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HITO病院の医療DX――医療現場に変革をもたらすiPhoneの活用法

社会医療法人石川記念会 HITO病院 理事長/石川ヘルスケアグループ 総院長 石川 賀代先生

少子高齢化により医療・介護ニーズは高まるなか、医療の質向上と働き手の確保は医療現場に突き付けられている大きな課題です。その解決策として、医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)*を進めている病院が愛媛県にあります。iPhoneをキーデバイスとした医療DXの事例とは――。社会医療法人石川記念会 HITO病院 理事長/石川ヘルスケアグループ 総院長の石川 賀代(いしかわ かよ)先生に、同院における医療DXの取り組みについて伺いました。

*DX(デジタル・トランスフォーメーション):ICT(情報通信技術)の浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させること(2004年にエリック・ストルターマン教授<スウェーデン・ウメオ大学>が提唱した概念。)


未来創出HITOプロジェクト

日本では少子高齢化により、生産年齢人口(15〜64歳)の減少が続いており、これから働き手の確保がますます難しくなっていきます。そうしたなか、医療(特に高齢者に対する)の質を落とさずに、いかにして病院業務を効率化していくかを考えたとき、ICT(情報通信技術)を積極的に利活用する必要があるだろうという答えにたどり着きました。そして2017年1月に「未来創出HITOプロジェクト」を始動し、医療DXを進めてきたのです。


ICT改革・医療DXをどう進めてきたのか? もたらされた成果

未来創出HITOプロジェクトの始動から約5年、これまで4つのステップに分けて段階的にICTを医療現場に浸透させてきました。その主な事例を紹介します。

 

ステップ1――iPhoneの導入

最初に始めたのがiPhoneの導入です。ちょうど院内PHSの保守が切れるタイミングとなり、リハビリテーション部で100台ほど導入したのが始まりです。アプリを使用したカルテの音声入力を試みたところ、カルテの入力時間短縮、時間外労働の削減につながったことから、徐々に台数を増やしていき、最終的には日勤帯スタッフ全員に行き渡るようにしました。iPhoneを使ったモバイルカルテの導入によって、看護師の本来業務であるベッドサイドでのケアの時間が100分創出できたことも数値として出ています。

 

ステップ2――業務用SNSの活用

コミュニケーションを飛躍的に改善させたのが、業務用SNSです。SNS導入前は、電話による1対1のやりとりが主流でしたが、外来や手術で忙しい医師に電話はかけづらいですし、タイミングを見計ってもなかなか電話がつながらずに業務に遅れが生じることもあります。また、電話を受ける側としても、不急の電話で業務が中断されることは大きなストレスとなるでしょう。

しかしSNSであれば、隙間時間でメッセージの送信や確認ができるため、お互いの時間を奪わずに済み、ストレスも軽減します。さらに“1対多人数”でのコミュニケーションが可能となり、多職種協働のチーム医療において円滑な情報共有が実現しました。他者同士のやり取りも目に入るため、自然と知識が共有され、自身の学びにつながる効果も生まれています。

 

写真:PIXTA

 

ステップ3――iPhoneの院外活用

その後、iPhoneの院外活用を進めました。院外でカルテが閲覧できるようになったことで、時間外の緊急呼び出しが多い診療科(脳神経外科や整形外科など)において、時間外勤務時間が大きく減少しています。従来は病院からの連絡があった場合、電話で患者さんの所見を伝えられただけでは判断が難しいため、一度出勤して確認しなければならないケースが多くありました。しかし現在では、院外でカルテを確認したうえで、自身が出勤する必要性を判断できます。労働環境の改善だけでなく、患者さんの状態を医師がすぐに確認できる点は、医療の安全性にとっても重要だと考えます。

 

ステップ4――AI・ロボット活用

現在は、AI(人工知能)やロボットを活用した医療を進めています。たとえば、AIを活用した転倒・転落予測システム、排尿予測デバイス、リハビリテーション用のロボットなどの装着型デバイスを活用しています。

 

DX推進室の体制

医療DXを進めるうえでは、いかに人員を配置するかは重要なポイントです。当院では「DX推進室」を設置し、以下の3名で運営しています(2022年現在)。

 

・CCTO(Chief Clinical Transformation Officer)……ICT導入やDX戦略立案などを担当

・CTO(Chief Technical Officer)……外部調整や全体的なマネジメントを担当

・HIA(Hospital Infrastructure Architect)……アプリやシステムの開発・管理、現場への浸透を推進


コロナ禍でさらに加速したICT化――iPadを使った新人看護師の教育

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大が始まった2020年、当院はすでにICT基盤がほぼ整っている状態でした。そのため、非接触・非対面の発熱外来、iPadを使ったコロナ病床の確認、オンライン診療、院内のビデオ会議など、コロナへの対応はスムーズに進めることができたのです。

そして新型コロナをきっかけに、ICT化はさらに加速しました。特徴的だったのは新人看護師の教育です。当時の新人看護師は臨床実習を十分に受けられずに入職したため、大きな不安感を抱いていたと思います。その不安を少しでも払拭できないかと思い、新人看護師全員にeラーニングが受講できるiPad miniを貸与することにしました。それが功を奏したのか、例年は数名いた1年間の新人看護師の離職者がゼロになったため、まずは向こう3年間、同じ取り組みを続けてみたいと考えています。また指導者にとっても、新人の履修状況や習熟度をすぐに確認できるなど、効率化につながっています。

 

写真:PIXTA


高齢社会における医療DXの可能性

高齢者医療のニーズが今後さらに高まるなか、医療の現場は急性期病院から、回復期・慢性期病院、介護施設、在宅などに移り変わっていくでしょう。そのなかで1つ課題となるのが、医療スタッフから介護スタッフへの情報の伝達です。医療用語やケアの方法について正確かつ分かりやすく介護スタッフに伝えることは、そう簡単ではありません。

石川ヘルスケアグループでは、医療的ケアの方法などについて、動画を使った情報共有をしています。たとえば、嚥下(えんげ)機能が低下している患者さんがいた場合、スプーンに乗せる食べ物の量や飲み込むスピードなどを言葉で伝えようとすると難しい表現になってしまいますが、動画であれば一目瞭然です。介護スタッフが適切な医療的ケアができるようになれば、再入院することなく、患者さんが過ごしたい場所で、その人らしい生活を続けられることにつながるでしょう。


医療DX推進の鍵は?

高齢化や生産年齢人口減少という社会課題があるなかで、病院経営を持続させていくために必要な方法は何かを考えたとき、私たちにとってそれは医療DXの推進でした。これからは働き手となる若い人たちに選んでもらえる病院でないと存続は不可能です。ましてや都市部のように自然と人が集まってくる立地環境にない病院はなおさらでしょう。

 

医療DXの推進のために必要なのは、管理者の決断とDXを推進するメンバーだと考えています。また「小さく始めて横展開する」こともポイントだと思います。当院では、ICTへの投資をインフラ整備の1つと考え、数年かけて少しずつICTの利活用を進めてきました。iPhoneやSNSもいきなり全員に使ってもらったのではなく、利便性を知ったスタッフが自発的に活用していった結果、現場に浸透して今の形になっているのです。

 

今後は、これまでのICT利活用のなかで蓄積されたデータをいかに活用するかが課題であり、現在いくつかの企業と協力して新しいシステムの開発やアップデートを進めています。どんなツールやシステムがあればよりよい医療現場になるのかを模索しながら、それをできる限り実装していくことが今後の展望です。

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