介護・福祉 2018.11.21
介護医療院に転換する意義とは?・介護医療院協会会長としての思い
鶴巻温泉病院 院長 鈴木龍太先生
2018年4月、住まいと生活を医療が支えるあらたなモデルとして創設された介護医療院。介護療養病床廃止が決まった背景や介護医療院に転換する意義、さらには日本介護医療院協会会長としての思いについて、鈴木龍太先生にお話を伺います。
*日本介護医療院協会は、2018年4月、日本慢性期医療協会の中にあらたに創設されました。
なぜ介護療養病床は廃止されることが決まったのか?
- 介護保険支出を抑え、国家の財政支出を抑制するため
介護療養病床を廃止する最大の目的は、国家の財政支出抑制にあるでしょう。
介護療養病床の入所者1人あたりの月間費用がおよそ41万円であるのに比べて、老人保健施設のそれは31万円と、大きな差があります。仮に介護保険適用の介護型およそ12万床すべてが老人保健施設に転換した場合、単純計算で月間120億円、年間で1,440億円の財政支出が抑えられることになります。
2025年には介護保険支出が20兆円に達するといわれる中、介護報酬体系のうちもっとも高額な介護療養病床の廃止が提案されたと考えられます。
ところが、先述のとおり介護療養病床の廃止(老人保健施設への転換)はうまく進まず、転換期限は2017年まで延長されました。その中で、2008年には療養病床の再編を促進するため、厚生労働省は「転換型老健施設」を創設しました。
転換型老健施設は、在宅復帰を目指す従来の老健施設と異なり、介護機能に加えて医療的なケアが必要な方を受け入れる機能を備えています。しかし、2016年11月末時点で、転換型老健施設は全国に約150か所(約7,000床)にとどまっています。
転換型老健施設への転換がうまく進んでいない理由は、以下のとおり、いくつかあると考えています。
✓介護報酬の評価が低い
✓診療報酬との連動性がない
✓医療的ケアが必要な重度の利用者がいるので、薬剤費が高くつく
✓マンパワーが足りない
✓4平米から8.0平米にするための工事が負担になる
介護医療院に転換することの意義
介護医療院に転換するメリットを、以下に挙げます。
✓施設の新設費用が不要
✓職員のあらたな雇用が不要
✓介護療養病床よりも少しだけ診療報酬が高くなる
✓移行支援加算がつく
✓改装費の補助がつく
以下は、人口10万人あたりの病床数を都道府県別に示したグラフです。地域医療構想では、この数値を均一にする試みを始めています。つまり、全国一律で病床を減らすのではなく、都道府県別に減らす・増やすことで、人口に見合った病床数に調整をすることを目指しているのです。
ここで、介護医療院の発想が活かされます。それは、ただ病床を減らすのではなく、減らした病床を介護医療院に転換することで、すでにある施設や人材などの資源を有効活用できる、という発想です。その結果、国の医療費も削減できるとしたら、非常に画期的なアイディアではないでしょうか。
一方で、介護医療院への転換に伴い、市町村の介護保険料は上昇すると考えられます。しかし、相対的にみれば医療費よりも介護保険料の方が低くなるはずです。
- 介護報酬改定により、種々の転換支援策が講じられた
2018年の介護報酬の改定では、さまざまな転換支援策が講じられました。そのうちのいくつかをご説明します。
移行定着支援加算(93単位/日)
介護医療院への転換後、転換前後におけるサービスの変更内容を利用者や家族、地域住民などに説明する取り組みについて、「移行定着支援加算(93単位/日)」が新設されました。具体的な基準は、以下のとおりです。
✓介護療養型医療施設、医療療養病床または介護療養型老人保健施設から転換した介護医療院である場合
✓転換を行って介護医療院を開設した等の旨を地域の住民に周知すると共に、当該介護医療院の入所者やその家族等への説明に取り組んでいること
✓入所者及びその家族等と地域住民等との交流が可能となるよう、地域の行事や活動等に積極的に関与していること
低栄養リスク改善加算(300単位/月)
低栄養リスク改善加算では、低栄養リスクの高い入所者に対して、多職種が協働して低栄養状態を改善するための計画を作成し、この計画に基づき、定期的に食事の観察を行い、入所者ごとの栄養状態、嗜好などをふまえた栄養・食事調整を行うなど、低栄養リスクの改善に対して評価を行います。
このように、介護医療院への転換支援策が充実していることから、今後さらに介護医療院への転換は進み、ダイナミックな変化が訪れることを予想しています。
介護医療院協会 会長としての思い
2018年4月末時点で400床ほどだった介護医療院は、2018年9月末時点で4,600床ほどに増加し、着実に転換が進んでいます。介護医療院は、これから数年の間に数万床にまで増え、地域医療計画に大きく影響することが予想されます。
介護医療院は新しい試みでありますが、私はこれからも「介護医療院があってよかった」と皆さんに思っていただけるような施設、システム構築を進めていきたいと考えます。