってくれるのが代表としての喜びです。


医療は人材が全て――その発掘と育成

IMSグループでは「医療は人材が全て」という考えのもと、その発掘と育成には力を入れてきました。たとえば、グループで最初に分社化した臨床検査部門では、臨床検査技師を病院で雇用するのではなく、臨床検査部門が会社として募集、面接、採用を全て行い、グループ内の各病院に配属させています。

また、病院というのは主に資格を持つ医療従事者で構成される資格社会ですが、事務職には特に資格がなく、有資格者に対して少し劣等感を抱いてしまう場合があります。そこで、IMSグループ独自で事務の認定試験を行い、初級・中級・上級とステップアップを目指してもらっています。上級合格者はほんの一握りと難易度が高いですが、事務長への昇格など明確なインセンティブを与えることで、高いモチベーションで試験に臨めるようにしています。

そのほか、自由に講座を受講して資格が取れるIMSスクールを構築したり、グループ内でIMS看護学会、IMS事務学会、IMS栄養学会など職種ごとの学会を定期的に開催したりするなど、全職員が学び続けられる環境を整えています。

 

提供:PIXTA


IMSグループとしての今後の展望

SDGs(持続可能な開発目標)への取り組み

 

近年、SDGs(持続可能な開発目標)*に取り組む企業や団体が増えていますが、IMSグループでもSDGsに対して取り組むべき項目を整理し、それをしっかりと形にできるように取り組んでいます。一例を挙げると、ジェンダーレスへの取り組みがあります。たとえばLGBTの方の中には、健康診断などで受診する場所に困るという方も多いです。そうした方が不自由を感じることなく病院に行けるよう、環境を整えていく予定です。同様に、視覚障害・聴覚障害などハンディキャップを持った方たちに対する環境整備も行っていきます。多様性を持った人たちに対してそれぞれに合った医療の形を提供していくことが、我々の今後の展望の1つです。

 

*SDGs(持続可能な開発目標):「誰一人取り残さない」持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標。2030年を達成期限として17の目標と169のターゲットから構成されている。

 

さらなる病院の拡充――海外への展開も

 

IMSグループは開業から今に至るまで成長・拡大を続けてきましたが、今後さらに病院・病床を拡充していくことを常に視野に入れています。また国内だけにとどまらず、海外とも積極的に接点を作って展開していきたいと考えています。このたびご縁をいただき、2022年7月にイギリスのオックスフォード大学にIMSインスティテュートが完成します。ここでは再生医療に関する研究を行う予定で、IMSグループからオックスフォード大学へ留学ができる体制を整えています。また日本の人口減少に伴う医療マーケットの縮小に備えて、将来的には医療インバウンドにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

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