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日本で排便障害に悩む人々を一人でも多く助けたい−味村俊樹先生のあゆみ

自治医科大学 味村俊樹先生

便秘や便失禁などの「排便障害」は、患者さんの日常生活や心理面に多大な影響を及ぼすため、原因や状況に応じた適切な治療/ケアが望まれます。

味村俊樹(みむら としき)先生は、英国St Mark’s Hospitalへの留学をきっかけに排便障害を自身の専門とし、現在に至るまで、多くの患者さんの治療に携わっています。これまでのあゆみや現在の思いについてお話を伺いました。


味村俊樹先生のあゆみ−なぜ排便障害を専門にしたのか?

  • 排便障害分野の権威であるマイケル・カム先生(Prof. Michael A Kamm)との出会い

排便障害の分野に力を注ぐようになったのは、イギリスへの留学がきっかけです。

1998〜2000年の3年間、英国St Mark’s Hospitalに留学し、そこで排便障害分野の世界的権威であるマイケル・カム先生(Prof. Michael A Kamm)に出会いました。

 

留学中、マイケル・カム先生と共に


もともとは、医学部を卒業してから東京大学旧第三外科(現、胃食道・乳腺内分泌外科)に進み、大腸肛門外科医として働いていましたので、その頃に私が知っている排便障害といえば、直腸がんの術後に起こる排便障害くらいでした。

ところが、留学先では、それまで聞いたこともないさまざまなな原因による排便障害を知ることになりました。しかも、年間に、便失禁が600名以上、便秘は400名もの患者さんが来院していたのです。大勢の患者さんが、次から次へと診療を受けては帰って行く。その様子を目の当たりにして、たいへん驚きました。


  • 日本にも排便障害治療に対する潜在的なニーズがあることを確信した

あるとき、カム先生に疑問を投げかけました。

「この病院に来る患者さんの排便障害を、日本では見たことがない。日本には排便障害の患者があまりいないのかもしれません。」

 

すると、カム先生はゆっくりと首を横に振って、こう答えました。

「トシキ、それは違う。私が排便障害を専門にした15年前には、英国だってこんなに患者はいなかった。しかし、排便障害が病気だと認識され、専門治療が提供できるようになり、このように患者は増えた。新しい病気ができたわけではなく、それを病気として認識していなかっただけだ。日本にもきっと、排便障害で困っている人はいる。しかし受け皿がないので、どこに行けばよいのかわからないのだ。せっかくここで勉強するのだから、日本に帰ったら学んだことを役立ててほしい。」

 

このとき私は大きな衝撃を受け、「排便障害を専門にしよう」と心に決めたのです。

帰国後すぐに排便障害を専門にして働くことは難しかったのですが、周囲の方々からの理解や応援があり、2008年、高知大学医学部附属病院に「骨盤機能センター」を新設。ようやく排便障害を専門にすることができました。

 

高知大学医学部附属病院「骨盤機能センター」時代

 


  • 自分がやりたいことを貫くより、人が求めることに応えたい

当時は排便障害を専門とする医師は少なかったので、私が排便障害の専門的な治療を提供することで、一人でも多くの患者さんの役に立ちたいと思っていました。自分が何をやりたいかはもちろん大切ですが、自分がやるべきこと、人が求めていることに応えるという視点は非常に重要だと思います。

 

排便障害を専門にすると決めてから20年余りが経ちましたが、排便障害は、まだ少し特殊な分野かもしれません。今でも「排便障害とは、ニッチな分野ですね」と言われることがあります。

しかし、今では、便秘症や便失禁の診療ガイドラインができ、社会的にも医療業界的にも、徐々に排便障害の診療が浸透しているように思います。理想は、私が特殊な存在でなくなること。私が不要になるくらい、排便障害の診療が世の中で広く行われるようになれば嬉しいです。


現在の取り組み、これからの展望

  • 人生の最終段階をどのように過ごすのか−臨床倫理の取り組み

高齢化が進み、医療の形が徐々に変化していくなかで、「人生の最終段階をどのように過ごすのか」というテーマについて議論することは、非常に重要だと考えています。これは、排便障害の治療、ケアにも大きなかかわりを持つテーマです。すなわち、快食・快眠・快便が快適に生活するうえでの基本ですが、超高齢化社会の日本においては、「より長く生きる」ための医療のみならず、排便機能という生活の質を改善・維持することによって「よりよく生きる」医療もますます重要になります。

 

2018年より、自治医科大学附属病院の外科で排便機能外来を開設して排便障害診療を専門的に行うとともに、医療の質向上・安全推進センター(QSセンター)に所属して質向上・臨床倫理部門を担当し、日常の医療・ケアの臨床面で生じる倫理的な問題・課題について検討・対応しています。そのために臨床倫理コンサルテーションチームを形成し、日々直面する臨床倫理上の課題について多職種で検討し、助言や推奨を共有しています。

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