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すべては現場のために――新しいアイデアを柔軟に取り込むHITO病院の経営手法とは

社会医療法人石川記念会 HITO病院 理事長/石川ヘルスケアグループ 総院長 石川 賀代先生

診療報酬の引き締めなど、病院経営は非常に厳しい状況に置かれています。そのようななか、HITO病院(愛媛県四国中央市)では他業界の考え方を柔軟に取り込み、従来の医療業界の常識や慣習にとらわれない手法で病院経営を行っています。社会医療法人石川記念会 HITO病院 理事長/石川ヘルスケアグループ 総院長の石川 賀代(いしかわ かよ)先生に、石川先生のあゆみ、病院経営についてお話を伺いました。


思いもよらない帰郷、院長に就任

医師を目指した最初のきっかけは、父と対等に話がしたいと思ったことでした。父は無医村で診療所に勤務し、日々多忙を極めていました。そんな父に自身の話を聞いてもらうには、父と同じバックグラウンドを持つ必要があると思っていたのです。

 

そして東京女子医科大学に入学し、卒業後は同大学の消化器内科に入局しました。その後、ウイルス研究をするために大阪大学に国内留学していましたが、東京女子医科大学に戻る際、教授の交代を理由に分院に行くよう命じられたのです。

思ってもみなかった異動に今後のキャリアについてあらためて考えた末、医局を離れることを決意。しかし、将来のキャリアプランを描けているわけではなかったため「いったん父の病院に帰ってゆっくり考えよう」と思い、父の創立した石川病院(現:HITO病院)に入職しました。

 

当時は、いつかまた東京に戻ろうと漠然と考えていたので、父の病院を継ぐことはまったく考えていませんでした。しかし数年後、県立病院の移譲の話が持ち上がり状況が一変します。移譲先には結局ならなかったものの、移譲先として手を挙げるか議論を重ねるなかで、今後の病院のあり方として「地域の医療を守り、急性期医療を推進するべきだろう」という結論になり、新病院の建設が決定したのです。新病院の計画はたちまちのうちに進み、当時70歳代だった父の後継者として、私が院長に就任することになりました。


新病院への思い

院長就任が決まってからは、全ての責任が自分にかかってくるというプレッシャーのなかで使命感が一気に増し、覚悟を決めて新病院をスタートさせる準備に取りかかりました。

 

まず思っていたことは、「ここで働いていてよかった」と職員に言ってもらえる病院にしたいということ。当院は開院時から地域の救急病院として、皆忙しく働いていました。いわば野戦病院の状態で、このままでは職員が働きたいと思える病院にならないだろうなと、入職時からずっと感じていたのです。

 

また、HITO病院という名前にもこだわりました。石川病院という名称は、どうしても“石川さんが作った病院”というイメージが強くなってしまい、そこから脱却したいと思っていました。そして、民間病院としての色を強く押し出しすぎず、社会医療法人としての公的な役割も表現できる名称にしたいという思いもありました。HITO病院は「Humanity Interaction Trust Openness」の頭文字を取ったものであり、ここには私たちの理念や行動規範が示されています。

 

HITO病院 外観(提供:HITO病院)


デザインの力で、患者さんも職員もほっとできる環境に

病院というと、白を基調とした無機質な空間をイメージする方が多いと思います。最近は少なくなってきましたが、新病院を計画していた10年前はそのような病院がとても多かったです。前身の石川病院も何度か増築を重ねていて統一感がなく、あまり安らげる空間ではありませんでした。

私は、デザインには人の心を癒やし、落ち着かせる効果があると思っています。患者さんの多くは、心身ともに弱り、つらい思いを抱えながら入院されますし、職員も強い緊張感のなかで日々の仕事にあたっています。患者さんや職員が少しでもほっとできるような空間を作りたかったのです。

 

そんな私の思いを形にしてくれたのは、新病院のブランディングなどを依頼した株式会社HAKUHODO DESIGNの永井 一史(ながい かずふみ)さんという方です。院内の設計やデザインについてなかなかイメージどおりにいかずに悩んでいるとき、永井さんが「私が一度イメージを形にしてみましょうか?」と言ってくださり、そこからやっと進み始めました。永井さんがいなければ、HITO病院は今のような姿にはなっていなかったでしょう。

 

内装には紙や木といった自然の素材を取り入れて統一感を持たせたり、最上階には外の景色を見ながら食事を楽しむことができるレストランを作ったりしています。

 

レストラン SORA DINING(提供:HITO病院)

 

ホスピタルストリート(提供:HITO病院)

 

緩和ケア病棟 多目的室(提供:HITO病院)


3法人の連携――SNSによるコミュニケーションも導入

HITO病院(社会医療法人 石川記念会)は、クリニックや訪問看護、通所サービスなどを提供する医療法人 健康会と、介護・福祉サービスなどを提供する社会福祉法人 愛美会の3法人からなる、石川ヘルスケアグループで連携を図っています。

 

数年ほど前までは、患者さんの情報提供など必要な連携は取っていたものの、あくまでも別々の法人という空気が強くありました。しかし、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大を受けて、3法人合同で危機管理室を設置したことで、一体感が生まれ始めました。危機管理室の一部の担当者にiPhoneを貸与し、新型コロナの発生や濃厚接触者の連絡など、法人間でSNSを使ったコミュニケーションを行っています。

 

また、2022年4月からは、法人の垣根を越えた人材育成を目指して、グループ内に経営管理室・DX推進室・まちづくり推進室を作りました。今後は積極的に医療・介護・福祉における全体的な統括をしていきたいと思っています。


SNS×OODAループで、現場の課題を素早く解決

私が病院経営で大切にしているのは「現場感」です。机上で考えるよりも現場をよく観察し、課題があった場合にそれをいかに共有し解決するのかを、もっとも重要視しています。

その際、迅速な情報共有のために有用なのがSNSです。当院ではSNSで共有された課題を、OODA(ウーダ)ループに基づき、迅速に解決へと導くことを意識しています。OODAループとは、「観察(Observe)、状況判断(Orient)、意思決定(Decide)、行動(Act)」という4つのステップをループさせていくことで、その時々の状況に合わせて現場レベルで素早く判断する意思決定スキルのことです。

これまでの経験値の中だけには正解がない時代において、問題解決のためには多くの人のアイデアやスピード感、データ分析が必要になってくると思います。私たちの掲げているビジョンを継続していくためには、組織や人の意識を柔軟に変化させながら、迅速に対応していく必要があるでしょう。

また私はどんな組織にも“お節介な人”が必要だと思っています。常に誰かのことを気にかけて、隙間を埋めてくれるような人材が何人かいてくれることで、組織はスムーズに前進していくと考えています。

※HITO病院におけるSNSなどICT(情報通信技術)利活用の事例に関しては、こちらの記事も併せてご覧ください。


医療業界の中だけに正解はない――石川先生の展望

新型コロナの影響や少子高齢化社会など、医療業界には強い逆風が吹き付けています。診療報酬の引き上げも期待できないなかで、これから淘汰される病院も増えていくことでしょう。そんな危機に瀕しているなか、病院が生き残るための策はもう医療業界の中だけにはなく、ほかの業界の考え方やアイデアを柔軟に取り入れていく必要があります。

そして私たちは、今後も多くの危機に直面するでしょう。そんな時に決して折れず、ピンチをチャンスに変えられるようなチームを作っていくことが、これから私がやるべきことです。そして医療をよりよくするための方法を、この四国中央市から全国に発信していければと思っています。

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