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閉院寸前から復活を遂げた、志摩市民病院のこれから

志摩市民病院 院長 江角悠太先生

多額の赤字を抱え、スタッフのモチベーションは低下、住民からの信頼も失いかけていた志摩市民病院。そんな病院を復活に導いたのが、当時34歳の若さで院長に就任した江角 悠太(えすみ ゆうた)先生です。「絶対に断らない」の理念を貫き通したことで、徐々に住民からの信頼を取り戻し、今では地域に必要不可欠な病院に生まれ変わりました。今回は江角先生に、志摩市民病院におけるこれからの新たな挑戦と展望について伺いました。


医師の確保

院長就任当時、病院は7億円の赤字を抱えている状況でしたが、今では赤字を解消し、基準内繰入金と繰出金がほぼ同額、一般会計からの繰出金はほぼゼロになるところまで改善しています。病床稼働率は平均97%で、1日の外来患者数は平均90~100人、訪問看護の患者数は平均30~40人となっています(2022年2月時点)。

 

医師が働きやすい環境に――1か月の休暇制度

2022年2月現在、常勤医は私を含めて3人です。そのうちの1人が来年度から2年間、地域医療を学ぶための留学に行きますが、ちょうど入れ替わる形で2人の医師が来てくれることになっています。1人は在宅に特化した救命救急科医です。4月から当院で開始する「病院長養成コース」の一期生として、副院長のポストにつく形で3年間学んでもらう予定です。もう1人は救急総合診療科医です。2人とも、メディアに掲載された当院の記事を目にして、ここで地域医療をしたいという思いで来てくれる医師です。

来年度からは4人体制になることで、これまでなかった余裕が少し生まれるかなと思っています。そのため週休3日制が導入できるかもしれませんし、実際にやってみようと思っているのは1か月の長期休暇の付与です。何もしない自由な時間を持つことで、勉強や家族サービス、旅行など、とにかく好きなことをする時間を作ってもらいたいと思っています。医師が働きやすい環境を作ることは、私がこれから一番やりたいことです。「田舎に行ったら忙しくて自由な時間がない、家族がおざなりになる」といったイメージを全て払拭したいのです。

将来的には、もう少し医師の数を増やして、1人が常に留学に出ている体制を作ることが理想です。外で学んできた技術を病院に還元してもらう。医師だけでなく病院にとっても、大きなメリットになるでしょう。自分も家族も幸せにしながら、地域や社会にも貢献できる方法が全世界のスタンダードになればよいなと思います。

 

地域に愛着のある医師が必要

ただし、単に医師の数を増やせばよいという問題ではありません。地域医療に必要なのは、その土地や住民に愛着があり「どうにかして助けたい」という気持ちがある医師です。たとえば、医局派遣で来た医師が数年後に都市に帰ることを見据えている限り、その気持ちが芽生えることは期待できないでしょう。頑張りの対価は住民からの「ありがとう」であり、給与として反映されるわけではありません。そのため、その土地に愛着がない医師にとっては、頑張りの対価が存在しないのです。

たとえば、医師が1万人いれば、そのうちの100人で十分です。しかし、その1%は地域医療に強い思いを持ってくれている、素晴らしい1%でなければなりません。ただ数を満たすのではなく、その地域に愛着を持った医師を育てていくことが、当院に限らず、全国の地域医療にとっても急務だと考えます。

 

右が江角先生 写真をお守りに三重大学医学部に合格した医療体験学習生と


看護師の確保・育成

田舎だからこそできる、看護師が本来やりたかったケア

現在は看護師確保が当院の大きな課題です。医師の場合、地域医療の魅力発信が積極的になされたりしていますが、看護師にはいまだスポットが当たっていないのが現状です。2022年度から看護師の教育課程に在宅医療学がようやく入るようになりましたが、実際には急性期医療が入り口となる看護師が多いです。

しかし急性期病院では、看護師が本当にやりたいと思っていたケアが十分にできない傾向があります。急性期治療が終わって「さあ、これから看護師の出番だ」となったときに、慢性期病院に転院してしまったり、気が付いたら医師の雑用ばかりしているというケースが多々あるのです。そして、何のために看護師になったのか分からずに退職してしまう人が多いのは、非常にもったいないことだと感じています。

看護師になってやりたかったのは、やはり患者さんのケアだと思うのです。急性期治療を終えた後に、どうやって在宅復帰するか、どういう人生を送りたいかを患者さんと共に考えながら、包括的かつ継続的に患者さんを診ていく。在宅から入院までシームレスに関わることができるのは、慢性期医療の醍醐味といえるでしょう。特に訪問看護は、自分でプランを決めて行動できることから、これほど魅力的な看護はないと思っています。当院のような地域の病院であれば、地域包括ケア病棟のマネジメントや訪問看護などに一貫して関われることを、もっと多くの看護師に知ってもらいたいです。

写真:PIXTA

 

地域医療に特化したナースの育成

看護師確保のための取り組みとして、私は在宅医療や慢性期医療に特化した看護師を育成するためのプログラムを考案しました。そして昨年、このプログラムに参画してくれる看護学校を探すために三重県内の全校を渡り歩き、20校ほどにプレゼンをした結果、1校が一緒にやりましょうと手を挙げてくれたのです。1年生から当院で実習と座学を受けてもらい、卒業後は当院で働いてもらうことを想定しています。いずれは地域医療に特化した看護師をほかの地域に送り出すこともできるでしょう。

また、来年度からは診療看護師(NP)の大学院生が実習に来てくれる予定です。そうすれば、診療看護師から高い技術を学ぶことができ、看護師のスキル向上が期待できます。中には、自分も診療看護師の資格を目指そうとする看護師が出てくるかもしれません。病棟看護・訪問看護のレベルが向上して、患者さんによりよいケアができるようになればと考えています。


志摩市民病院の院長として――今後の展望

よい病院を作るために重要な人材は、医師・看護師などの医療従事者だけではありません。病院の土台となる事務職も非常に重要です。事務職は患者さんを直接助けられる場面は少ないかもしれませんが、医療従事者が働きやすい環境を作ることで、間接的に患者さんを助けている影の立役者です。しかし、実際には自身の働く意味の矛先がなかなか患者さんに向かないことが多いのが現状です。いかにして患者さんに直接目を向けることができるようにするかは、今後の大きな課題でしょう。遠い将来の話にはなると思いますが、患者さんと医療従事者の双方をよく理解しているリハビリスタッフや診療放射線技師を事務長のポジションに据えることも1つの方法だと考えています。

患者さんのため、医療従事者のためを思う事務職がいて、医師や看護師が働きやすい病院になり、教育施設としてもよい病院であり、若手が常に学びに来ている。そして、愛着を持ちずっと働き続けるスタッフがいて、一部はよい意味で外の施設に羽ばたいていく。そんな好循環ができれば、それ以上、病院として必要なものは今のところないと思っています。これが志摩市民病院の院長としての展望です。

*次ページは、江角先生に地域医療に対する思いを伺います。

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