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第30回日本慢性期医療学会 学術シンポジウム「脳画像を看護・リハビリテーションにどう活かすか」レポート

千里リハビリテーション病院 副院長 吉尾 雅春先生

2022年11月18日に開催された第30回日本慢性期医療学会の学術シンポジウムで、千里リハビリテーション病院 副院長の吉尾 雅春(よしお まさはる)先生による講演『脳画像を看護・リハビリテーションにどう活かすか』が行われました。吉尾先生は「脳画像は適切な患者評価と合理的・効果的なアプローチを導く」と話し、その積極的な活用の重要性を強調されました。脳画像によってどのようなことが分かり、どう活かすことができるのでしょうか。講演内容をレポートします。


臨床現場で「無意味」とされてきた脳画像

1970年代にCTが発明されるまでは、医療現場でも脳はブラックボックスであり、脳卒中も脳の中でどのようになっているのか分からないと言われていました。国内では1975年にCTが、1982年にMRIが臨床現場に導入されました。しかし「セラピストは現象を見て判断するものであり、脳画像を見る意味はない」という強い意見がありました。その後も多くの医療スタッフがその意見に従い続けました。その結果、脳卒中リハビリテーションの臨床現場では、脳画像がほとんど有効活用されることなく半世紀近くが過ぎ、有益な情報を蓄積してこなかったのです。しかし、私は脳画像が患者の適切な評価のための資料になり、合理的・効果的なアプローチを導くと考え、これまで取り組んできました。


脳卒中患者は認知面・情動面にも障害

 

脳は脳・脊髄のいろいろな部位と連携しながらシステムとして機能しています。たとえば、私たちは目から得た視覚情報を後頭葉・側頭葉を介して前頭連合野に送り、見たものが何かを判断します。脳のいろいろなシステムによって感情をコントロールしたり、何かに注意を向けたり、言葉を使っていろいろ考えたり、協調的な運動を保障します。

大脳皮質と小脳との回路では運動ループと認知ループがあります。運動ループが障害されると運動失調になります。認知ループが障害されると認知機能や注意機能、記憶などの問題が生じます。大脳基底核を介した回路には運動に関わるループのほかに、前頭連合野のはたらきや情動面、動機づけに関わるループなどがあります。これらの中で特に看護師は、患者に認知・情動面、記憶、遂行機能などに関わる問題が生じると業務はいっそう大変になることでしょう。歩けないのにベッドから降りて一人でトイレに行こうとしたり、急に車椅子から立ち上がったり、易怒性(えきどせい)があったり、昼間は比較的よいのに夜になると大声を出したり、経鼻で注入中に管を引き抜いたり、ほかの患者の部屋に入っていったりすることがあります。それらの可能性を知らなかったことで、急性期から転院してきたその日に転倒事故が起きた、という話はよく耳にします。


脳画像の看護・ケアへの活用法

これらの問題の多くは脳画像を見ることで予測ができますから、前もって戦略を立てることができます。医療スタッフそれぞれの専門性の中でその方策を考えてみることです。

まず、脳内に起きた血腫や浮腫による影響は日を追うごとに変化します。左被殻出血から数週間で血腫と浮腫の影響により左の前頭連合野が休止状態になっていたり、言語情報そのものがうまく入っていなかったりするときに、細かい説明、注意、一方的に指示することは適切ではありません。医師や言語聴覚士などと相談しながら、今、適切なコミュニケーションの取り方について考えていくことが求められます。

高次脳機能をつかさどる前頭葉の損傷など、脳画像から易怒性をはじめ情動面の問題が考えられるような場合には、環境が患者にとって好ましいものであるか、自分自身は患者にとってふさわしい存在になっているかといったことに注意が必要です。具体的には、患者を怒らせるような言動はないか、大脳の右半球損傷で起こる左視野障害および左半側空間無視に加えて環境音の理解が乏しい患者の前に突然スタッフが現れたりしていないか、など注意あるいは工夫すべきことが浮かんでくると思います。

右の場所野に障害があり、なかなか自室に戻れない患者に対しては、文字を書いた貼り紙で誘導することが一案として考えられます。左側の障害によって言葉で場所を想起できないときは矢印などを用いることも1つの選択肢です。

視床出血でもっとも多いのが感覚の中継核である後外側腹側核という部位ですが、出血や浮腫の広がりは前頭連合野に影響をもつ内側にも、外側の運動に関わる線維が通る部位にも、そして姿勢制御に関わる上方にも及ぶことが多くみられます。運動が不安定なところに、状況判断が適切でなかったり、行動の手続きが間違ってしまったりすることがあると、ベッドやトイレ、車椅子に絡んだ転倒事故につながりやすいようです。血腫の吸収の観察や、認知機能やバランスに関する検査結果なども考慮しながら慎重に見守りの程度を決定していく必要があります。

患者の生活を適切に支えるために、脳画像を通して、脳の中で起きているシステムの障害について理解しておくことが大切です。


脳画像は患者理解を導くコミュニケーション媒体

脳画像は客観的なコミュニケーションの媒体です。適切な評価のための資料になり、合理的・効果的なアプローチを導きます。脳画像を理解できると、個としての患者の障害と、それに対する戦略が見えてきます。

脳画像を読み解くことにより、患者がなぜ転倒するのか、易怒性はいつまで続くのか、なぜ口頭での説明がなかなか伝わらないのか、といったことが分かるようになります。脳画像は、根拠に基づく医療の世界に医療スタッフを導いてくれるものと思います。

個々の患者について病棟で情報共有を図るときに、憶測に基づいたことを中心としたコミュニケーションは必要ありません。目の前の現象や問題行動がなぜ起こっているのか、将来的な可能性としてはどのようなことが考えられるのか、ということを脳内のシステムを紐解きながら考えることが、脳卒中のリハビリテーションにおいては重要です。

システムとして連携した機能をなす脳を理解することにより、脳画像を積極的に活用し、脳卒中患者のもつ多様な問題と将来的な可能性を理解してほしいと思います。そして、連携の取れたチームアプローチに活かしていきましょう。

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