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見た目には分かりにくい「高次脳機能障害」の症状や生活への影響・・・3人の体験談

Solaeさん、のんさん、やまみさん

「高次脳機能」とは言語、記憶、視空間認知(物の位置や向きを認識する能力)、思考といった複雑な神経の機能です。外傷や病気などで脳が損傷すると「高次脳機能障害」をきたすことがありますが、その症状は幅広く回復の経過はケースによって異なります。また見た目では症状が分かりにくいことから、ご本人がスムーズに生活を送るためには症状などに関する周囲の理解が不可欠です。今回は、愛媛県の松山リハビリテーション病院で活動している高次脳機能障害を抱える方々の自助グループ「えこまち」メンバーであるSolae(ソラ)さん、のんさん、やまみさんの3名に生活の中で困っていたことやそれを克服するために工夫した点について伺いました。

※トップ写真左から やまみさん、ソラさん、のんさん


生活するうえで困っていたことや工夫・・・ソラさんの場合

できること・できないことを周囲に伝える

高次脳機能障害は見た目や話し方では分かりにくく、周りの方に「どこに障害があるの?」と言われることがしばしばありました。しかし実際のところ、以前はできていたのにできなくなったことは多々あります。私の場合は「チェックする機能」が十分でなく、数を数える、数字を照合するという作業が苦手になりました。特に、いくつかの工程が必要な作業になると途端に難しく感じます。

事故後に就労していたときはチェックが必要な業務を頼まれれば挑戦していましたが、きちんとこなせる自信はありませんでした。そのようなときは「チェックする機能が十分ではないので、間違っているかもしれないという視点でダブルチェックしてください」と伝えました。できること・できないことは自分にしか分からないので、普段はそれらのことを相手になるべく伝えることが重要だと思います。こうすると周囲の方々は事情を理解して助けてくれました。

 

スケジュールを忘れないようメモや付箋を活用

以前は問題なくできていたスケジュールの管理も難しくなりました。いつどんな予定が入っているのか忘れてしまうことが多かったので、メモや付箋に予定を記入して目に付く場所に貼るようにしました。たとえば自宅のテーブルに貼っておけば頻繁に付箋が目に入るので、頭の中で覚えていなくても予定を忘れる心配がありません。今では、メモと付箋は私の必須アイテムです。スマホの操作に慣れている方ならアプリなどに予定を入れておくという方法もあります。人によって最適な方法が異なるので、自分に合った方法を見つけることが重要かと思います。

 

写真:PIXTA


生活するうえで困っていたことや工夫・・・のんさんの場合

レジの支払い時は事前に金額を計算しておく

声を発するのに支障はありませんでしたが、頭の中で話を組み立てて会話するのが難しくなり、とても困りました。また外出時には、レジの支払いがプレッシャーでした。というのもお金を数えるのに時間がかかるので、本当は小銭を出したいけれど出せなかったり、うまく計算できずにレジ係の方に不快な顔をされたりすることがあったのです。私はこれを克服するために、支払いの前にあらかじめスマホの電卓で金額を計算し、先にお金を用意してからレジに並ぶようにしました。

 

スマホを活用しスケジュールや物の管理をする

スケジュールを忘れてしまうことがあったので、スマホのスケジュール管理アプリを使い、いつ・どこで・何をするのか具体的に記録したうえで、毎日知らせが来る機能を活用しました。これにより予定を忘れることが少なくなり、予定を立てやすくなりました。

また物を置き忘れてしまうことも多々あったので、置き場所を1つ1つ写真に撮っておくようにしました。こうするとアルバムを見れば大事な物がどこにあるのか分かるのです。写真に撮っておくという方法は物の管理にとどまらず、日々の記録にも使えます。私は食事の内容を記録することで、後からほかのことを思い出しやすくするために、毎回写真に収めています。

 

写真:PIXTA

 

高次脳機能障害の啓発の必要性を感じている

高次脳機能障害は見た目では分かりにくいので、周囲の方に理解してもらうのに時間がかかります。ある日、銭湯で仰向けに倒れて頭を打ち、嘔吐してしまいました。妹の夫が一緒だったので介抱してもらいながら風呂を出たのですが、スマートウォッチを見ると収縮期血圧が180mmHg以上あり、心配になったので近くの脳神経内科を受診。しかし担当医は最初「なぜ来たのか」という感じでした。

念のためMRIを撮り、その画像を見て初めて「大変な事故だったのですね」と私に言ったのです。先ほどまでの態度とはまったく異なりました。見た目では分からなかったけれど、画像を見てようやく私の脳の状態を理解してくれたのでしょう。私の主治医の話によれば「脳神経の専門家でも高次脳機能障害の理解度には差がある。高次脳機能障害は奥が深い」とのことでした。この経験から、高次脳機能障害についての啓発がもっと必要だと感じています。


生活の中で困っていたことや工夫・・・やまみさんの場合

文字が「初めて見る記号」のように見える

文字の意味を理解することが難しくなりました。知っているはずの文字なのに初めて目にする記号のように見え、初めの頃は、時計を見ても何時なのか分からなかったです。文字に関しては、ひらがなからリハビリテーション(以下、リハビリ)を始めて、次にカタカナを読めるように訓練をしました。今はひらがなとカタカナは読めるようになりましたが、漢字はまだ十分ではありません。「多分こういう意味だろう」と想像してなんとか解読しているような感じです。

 

新しく会う人や新しいことが覚えにくい

新しく会う人の顔や名前を覚えるのが難しく、新しいことに慣れるのに時間がかかります。姪っ子や甥っ子の名前が出にくいときもありました。障害者雇用で仕事をしているときには毎日いろいろな方と会っていました。リハビリの効果もあったのか、覚えられることやできることが徐々に増えていたような気がしていたのですが、仕事を離れて1年ほど経過すると、当時できていたことができなくなってしまいました。

初めて会う方は私の症状や状況を知らないので「ちょっと変わった人だなあ」と感じるかもしれません。そのようなときはヘルプカードを見せて障害があることを伝えるようにしています。その点、えこまちのメンバーはそれぞれ症状や状況が異なりますが、お互いに気持ちが理解できるので落ち着いた気分で過ごせます。えこまちは、私にはとても大切な場所です。

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