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「仕事を楽しく 人に優しく 医療を前進させる」――大塚篤司先生のあゆみと思い

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授 大塚篤司先生

皮膚科医として患者さんの診療や研究に従事する傍ら、一般生活者の医療リテラシーを高める活動「SNS医療のカタチ」の運営代表を務める大塚 篤司(おおつか あつし)先生(近畿大学医学部 皮膚科学教室主任教授)。「意味のないことはしたくない」という信念を持って既存の概念を見直し、本質的な臨床や教育のあり方を追求し続ける大塚先生に、これまでのあゆみと現在の思いを伺いました。


幼い頃に憧れた医師という仕事

医師を志した理由はたくさんあります。もっとも根底には、自分自身が幼い頃から小児喘息で通院や入院を繰り返していた頃に、主治医がとてもよい方で「お医者さんはすごいな。こんなお医者さんに自分もなりたい」と感じたことがあるのでしょう。その頃の気持ちは成長しても薄れることなく、私に医師になるきっかけを与えてくれました。

そんな背景から専門を選ぶときには小児科やアレルギーの分野に興味を抱いていました。ただ、医学生時代の経験から「患者さんを診たいし、基礎研究とがんの研究もしたい。アレルギーの分野も捨てきれない」という思いが強くなり、全てをかなえられるのはどこかを考えて、結果的に皮膚科を選びました。


恩師との出会い――チューリッヒ大学にて

医師になってからずっと「留学したい」という夢を持っており、特に興味があったアレルギー分野の研究で留学するために海外の研究室をいくつか見学する機会を得ました。そこで運命的な出会いがあったのです。

スイスに赴いたとき、本命だったアレルギー喘息研究所(Swiss Institute of Allergy and Asthma Research)の帰りにチューリッヒ大学の皮膚科に寄りました。そこで私を導いてくれたのがラインハート・ドゥンマー(Reinhard Dummer)教授です。ドゥンマー教授はメラノーマ(悪性の皮膚がんの1つで、ほくろのがんとも呼ばれる)の研究と臨床で世界的に活躍する医師で、現在でも皮膚科の分野で活躍されています。しかも人格者でおごり高ぶることもなく、魅力的な方でした。初めてお会いしてその人柄に惚れ込み、「この人と一緒に仕事をしてみたい!」と強く思ったのです。

 

チューリッヒ大学 写真:PIXTA

 

早速2回目の見学に行き、教室のスキー合宿へ連れて行ってもらいました。ところが私は、そのとき雪山で迷子になってしまったのです。広大なスキー場で迷い、持っていた携帯電話の電池も切れ……ほぼ遭難のような状態で、正直「死ぬかもしれない」と思いました。しかし、道に迷いながらも最終的には山の反対側から降りることができ、スキー板を担ぎながら電車に乗り、皆が泊まるホテルに辿り着きました。

ドゥンマー教授はホテルの前でとても心配そうな顔で待っていて、帰還した私にひたすら謝ってくださいました。その後の宴席では、「Ats(と呼ばれていた)はうちに入るメンバーとして試験に合格した!」と冗談を言い、皆が盛り上がり、私はその教室に入ることに決めたのです。“ついで”に寄った教室で素晴らしい先生に出会うなんて思っていませんでした。人生、何があるか分からないですね。

 

ドゥンマー教授らと(写真左:大塚先生)


医師として大切にしていること

「仕事を楽しく、人に優しく、医療を前進させよう」という理念は私の信念でもあり、当医局のスローガンでもあります。

まず「仕事を楽しく」は大前提で、どんなことでも楽しくなければ続きません。医療者がしんどそうにしていたら患者さんにもそれが伝わってしまいます。ですから、常に医局内の皆が楽しそうに仕事しているかをよく観察します。また一人ひとりが充実した生活を送ることも大事なので、主任教授である私から率先して「B’zのコンサートに行くので休みます!」と宣言するなどして、医局員が休暇の取りやすい雰囲気を作っています。

「人に優しく」も大切で、優しくされて嫌な人はいませんよね。特に患者さんは心身共に疲れていたり苦しかったりするので、優しさを持って対応することは非常に大事です。また大学に属している者は研究だけでなく臨床を合わせた“医療”そのものを発展させ、患者さんが昨日よりも幸せになれるよう努力する使命があるとの思いから「医療を前進させよう」という理念ができました。


「後進が活躍できる環境づくり」にかける思い

2021年4月から近畿大学医学部 皮膚科学教室の主任教授を務めています。人を育てることについては昔からよく考えていて、特に意識しているのは「よい環境づくり」です。金魚の育成にたとえるならば、水槽内の環境を最適な状態に整えること(教育体制の整備、学べる機会の提供、適切なポジショニングなど)が非常に重要ということです。金魚が成長したら、それに合わせて金魚鉢を大きくすることも必要になってきます。そのような環境づくりが一人ひとりの成長を支え、ひいては患者さんによりよい医療を提供することにつながると確信しています。


行き場のない患者さんを1人でも減らすために

近畿大学に赴任して思ったのは、ここは南大阪エリアの患者さんが最後に行き着く病院だということです。このエリアで唯一の大学病院なので、診断が付かない方や専門的な治療が必要で困っている方が集まって来るのです。私自身も毎週のように今まで見たことのない皮膚疾患を目の前にして、皮膚科医としてのスキルが磨かれています。このような環境を最大限に生かし後進の医師たちを育て、南大阪エリアの医療機関から「近畿大学なら安心して任せられる」と思ってもらえる教室を作り上げたいと考えています。


医師のキャリア継続や復帰にも貢献したい

また最近は、出産後の現場復帰や子育てしながらのキャリア形成についてあらためて考え直す必要性を感じています。特に皮膚科には女性医師が多く、キャリア構築の途中でお休みを取らざるを得なかったり、周囲に迷惑をかけられないと退職してしまったりする方もいるのです。最近はそのような課題を踏まえ、カンファレンスにウェブで参加できる体制の整備を始めました。現在、産休中・育休中の方や他病院で研修中の方も全員参加できるウェブ上のカンファレンスを行っています。これによりお休み中でも現場の人たちとつながりを持つことができ、学ぶ機会も継続できます。

いったん現場を離れると、復帰するときに医療者は恐怖を感じるものです。そこには医療現場は日進月歩で変化することや、医療情報が日々更新されていくことが関係しているのでしょう。医療者がそのような恐怖をなるべく感じずに現場に復帰しやすい環境を作るべく、今後も多くの人の声を聞き、課題を克服したいと考えています。

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