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“高齢者に優しい病院”であるために――仁風会の思いと取り組み

一般財団法人 仁風会 理事長 清水紘先生

一般財団法人 仁風会は、高齢者に優しい病院を目指し、京都で嵯峨野病院と京都南西病院という2つの病院を運営しています。また、同法人は、JICWELS(国際厚生事業団)やメディカ出版を通じてフィリピンから来日した方をケアワーカーとして採用するなど、外国人介護人材の支援に積極的に取り組んでいます。理事長の清水紘先生に、仁風会の思いと取り組みについてお話を伺いました。


一般財団法人 仁風会のあゆみ

当法人は、1951年に私の父が京都四条大宮病院*を開設したことに端を発します。京都四条大宮病院は、京都市における救急病院として第一号の告知を受けました。
1950年代の日本は、結核が国内に蔓延し、「結核は国民病」とも言われた時代でした。そのようななか、父は、1954年に嵯峨野病院を結核療養病院として開設。その後、国を挙げて結核対策を進めたことで、結核の患者さんは徐々に減少していきました。嵯峨野病院は、時代の流れや社会のニーズに応じて、徐々にその形を変えてきたのです。

1988年には、ここ京都南西病院を開設しました。現在(2019年11月時点)、当法人は、慢性期医療を専門とする嵯峨野病院(180床)と、療養病床と地域包括ケアを備える京都南西病院(135床)の運営を主軸に、通所リハビリや訪問介護、居宅介護支援などの介護関連事業も展開しています。また、外国人介護人材の支援に積極的に取り組み、主にフィリピンからの人材受け入れを実施しています。
*京都四条大宮病院は、1993年に閉院


一般財団法人 仁風会のポリシー

高齢者に優しい医療を提供する
まず何よりも、高齢者に優しい病院であること。これが私たちのポリシーです。
高齢者に優しい病院とは、身寄りのない方や生活保護の方も受け入れる病院であり、そして、どのような患者さんに対しても尊敬の念を持って接することが重要であると考えています。たとえば、認知機能が低下している患者さんに対して、「○○ちゃん」と子どものように呼ぶことなど、もってのほかです。もし親しみを込めて呼んでいたとしても、同じように自分の義父や義母を呼ぶだろうか、と考えたとき、きっと多くの方はそうではないでしょう。当たり前のことですが、どんな状態の患者さんであっても、常に敬意を持って接することが、当院における基本的なポリシーです。

 

そして、私たちは、患者さんに寄り添うことが何よりも大切であるという考えにもとづき“まごころ医療宣言(1995年制定)”を掲げ、日々の診療、ケアに取り組んでいます。

 

1. 患者様とお呼びします
2. 患者様には常に真心と気配りそして優しい言葉と笑顔で接します
3. すすんであいさつをします
4. 患者様から頂き物はしません
5. いつも快適で明るく清潔な病院づくりに努めます
6. 患者様には常に適正な医療を提供します
7. 医師による説明と患者様の選択による医療を進めます
8. 患者様のプライバシーを尊重します
9. より良い医療が行えるよう研修・研鑽に励みます
10. 患者様の人生が最後まで豊かでありますようその意志を尊重します

 

この“まごころ医療宣言”という心がけは、法人として当然のことだと考えます。もしこのような取り組みが珍しいものであると言われるならば、医療界がおかしいのでしょう。私は、患者さんを尊重し、尊厳を守る医療、ケアが、世の中で当たり前になることを、切に願います。


一般財団法人 仁風会における慢性期医療の実践

 

栄養ケア――美味しい食事を提供し、まずは患者さんに食べてもらうこと

私が理事長として職員にたびたび伝えているのは、“美味しい食事の大切さ”です。

栄養状態が低下していると、せっかくの治療やリハビリの効果が現れにくくなってしまいます。さらに、高齢者は基礎的な体力が低下しているため、しっかりと食事をして栄養状態を維持し、体力を保つことが重要です。そのためには、病院で美味しい食事を提供するがことが必要なのです。

患者さんの中には、病院で亡くなる方もいらっしゃいます。ですから、私は管理栄養士には、「毎食、心を込めてつくろう。これより美味しい食事はないと思えるものをつくって提供してほしい」と伝えています。

 

また、当院では、基本的に食べ物や飲み物を制限しません。もちろん主治医の許可、ご家族の確認は必ずとりますが、たとえば飲酒についても、ご本人が飲みたいとおっしゃれば、週に1回、アルコールを提供する日を設けています。

 

退院後アンケートと投書箱を活用し、定期的に業務改善を行う

当院では、退院後の患者さんを対象に郵送でアンケートを実施し、指摘された部分に対して早急に改善するよう努めています。入院中には患者さんが本音を言いにくいかもしれないという可能性を考慮し、当院では退院後にご意見をいただくようにしています。

 

また、投書箱を設置し、毎日中身を確認し、その内容をもとに業務改善や運営方針の検討を行っています。また、院内の多職種で持ち回り制の“院内探検隊”を結成し、月に1回院内をまわり、業務改善できる部分の有無と、改善するべき内容をくまなくチェックしています。自分たちが見慣れた光景でも、ほかの方々から見ると改善の余地がある、ということは多く、新鮮で貴重な意見が集まることがメリットです。

 

外国人介護人材の支援を積極的に行っている

私たちは、JICWELS(国際厚生事業団)やメディカ出版を通じてフィリピンから来日した方をケアワーカーとして採用するなど、外国人介護人材の支援に積極的に取り組んでいます。なぜフィリピンなのか。そこには理事長としての思いがあります。皆さんは、エルピディオ・キリノ・フィリピン共和国元大統領の存在をご存知でしょうか。

 

キリノ大統領は、太平洋戦争中、自分の夫人と子ども3人を失いました。しかし、1948年からフィリピンの大統領を務め、1953年、フィリピンのモンテンルパ刑務所に服役していた105名の日本人戦犯がキリノ大統領の恩赦により、全員釈放されました。

彼は、戦後の激しい反日感情と批判を恐れず、「自分の子どもや国民に、我々の友となり、我が国に末永く恩恵をもたらすであろう日本人に対する憎悪の念を残さないために、これを行うのである」との声明を発表しました。キリノ大統領の恩赦は、1956年7月のフィリピンと日本の国交正常化に大きく寄与したのです。

私はこの出来事を知って胸を打たれ、何らかの形でフィリピンに恩返しをしたいと思いました。そして、フィリピンから積極的に外国人介護人材の受け入れを行うことにしたのです。

 

ケアワーカーとして働くクリセルダさん(左)、看護部長の加藤さん(右)と共に

 

実際にケアワーカーとして働いてくださっているフィリピンの方々は、皆さん優しくて、介護の仕事によく合っていると思います。彼らが持つ明るさと優しさには、フィリピンという国の国民性や宗教観なども関係しているのかもしれません。あとは、皆さんよく笑うので、素敵だなと思いますね。

*ケアワーカーとして働くクリセルダさんへのインタビューは、こちらの記事をご覧ください。


これからの展望、叶えたいこと

夢は、好きなときに入浴と食事ができる環境の実現。そのために努力を続ける

当法人の病院は、その性質上、患者さんが人生の最期を過ごす場となる可能性があります。ですから私たちには、患者さんの思いを尊重し、その尊厳を守り、それに合った医療、ケアを提供する使命があるのです。

私が夢に思い描くのは、患者さんが好きなときに入浴でき、好きなときに食事ができるような環境です。なぜなら、それは自宅での姿と同じだからです。ただ、現実的には、介護人材の不足などにより難しい部分は少なからずあります。その夢に一歩でも近づくために、私たちは外国人介護人材を積極的に受け入れ、支援を行っています。

いつか、本当に理想とする環境を叶えられるよう、これからも努力し、患者さんやご家族に喜んでいただける病院であり続けたいと思います。

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