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医療・介護現場における安全管理――大宮共立病院におけるピクトグラム・チェック表の活用

大宮共立病院 介護福祉士 星 隆行さん

診療の補助を行う看護職と生活支援を行う介護職が協働する現場では、同様の業務を行っていても患者さんの観察視点が異なる場合があります。大宮共立病院の医療療養病棟ではピクトグラムを用いて患者さんの観察点を“見える化”し、チェック表で確認項目の共通認識を作ることで、インシデントの防止に努めています。同院で従事されている介護福祉士の星 隆行(ほし たかゆき)さんに導入の背景と成果、今後の課題についてお話を伺いました。


医療療養病棟の課題――チューブ類のインシデントを防ぎたい

大宮共立病院の医療療養病棟は、急性期を終えた後も引き続き医療提供が必要な患者さんや慢性的な病気のある患者さんが入院されている病棟です。病床数は46床で、看護職と介護士がそれぞれ数人ずつ日勤・夜勤のシフト制で対応しています(2024年8月時点)。

医療療養病棟の特徴として、患者さん1人に対して持続点滴や経鼻胃管など複数のチューブ管理が必要であることが挙げられます。実際、当院の入院患者さんの約3割に持続点滴やモニター、約5割に経管栄養を行っています。そして当病棟で2021・2022年度に発生した計485件のインシデント・アクシデントのうち、チューブ類のインシデントが144件と全体の約3割を占めていました。改善のための話し合いを行うなかで、“指差し呼称”の徹底が策として挙がるものの、その啓発だけでは件数の減少までには至っていなかったのが現状でした。そのため“指差し呼称”を行うポイントや確認方法の統一など、さらに踏み込んだ対策が必要なのではないかと考え、研究を兼ねて実践することにしたのです。


介護士と看護師の視点を合わせることが大切

ピクトグラムをベッドサイドに設置し、確認が必要なものを見える化

まずは、スタッフが指差し呼称をしやすいように、適切な表示を探すことから始めました。さまざまなWEBサイトを調べたところ、ある大学病院のベッドサイドにピクトグラムを掲示されている写真を見て、当院でも生かせないかと考えました。東京オリンピックが行われたとき、競技種目をシンプルに表現したピクトグラムが世界中の話題になったことは記憶に新しいです。国や文化が異なっていても複雑な情報を伝えることができ、一目見ただけで誰もが理解できるピクトグラムは、医療・介護の現場においても生かせると思いました。どのようなチューブがついているのかを示したピクトグラムを患者さんのベッドサイドに掲示し、担当スタッフが患者さんに対して何を観察すべきか、瞬時に分かるようにしました。

 

観察ポイントをポケットサイズの表にして、スタッフに配布

医療療養病棟でのチューブ類の管理は、看護職と介護職の両方が関わることになります。当病棟で働く看護師と介護士に点滴とNGチューブ経鼻胃管の観察ポイントについてアンケートを行ったところ、以下のように“看護”と“介護”とでは観察の視点に差があることが分かりました。

  • ・点滴

看護職の視点:点滴の侵入部の漏れや出血がないか、滴下の速度は適切か、ルート類の折れ曲がりがないか。

介護職の視点:ケアに入る際、排泄の状況や皮膚の状態、ポジショニングなどを観察していることが多く、点滴の侵入部や滴下の速度の観察はあまり行えていなかった。

  • ・NGチューブ

看護職の視点:固定の深さは適切か、滴下の速度は適切か、固定部位の皮膚トラブルはないか、引っ張られたり屈曲したりしていないか、固定はされているか、チューブの詰まりなどはないか、逆流や嘔吐はないか。

介護職の視点:体位や姿勢は崩れていないか、チューブ抜去など危険動作はないか。

このように、“診療の補助を行う看護職”と“生活支援を行う介護職”とでは、同じ確認作業を行っていても観察の視点やチューブ類の抜去に伴う危険性の認識に違いがあったのです。1人の患者さんを多職種でみることはメリットでありつつも、それぞれの観察ポイントに差があることでインシデントにつながっていたのではないかと考えました。そこで、どの職種のスタッフも同じ視点でみることができるよう、持続点滴、NGチューブ使用中の観察ポイントを記したポケットサイズのチェック表を配布しました。これを常に携帯してもらい、患者さんのベッドサイドで活用できるようにしました。


導入による成果――危険予知活動もできるようになった

導入後、2023年に改めてインシデント発生数を集計して過去と比較したところ、変化がみられました。NGチューブにおいては対策前後で使用者の延べ人数に大きな差がなかったにもかかわらず、NGチューブの抜去などの発生率は0.52%から0.14%に減少し、注入中の抜去に至ったケースはありませんでした。また、持続点滴は対策前に比べて点滴施行者が約3~4倍に増加したにもかかわらず、インシデント発生率は2.02%から0.63%と約3分の1にまで減少しました。

ピクトグラムは事前学習の必要がないことがメリットです。医療療養病棟は患者さんの状態が日々変わることが多く、また新規患者さんが入院することも多い現場ですので、観察の必要性と適切な情報を直感的に理解できるピクトグラムの掲示は効果的だったと思います。さらにチェック表を活用することで看護職・介護職による観察の視点のずれがなくなり、観察を繰り返していくうちに、患者さんが点滴やチューブを引っ張ってしまう・抜いてしまう原因に気付くことができるようになりました。たとえば基本的なことではありますが、そもそも患者さんの目に入る場所にチューブがあったり、皮膚に異常があったりするなどです。そのため、目の届かない場所に移動しておいたり、皮膚トラブルがないかを確認したりするなど、個々のスタッフがあらかじめ対策できるようになりました。今後起こり得るインシデントを予測して事前に予防する“危険予知活動”ができるようになったことも、インシデントの減少につながったと考えます。


毎日発信し、全員が継続して取り組めるように

指差し呼称は、恥ずかしさからか大きな声が出せなかったり、目視だけで済ませてしまったりするケースが多くみられます。忙しいときはどうしても業務を優先しがちですが、見たつもり・確認したつもりはインシデントにつながるリスクがあります。スタッフ全員が継続して声出しを実践できるよう、毎日発信していく必要性を強く感じています。

スタッフからはピクトグラムの分かりやすさが好評で、追加の要望が増えています。まずは患者さんの体についているチューブ類のピクトグラムの掲示で効果をみましたが、現在は転倒転落予防のためのセンサー類、柵の位置、そのほか注意喚起が必要な項目などのピクトグラムを作成し、指差し呼称に取り組んでいます。

ベッドサイド環境を整え、患者さんごとに適切なケアを行うために掲示しておきたい項目はたくさんあります。数を増やしすぎてもよくないのですが、医療安全において大切になる個別性を把握できるよう、上手に絞っていきたいです。今後も継続的に実践し、医療・介護現場での安全性と効率性を高めていけたらと思います。

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