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介助犬と人との関係性構築において大切なこと──共に生きることへの責任

日本介助犬協会 理事長 高柳 友子先生

手足に障害がある方々をサポートする制度の1つに、介助犬があります。法律に基づいた制度ではあるものの、日本ではまだ十分に理解が進んでいないのが現状です。介助犬は、障害者であるパートナーとどのような関係性を築き、支援をしてくれるのでしょうか。共に暮らす中でパートナーが果たすべき責任と合わせ、医師であり日本介助犬協会の理事長を務める高柳 友子(たかやなぎ ともこ)先生にお話を伺いました。


介助犬認定制度とはパートナーの責任能力を証明する制度

介助犬とは、身体障害者補助犬法という法律に則って認定を受けた犬のことで、身体障害者手帳を持っている方が自立して社会に参加できるようになることを目的として訓練されています。法律上は、盲導犬と介助犬、聴導犬を総称して身体障害者補助犬(以下、補助犬)と呼ばれています。

介助犬の役割は、手足に障害がある方が自分でできない動作をサポートすることです。物を拾って渡すことやドアの開け閉め、電気のスイッチ操作、起き上がりや立ち上がりの補助など、パートナーの障害に合わせたさまざまな役割を担っています。

パートナーの靴下を脱がせる介助犬 写真提供:日本介助犬協会

 

介助犬の特徴は、犬だけでなくパートナーもペアで認定を受ける点です。介助犬が規定の訓練を受けていること、パートナーが同伴する犬に対する責任能力を持っていることの両方が認定条件となっています。犬を同伴して社会に出ても周囲に迷惑をかけないことが、法律により保証されているのです。


介助犬とペットには共通点/異なる点がある

共通点──パートナーや家族の毎日が笑顔に

介助犬の存在は、パートナーと家族のコミュニケーションを円滑にしたり、家庭の中に笑顔を生んだりします。

たとえば、障害者が家の中で転倒したとき、自身が大声で直接助けを求めると、家族は義務的に対応してしまうことがあります。しかし、介助犬に「呼んできて」と指示をして助けを求めに行くと、笑顔で来てくれるそうです。

 

また介助犬の存在は、周囲とのコミュニケーションにも、パートナー自身の精神面にもよい影響を与えます。ネアカな性格の犬と生活を共にすることで、障害ゆえに暗い気持ちになってしまったときにも、すぐに気持ちを切り替え、毎日を楽しく過ごせているとおっしゃることが少なくありません。パートナーの多くは、介助犬がそばで寄り添ってくれることが心の支えになっています。

人間同士では言葉が通じるゆえに、“分かってもらえないこと”に対するネガティブな感情が湧いてしまったり、常に一緒にいることを煩わしく感じたりすることがあると聴きます。一方で、介助犬とは言葉が通じないからこそただ寄り添うことができるうえ、それだけで“自分のことを分かってくれている”と感じられるようです。自分を理解してくれている存在がそばにいると思うことは、パートナーにとって非常に大きな支えになります。

 

このように、パートナーとその家族に笑顔をもたらす存在である点は、介助犬とペットの共通点ではないでしょうか。

 

違い──社会的にも支えが得られる

介助犬は法律によって認定条件が定められている点が、ペットとの大きな違いです。身体障害者補助犬法が設立される前は、介助犬はペットと同じ扱いをされていたため、公共交通機関を一緒に利用したり、店舗や医療機関に同伴したりできませんでした。法律が定められたことにより、パートナーは“犬と同伴しても周囲に迷惑をかけない”という、運転免許と同じような社会からのお墨付きを受けたことになります。自立して社会に出られることも、介助犬とペットの大きな違いといえるでしょう。


パートナーが介助犬に対して担う責任

主人として介助犬に信頼され続ける必要がある

パートナーができないことを介助犬がサポートする一方で、パートナーは身体障害者補助犬法に基づいて介助犬の世話をする責任があります。そのため、ご飯をあげたり排泄物を処理したり、散歩に行ったりといった日常の中で、介助犬と信頼関係を築き続けることが大切です。訓練を積んだ介助犬であっても、信頼関係がうまく構築されていないパートナーの言うことは聞かなくなってしまいます。

 

自らの行動が介助犬制度のイメージを左右する

日本で活躍している介助犬の数はまだまだ少ないため、パートナー一人ひとりの行動や印象が、介助犬や協会に対するイメージに直結します。

 

自分のペットが周囲の人に吠えても、社会全体にとってはそれほど影響がありません。しかし、介助犬に対する悪印象は自分たちだけにとどまらず、介助犬に携わる人々全員に影響を及ぼします。だからこそ、世話を欠かさず清潔を保ったり、信頼関係を維持したりする責任があるのです。

 

障害者になると「周りに助けてもらってばかりで迷惑をかけている」「私がいないほうが周りの人は楽なのではないか」と落ち込むことが少なからずあるようです。そのようなとき、介助犬と共に自立した生活が送れているという事実が大きな自信になります。

介助犬と共に暮らすことで負う一定の責任が、使命感や生きることへの意欲につながっているようです。


介助犬のパートナーになるために必要なこと

介助犬に対する責任を持ち、目的を理解すること

日本介助犬協会から最初にお伝えしているのは、“介助犬の終生には当会が責任を持つ一方で、パートナーのそばにいる間、介助犬を幸せにする責任は全面的にパートナーにある”ということです。介助犬と共に暮らすことは、あくまで課題を解決する手段の1つに過ぎません。介助犬と暮らす中でご自身が持つ課題を明確にし、自立した社会生活を送れるようになることが最終的な目的です。それをきちんと理解していただいてから、介助犬をお渡ししています。

 

年齢基準を満たしていること

パートナーになるための年齢制限は、18歳から65歳までとなっています。これは、介助犬が、障害者の自立と社会参加の促進を目的としているためです。65歳以上の方は介護保険の対象であり、また18歳未満の方は責任能力が認められないため、基本的にはお渡ししていません。

年齢の条件を満たしていないが介助犬を希望される方、高次脳機能障害や知的能力障害、精神障害などにより介助犬の世話をしたり責任を持ったりすることが難しい方には、介助犬とは異なる犬をお渡ししています。育成過程や訓練を通して介助犬の適性はないが、本人やご家族との相性が合う犬を入念に評価したうえで譲渡する“With Youプロジェクト”という取り組みです。


お互いが“いつでも一緒にいる大切な存在”になる

介助犬に対して「働かされていてかわいそう」といった声を聞くことがよくあります。しかし、決して働かされているのではなく、喜んでパートナーと暮らしていることを理解していただきたいと思います。介助犬の訓練は、強制的に怖い思いや痛い思いをさせることは決してなく、遊びの延長で犬の行動学に基づいた訓練を行っています。

物を拾って渡す介助犬 写真提供:日本介助犬協会

 

また、介助犬に向いているかどうか適性も評価しており、さまざまな刺激に対してよい意味で鈍感な犬だけを選んでいます。地震が起きたり飛行機が揺れたりしても寝ていられるくらい、寛容で鈍感な犬だけが介助犬になります。

ペットとして家族に迎えられた犬は、飼い主が出かける際、家で留守番をすることが多いでしょう。一方で介助犬は、24時間365日、いつでも大好きなパートナーと一緒にいられます。パートナーにとっても、介助犬は伴侶のような大切な存在になってくれるのです。

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