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認知症ケアのポイント――人間関係を基盤とした「安心できる環境」作り

株式会社あおいけあ 代表取締役 加藤忠相様

海外からも見学や視察がやって来る、神奈川県藤沢市の介護事業所「あおいけあ」。敷地内には認知症をお持ちの方がスタッフのケアを受けながら共同生活を送るグループホームと、宿泊・通い・訪問という3つの介護を担いご本人の在宅生活を支える施設があります。敷地を囲む塀を取り払い、地域に開かれた「集まれる場所」として多世代が交流する温かい空間です。ユニークかつ本質的な認知症ケアを行う同事業所の代表の加藤忠相(かとう ただすけ)さんに、そのポイントを伺いました。


困っていることを取り除き安心できる環境に

私たちは幼い頃から「自分がされて嫌なことはほかの人にしない」ということを教わってきました。しかし介護の現場はどうでしょう。特に認知症を持つ方のケアにおいては、症状や行動を理由に「支配・管理」をしてしまいがちではないでしょうか。それがたとえ本人にとって嫌なことであっても。それはやはりおかしいですよね。

大切なポイントは、ご本人が安心できる環境を作ったうえで、困っていることを取り除いてあげることです。「ここは安心できる」「この人は大丈夫だ」と思える環境であれば認知症の周辺症状(BPSD*)はきっと治まるはずです。何か困っていることがあるから、それが周辺症状として現れていると考えるとよいでしょう。

そして本人が困っていることを見つけたり、安心できる環境を作ったりするためには十分なアセスメント(情報収集)が重要となります。すなわち、より生活に関するパーソナルな部分、たとえばご本人の性格や趣味、嗜好、生活史、家族構成、信念(宗教観)などを考慮したケアが必要なのです。

*BPSD:認知症の中核症状(記憶障害、見当 識障害、判断力の低下など)に伴ってみられる行動・心理症状。易怒、妄想幻覚、不眠、暴力暴言、徘徊、介護括抗、抑うつ、拒食など種々の症状がある。

 

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症状や行動を「病気のせい」にしない

ケアを行ううえでもっとも大切かつ基盤となるものは「人間関係」です。それを象徴するKさんのエピソードをご紹介します。

Kさんはアルツハイマー型認知症のために生活力が低下し、家がゴミ屋敷のような状態になってしまっていました。食事や入浴も満足にできない状態だったため、民生委員(民生委員法に基づき厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員)や地域包括支援センターの職員が何度も自宅を訪れ、介護サービスへの橋渡しを試みましたが、追い返されてしまったといいます。そこで当事業所へ相談が来ました。

2人のスタッフを担当に決めて、1日5~6回お家を訪問することに。最初から「あおいけあに来てください」「お風呂に入りましょう」とは伝えません。Kさんが飽きないように2~3分だけ笑顔で楽しい話をして、帰ります。そんなことを繰り返していくと、あるとき「あなた、また来てくれたの」とKさんから声をかけてくれるようになりました。そこで「地域の清掃活動をするのですが、手伝ってくれませんか」と声をかけ、Kさんは「あんたのお願いならいいよ」と承諾してくれました。実際に清掃活動をしていただき、お礼とともに「汗をかいたと思うので、お風呂どうですか」とお誘いして、見事1年ぶりの入浴が実現したのです。

なぜKさんはスタッフの声かけに応じたのでしょうか。ポイントは人間関係の構築です。認知症では脳の海馬という部分が傷害され、新しい情報を記憶するのが難しくなります。しかし一方で感情を司る扁桃体の機能は残るため感情は強く記憶されるといわれています。そのため何度も足を運ぶなかで顔を覚えてもらい、楽しい時間を一緒に過ごすことで「この人なら安心だ」という感情を積み重ねることができたのです。


コミュニケーションのポイントとは?

前項でお伝えしたように、認知症をお持ちの方の場合は相手との具体的なエピソードよりも感情が強く残りやすいため、よい感情を積み重ねることが非常に重要です。ただ、これは「認知症」に限らず、通常のコミュニケーションにおいても大切なことですよね。

自立支援を前提にした本質的なケアにおいては利用者さんに主体的に動いていただくことが重要です。それを実現するには声かけ1つにもコツがあります。たとえば料理を作るときに「Aさんはこの野菜を切ってください」と指示してしまいがちですが、そうではなくあくまでも本人が主体となるように「この野菜はどう切ろうかな。Aさん、味が染みる方法を知っていますか?」などと聞くと「ほら、貸してみなさい」と野菜を切ってくれます。

 

主体的に行動できる声かけが重要

 

このように、何か作業を「やらせる」のではなく、主体的に参加したいと思える声かけが重要です。ご本人としても指示されるよりは気持ちがよいはずですし、自分の能力や知識が役に立っていると実感する機会が増えます。このような声かけは、認知症をお持ちの方をご家族が自宅で見ている場合でも有用です。家族だと距離が近すぎてそれまでのコミュニケーションを変えるのが難しかったり、優しく声をかけるのが恥ずかしかったりするかもしれませんが、本人が主体的になれる声かけを意識していただくのは大切なことだと思います。

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