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熊谷賴佳先生が語る慢性期医療、認知症診療の魅力

京浜病院 院長 熊谷 賴佳先生

高齢化の進展する日本において、慢性期医療のニーズは高まり続けています。もともと脳神経外科医だった熊谷賴佳(くまがい よりよし)先生は、1984年に京浜病院へ移られ、認知症の診療を中心として慢性期医療に携わるようになりました。臨床の現場で数多くの患者さんを診療し、「熊谷式3段階ケア」を考案するなど、第一線で活躍される熊谷先生に、慢性期医療、認知症診療の魅力を伺います。


熊谷先生が考える、慢性期医療の魅力とは?

  • 高齢化が進む日本で非常に重要な役割を担う

日本は、世界でも一二を争う長寿国です。2017年のデータでは、総人口に占める高齢者(65歳以上)人口は27.7%であり、今後もその割合は増加すると見込まれています。

 

高齢の方は加齢に伴いさまざまな臓器の機能が低下しているため、病気にかかったときに随伴症状が起こり、短期間で治らないことも多くあります。慢性期医療は、高齢化の進む日本で非常に重要な役割を担うでしょう。

 

  • 臨床現場の患者さんから多くのことを学べる

慢性期医療には未解明のことが多く存在します。臨床現場では、すべてが貴重な体験となり、患者さんから多くのことを学べます。日々の診療で新たな発見と出会える可能性があることは、慢性期医療の大きな魅力といえるでしょう。

 

先ほどお話ししたように、私は研究室ではなく、臨床現場で患者さんから多くのことを学びました。そのような意味で、すべての患者さんは私にとっていわゆる「教授」のような存在かもしれません。


熊谷先生はなぜ認知症診療の道に進んだのか?

  • もともとは脳神経外科医として勤務。1984年に京浜病院へ

私は、もともと認知症の領域に強かったわけではありません。1977年に医学部を卒業してからは、長らく脳神経外科医として働いていました。

1984年に京浜病院へ移り、在宅へ戻れなくなった患者さんを受け入れる覚悟で、慢性期医療に携わりました。脳神経外科の術後の患者さんを受け入れるうち、認知症の患者さんを診る機会が増えていきます。そして、そのなかにはおかしな言動・行動を繰り返したり、人柄が変わったりする患者さんがいることに気づいたのです。

 

  • 学術的な知識に基づく認知症の薬物治療に疑問を持ち始める

そこで、大学病院の精神科から非常勤で医師を呼び、指導を受けることにしました。彼らは1週間に一度やって来て、難しい認知症の症例に対して薬の指導をしました。

これできっと、状況はよくなる—。そう期待していました。ところが、学術的な知識に基づいて処方された薬は、なぜか思い通りの効果を示さないのです。私は、徐々に疑問を持ち始めました。

 

  • 「病気は研究室で起こっているのではない。現場で起こっているのだ。」

そのようにして数年経ち、私は気づきました。

「病気は研究室で起こっているのではない。現場で起こっているのだ。」

これはもう、人任せにせず、認知症について基礎から学び直そうと思いました。

 

そうして勉強し始めてみると、認知症の分野に解剖学的、病理学的、生化学的な研究は山のようにあるけれど、それはとにかく診断がついてからの話であり、どのように診断するかはほとんど語られていないように感じました。

そのとき、私は「実際の臨床現場で認知症を極めたい」と強く思ったのです。


臨床の現場で「3段階ケア」の考案に至った経緯

  • まずは診断名を疑うことから始めた

認知症のうち、アルツハイマー病を原因とするアルツハイマー型認知症はもっとも多くの割合を占めるとされています。しかし私は、まず「診断名を疑う」ことから始めました。

 

その理由は、アルツハイマー型認知症と診断されている症例のなかには、純粋なアルツハイマー型認知症と、他疾患と合併して起こっているもの、あるいは身体合併症(認知症の経過中に、種々の身体疾患や外傷を合併すること)を有するものなどが混在しているのではないか?と疑問に感じたからです。

 

  • BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)に対する「3段階ケア」の考案

純粋なアルツハイマー型認知症を数多く診療するなかで、BPSDは混乱期、依存期、昼夢期という3段階の経過を辿ること、さらに、段階に応じたケアによって症状改善の可能性があることを見出しました。

*BPSD・・・認知症に伴う行動・心理症状を指します。たとえば、焦燥、易刺激性(不機嫌で怒りっぽい)、攻撃性(暴言、暴力)、介護への抵抗などの行動症状、妄想(被害妄想、物盗られ妄想など)、幻覚(幻視、幻聴)などの心理症状があります。

 

(認知症の3段階ケアの詳細は、記事2をご覧ください。)

(熊谷式3段階ケアについては、こちらをご覧ください。)

 

現在、京浜病院と新京浜病院では、「3段階ケア」を用いて認知症の対処・ケアを実践しています。

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