病院運営 2021.02.19
平成医療福祉グループにおける新型コロナウイルス感染症への対応
平成医療福祉グループ 副代表 武久敬洋先生
2020年から世界中で混乱を巻き起こしている新型コロナウイルス感染症。全国で数多くの病院や介護施設などを運営する平成医療福祉グループでは、対策本部を設置し一元的かつ迅速な対応を進めるとともに、ポストコロナ患者さんを積極的に受け入れるなど、さまざまな取り組みを行ってきました。管理体制の構築や感染対策の具体例などについて、平成医療福祉グループ副代表の武久 敬洋(たけひさ たかひろ)先生にお話を伺います。
新型コロナウイルス感染症による収益面での影響
平成医療福祉グループは急性期病院メインではないため、大学病院などと比して収益面での影響は大きくありませんが、グループ全体でこれまでに6億円ほどの損害が出ています(2021年2月時点)。グループ全体の傾向として、急性期医療の度合いが高いほど、都市部であるほど収益面での影響は大きかったです。たとえば、徳島や山口の病院は大幅な影響はなく、一方、東京、神奈川、千葉、大阪、兵庫などの病院は比較的大きな影響を受けました。収益面の影響が顕著に現れた時期は、1回目の緊急事態宣言が出ていた2020年4〜5月で、その背景には入院の稼働率が大きく下がったことがあります。しかし、8〜9月にはほとんどの病院で平年並みに戻りました。
グループ全体でさまざまな対策を行った結果、ほとんどの病院の今年度収支は黒字になる見込みであり、従業員の賞与も例年どおり支給することができました。収益面の影響を最小限にとどめるべく対策として行ったのは、まず人件費の増加を必要最低限に抑えるために、新たな採用に関してその必要性を客観的に確認する人事部のフローを追加で設けたこと。さらに、入院の稼働率を上げる施策に加え、PPE(個人用防護具)を含む感染拡大防止対策に関する補助金の申請を行いました。
グループ全体を管轄し迅速に対応する“対策本部”の設置
当グループは全国に多数の病院・介護施設などを有するため、感染制御や情報管理を一元的かつ迅速に行うべく、新型コロナウイルス感染症に対する対策本部を設置しています。具体的には、全ての施設で標準的な感染対策が行えるよう情報を共有し、各施設の補助金の申請状況を把握したり、PCR検査機器やPPEの購入に際して必要な情報を集めたりします。また、いずれかの施設で感染者や濃厚接触が疑われるケースが発生した場合、漏れなく対策本部に報告が届くよう管理体制を整えました。介護施設など感染制御に関して直接介入する必要が生じた場合には、対策本部の1名がその日のうちに現地に入り素早く対応しています。
対策本部は、私を含めた医師3名と、看護部長、リハビリテーション部長、事務担当者、介護施設担当者など多職種で構成されており(2021年2月時点)、昨年からの活動をとおして新型コロナウイルス感染症対応の経験が蓄積されてきました。複数の施設・事業所を持つ法人の場合は、全体をまとめる対策本部をつくり、一元的な管理とサポートを行うことが必要だと思います。
施設の出入口での感染対策
施設の感染対策としては、出入口における消毒剤やサーマルカメラの設置、マスク着用の徹底、ポスターを掲示して感染対策への協力の呼びかけなどを行っています。出入口で発熱など異常が見られる場合には、院内を通らずに発熱外来へ誘導できるようにしました。
平成医療福祉グループが作成したポスターの一例
“濃厚接触ゼロ”を目指す体制づくり
院内で感染対策を徹底することは当然ですが、それでも感染者をゼロにするのは容易ではありません。そのため、感染者が出た場合にクラスターを引き起こさず周囲への影響が最小限で済むように、看護師や介護職、リハビリテーション(以下、リハビリ)のスタッフについては病棟をまたぐ人員配置を行わない、食事介助時には必ずフェイスシールドを付ける、リハビリを行う際にはグローブを装着するなど、“濃厚接触ゼロ”を目指した体制をとっています。また、グループの全職員に持ち運び用の手指消毒剤(アルコールジェル)を配布し、いつも携帯するよう呼びかけています。
平成医療福祉グループが作成したポスターの一例
オンライン/電話診療と面会制限
2020年の初め頃から患者さんのオンライン診療と電話診療にも対応しており、特に電話診療は需要が高いようです。
感染制御のために基本的に外部からの面会を制限していますが、世田谷記念病院では感染対策を施した専用の面会室を設置しました。部屋の真ん中にアクリル板を置き空間を完全に分けることで、飛沫感染や空気感染のリスクを抑えながら患者さんと訪問者が直接顔を合わせられるようにしています。また、入院中の患者さんはオンライン面会のシステムを使ってご家族のお顔を見ることも可能です。オンライン面会は予約制で、現在は予約の枠が埋まりつつあるほどの反響があります。
世田谷記念病院の専用面会室
入院時PCR検査の実施
感染者の早期発見やクラスター抑制のため、新規の入院患者さんには全例、入院時PCR検査を実施しています。結果が出るまでのおよそ1〜2日間はPPEを装着したスタッフが対応し、陰性が確認されたら通常の入院スペースに移動していただく形をとっています。また、食事中の感染リスクを考慮し、新しく入院された方は14日間、自室で食事をしていただくようお願いをしています。
認知症患者さんの感染対策の難しさ
2020年には、グループ内で数件のクラスターが発生しました。その中で特に規模が大きかったのが“認知症ケア病棟”です。認知症の患者さんがマスクを付けずに自由に歩き回っていたことから感染が広がってしまい、収束するまでに1か月ほどかかりました。
この例から、認知症や、脳卒中の後に発症した高次脳機能障害の患者さんの感染対策がいかに難しいかが分かります。クラスター発生時には濃厚接触者にあたる職員は一定の期間自宅待機となるため、グループ内で看護師やリハビリを担当するスタッフなどの人員を集めて勤務体制を調整し、私自身も泊まりがけで院内のゾーニング整備や診療のサポートなどにあたりました。
全国の医療従事者へのメッセージ
“濃厚接触ゼロ”を目指そう
感染対策の徹底は前提として、そのうえで“濃厚接触ゼロ”を目指すことは、感染者が発生した際にその影響を最小限にとどめ病院や施設の機能を維持するために非常に重要です。実際に当グループでは“濃厚接触ゼロ”に取り組んだ結果、感染者が発生したとしても濃厚接触なしと判定されるため、単発の発生例でとどめることができています。濃厚接触ゼロを目指す取り組みに際してイラストなどが必要であれば、本記事でご紹介したポスターなどを参考になさってください。
平成医療福祉グループが作成したポスターの一例
ポストコロナ患者さんを積極的に受け入れてほしい
私たちはグループ全体でポストコロナ患者さんを積極的に受け入れており、厚生労働省が示す退院基準に沿って、対象の患者さんを受け入れています。
回復期・慢性期病院の皆さんに伝えたいことは、ポストコロナ患者さんを積極的に受け入れていただきたいということです。現在、急性期病院の病床が逼迫している状況においてポストコロナ患者さんを受け入れて地域医療に貢献することこそ、回復期・慢性期病院の使命ではないでしょうか。普通に入院してくる患者さんの中には無症状もしくは軽症の新型コロナ感染者が混ざっている可能性がありますが、ポストコロナの患者さんのほとんどには感染力がありません。まれにわずかな感染性が否定できない場合もありますが、ポストコロナ患者さんの受け入れ時には感染力があるかもしれないと考えて対策できるので、むしろポストコロナの方はそうでない方に比べてむしろ安全とさえいえるのです。
退院基準をクリアした人を積極的に受け入れ、急性期病院が新型コロナウイルス感染症の治療に専念できるようサポートに回ってください。また、急性期治療後の患者さん、特に高齢の方の場合は廃用症候群(長期間体を動かさないことにより起こるさまざまな障害の総称)になっている可能性も高いため、患者さんが元の生活に戻れるよう回復期・慢性期の機能を発揮していただけたらと思います。