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鳴門山上病院薬剤科の薬剤師業務――入退院支援と医療安全活動について

鳴門山上病院 薬剤科主任 熊野晶子さん

徳島県鳴門市にある鳴門山上病院は、主に高齢の患者さんに対するリハビリテーションと療養を提供する病院です。同院の薬剤科は、患者さんの入院前から退院まで関わり、患者さん一人ひとりに合わせた薬物療法の提供を目指しています。

同院の薬剤科長を務める賀勢 泰子(かせやすこ)さん、薬剤科主任を務める熊野 晶子(くまのしょうこ)さんに、薬剤科が取り組む入退院支援と医療安全活動、薬剤師の仕事の魅力などを伺いました。


薬剤科は“鳴門山上病院の薬物療法を支える最後の砦”

当院は、回復期リハビリテーション病床と医療療養病床を合わせて118床のベッドを有する慢性期病院です。薬剤科の薬剤師全員がそれぞれ担当病棟を受け持っており、併設する介護医療院と介護老人保健施設も担当しています。患者さん一人ひとりに合わせたきめ細かな病棟業務と薬剤業務を心がけています。

また、各スタッフが自分の業務だけでなく、ほかの薬剤師の業務内容も把握しているため、スタッフの誰が休んでも業務が滞ることのない体制を築いています。これは病院の医療安全を守ることにもつながります。

薬の事故は命に関わることがあるため、当院の薬剤科のスタッフは、薬のプロフェッショナルとして、“鳴門山上病院の薬物療法を支える最後の砦”という自覚を常に持つよう心がけてきました。何かトラブルがあればメンバー全員で集まって議論し、原因や改善策を確実に見つけ出すよう努力しています。


鳴門山上病院薬剤科の入退院支援

 

当院では、入院相談から退院まで薬剤師が深く関わり、より適切な薬物療法の提供を目指しています。ここでは、入退院支援における薬剤師業務の流れをお話しします。

 

入院検討会議の実施

入院の申し込みを受けたら、患者さんの入院可否などを検討する入院検討会議を行います。院内の医療ソーシャルワーカーから共有された診療情報提供書をもとに、患者さんがどのような薬を服用しているのか、なぜその薬なのか、当院では処方できるのかといったことを検討します。当院で採用していない薬が処方されている場合、転院前の病院と連絡を取り、処方内容を変更しても構わないか相談します。どうしても変更できない薬であれば、薬事審議会で協議し採用を決定した後、入院当日までに準備しておきます。スムーズな処方が可能になるだけでなく、医師の負担も軽減されます。

 

きめ細かな持参薬管理

患者さんが入院されたら、持参薬を薬剤科で預かり、持参薬の鑑別を行います。事前情報と薬の内容が異なったり、ご自宅から別の薬やサプリメントなどを持ってこられたりすることがあるので、服薬状況をあらためて確認し、不要な薬がないか手作業で鑑別します。また、患者さんやご家族と面談して入院前の服薬状況も確認します。このようなきめ細かな持参薬管理によって、適切な薬物療法の提供を目指します。

 

主治医と連携して、より適切な投与を目指す

主治医への処方計画の提案、処方入力支援、持参薬の指示箋の作成なども、薬剤師業務です。

薬の適切な投与量を検討するには検査データが不足している患者さんの場合、血液の凝固異常を判定するPT-INR値の測定や、TDM(治療薬物モニタリング)、腎機能のチェックなど、各種検査の実施を主治医に提案します。検査が行われたら、その結果を基に推奨投与量を算出し、医師に情報提供しています。

 

退院支援を必要とする患者さんのサポート

退院後にご自宅に戻る患者さんがスムーズに在宅医療へ移行できるよう、退院時サマリー(退院時要約)の発行による情報提供を行っています。退院時サマリーには、患者さんの病歴や、入院時の身体所見、検査所見、入院中に実施した医療内容などを記載します。入院中の患者さんの状態を、在宅医療の医師や保険薬局の薬剤師、ご家族や在宅のケア担当者に正しくお伝えすることが目的です。

特に慢性期の患者さんは退院支援を必要とすることが多く、「当院がサポートすることになってよかった」、「当院で得られた情報を在宅医療にも役立ててほしい」と思うケースがよくあります。支援を必要とする患者さんを見逃さず、常に寄り添うことが私たちの仕事です。


鳴門山上病院の医療安全活動

医薬品安全管理

慢性期病院の多くは、急性期病院と比べて採用医薬品数が限られます。そのため、転院前の病院と同じ処方ができないことがありますが、他剤への変更が困難と判断されるケースでは、薬剤を新たに採用することも検討します。

当科の方針としては、初めて採用する薬については、高齢者が使用する場合の安全性などを検討したうえで、慎重に採用を判断しています。なかには、潜在的なリスクが懸念される新薬や、安全管理が特に必要なハイリスク薬もあります。そして、患者さんの入院当日までに、院内の医薬品安全管理委員会において研修会を設け、医師や看護師に採用薬の情報を提供します。

こうした医薬品安全管理の徹底によって、安全に薬を使用できる状況が整うと考えています。もしも薬剤師が持参薬の管理を怠ったら、医療事故につながる恐れもあります。患者さんご自身も持参された薬のことを正しく理解されておらず、たとえば1週間に1回だけ服用する薬を、誤って毎日飲んでしまうといったことも考えられるのです。当科のスタッフは、「本当にこの薬が必要なのだろうか」「注意すべき薬学的ケアのポイントはどこにあるのか」と慎重に確認することを常に心がけています。

 

ポリファーマシー対策

医療安全活動のひとつとして、当院ではポリファーマシー対策に力を入れています。潜在的な不適切処方のスクリーニングツールとして用いられている “beers criteria(ビアーズ基準)”が日本で作成された2005年から活動を始めました。近年では、日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』などの診療ガイドラインに沿って、より適切なポリファーマシー対策に努めています。

特に、入院前から患者さんの持参薬を管理することが重要です。入院時に大量の持参薬があった患者さんの場合、薬剤師が薬を鑑別し、医師との情報共有を重ねて適正化を図れば、種類を抑えることが可能だと考えています。当院が実施した2014年10月~2015年1月の調査において、入院時に11種類以上の薬を処方されている患者さんは全体の4割であり、12週後には約半数の患者さんが薬を5種類以下に抑えられること、全ての患者さんの薬が10種類以内に収まるという調査結果が得られました。薬を減らしても治療を続けることは可能だと明らかになったのです。

ただし、パーキンソン症候群の患者さんや複数の病気を抱えている患者さんは、薬の種類が多くても適正と判断される場合があります。一方、薬が2種類程度しか処方されていなくても、それが過量投与と考えられる場合は量を減らすこともあります。慎重に投与量を決定し、患者さんごとに合わせた対応をすることが大切です。


効率的な薬物療法を目指して工夫することが大きなやりがい

 

私たちは、入院時の関わりを通して、あるいは病棟の看護師やリハビリテーションスタッフなど多職種から患者さんの情報を得ており、その中には医師が把握していない情報が含まれていることがあります。そこで、気づいたことがあればさまざまな情報を整理して医師に伝えることで、薬物療法に反映させることを提案します。その結果として、すぐに薬が変更されたり減ったりするわけではありませんが、個々の患者さんに応じた薬物療法を支援するために医師へ情報提供や処方の提案をすることは、薬剤師の大切な役割だと考えています。

さまざまな職種と共に、より効果的な薬物療法を目指して工夫することに、大きなやりがいを感じています。

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