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最新免疫学から読み解く新型コロナの謎――「新型コロナは風邪?」に答える

大阪大学免疫学フロンティア研究センター 招へい教授 宮坂昌之先生

日常を大きく変容させた新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。今、全国的にワクチン接種が進んでいます。一方、デマ情報に惑わされCOVID-19を軽視したりワクチンの接種を恐れたりする方も一部おり、社会の混乱が収まらない状況もみられます。たとえば「新型コロナは風邪だ」という主張がいまだ聞かれますが、その話には妥当性があるのでしょうか。最新免疫学の観点から、宮坂 昌之(みやさか まさゆき)先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)にお話を伺います。


“新型コロナはただの風邪”ではない?

COVID-19とインフルエンザがどのように違うのかご説明しましょう。

もっとも異なるのは、COVID-19の場合、60歳代を超えると重症化率と死亡率がぐんと高くなるという点です。年齢が高いほど重症化率・死亡率が高くなる傾向はインフルエンザでもみられますが、その程度はかなり違います。

たとえばCOVID-19と診断された方のうち、重症化率は全体で1.6%ほど(50歳代以下で0.3%、60歳代以上で8.5%)、死亡率は全体で1.0%ほど(50歳代以下で0.06%、60歳代以上で5.7%)です(2020年6月以降のデータ)。特に死亡率は60歳代以上ではインフルエンザの数十倍にあたりますから、「COVID-19はインフルエンザと同じ」とは決していえないでしょう。

 


重症化を左右する“インターフェロン”とは?

次に、重症化率を年代別に見てみましょう。下の図表をご覧ください。

 

 

30歳代を1とすると60歳代では25倍、70歳代では47倍、80歳代では71倍と、年齢を重ねるほどに重症化率は高くなり、逆に若年であればあるほど重症化率は低くなります。

 

では、なぜ高齢になるほどCOVID-19が重症化するのでしょうか。そのポイントは、年齢と基礎疾患。そしてキーワードとなるのがインターフェロン(ウイルスに感染すると生体内で種々の免疫細胞から産生されるタンパク質)です。

私たちの体には元来、ウイルスに感染したときにインターフェロンを産生してウイルスを追い出そうとするメカニズムが備わっています。通常、細胞の中にウイルスが侵入するとすぐに細胞内で1型インターフェロンがつくられ、外に放出されます。放出されたインターフェロンは抗ウイルス活性を持っており、周囲の細胞にはたらけばその細胞がウイルス抵抗性になり、自らの細胞にはたらけばその細胞自体もウイルス抵抗性になります。このように、通常のウイルス感染ではインターフェロンの産生によって結果的にウイルス増殖が止まるのです。

ところが、COVID-19では新型コロナウイルスに感染した細胞では1型インターフェロンが十分に産生されません。これがCOVID-19の非常に厄介な点です。これによりウイルスの増殖を止めることができなくなり、結果として自分の細胞でもウイルスが増えて重症化し、さらに他人にも感染させてしまうのです。

 

写真:PIXTA


重症化のポイント――年齢と基礎疾患

先ほど、重症化のポイントは年齢と基礎疾患とお伝えしました。

まずは“年齢”についてご説明しましょう。通常、加齢に伴ってインターフェロンをつくる能力(産生能)は低下していきます。ということは、高齢の方はそもそもインターフェロン産生能が低くなっているためウイルスの初期増殖を抑えることが難しく、そして新型コロナウイルスの場合はインターフェロンが十分に産生されないという要素が重なります。この2つが相まってウイルス感染の初期に増殖を抑えきれず、重症化することがあるのです。これに対し、若い方はインターフェロン産生能が高いためウイルスの増殖が止まり、重症化せずに病気が治るケースが多いということです。

次のポイントが“基礎疾患”です。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、脳血管疾患などの基礎疾患があると、COVID-19が重症化しやすいことが知られています。そもそもこれらは慢性炎症によって起こる病気で、インターフェロン産生能が大きく低下しているのです。つまり年齢と同じように、そもそもインターフェロン産生能が低い状態と新型コロナウイルスの特性、この2つの要素が相まって重症化率が上がってしまうということです。


慢性炎症は“たき火がくすぶっている状態”と同じ?

慢性炎症とは、微量の病原体に持続的に感染しているような状態と同じです。喫煙、多量の飲酒、過度の糖分摂取などにより血管の内皮細胞が傷付き、血管や臓器の細胞に負荷がかかり、慢性的な炎症が起こるというわけです。

これは、たき火がくすぶっている状態と似ています。そこに新型コロナウイルスの感染が起こると、さらに炎症性サイトカイン(体内のさまざまな炎症症状を引き起こすタンパク質)が産生されます。これはたき火に燃料をくべるようなもので、ウイルス感染によってくすぶっていたたき火が広がって火事となり、基礎疾患が急激に悪化する要因になるのです。

 

写真:PIXTA

 

さらに本来であればブレーキの役割を果たす抑制性細胞や抑制性サイトカインが炎症症状を抑えるはずが、加齢のためにうまく機能せずに炎症反応が止まらなくなることがあります。すると重症化の最終段階である“サイトカインストーム”と呼ばれる状態に陥ってしまうのです。サイトカインが山のように多量につくられ、嵐(ストーム)のように全身に炎症反応が起こります。こうなると血液がうまく凝固しなくなり、敗血症や多臓器不全を起こし、最終的に命を落とす場合もあるのです。


重症化予防のために重要な“基礎疾患の治療”

高齢の方は基礎疾患を持っている場合が多く、“年齢”と“基礎疾患”という2つの要素がそろってしまうことがあります。その場合、当然ながら重症化のリスクはさらに高まります。ただし、基礎疾患があったとしても、適切に治療を受けていれば慢性炎症を抑えられます。つまり基礎疾患があるからといって必ずしも重症化率が高いわけではなく、きちんと治療しているかが重要なのです。


新型コロナを風邪と軽視すべからず

これまでの話をまとめましょう。「新型コロナはただの風邪か」という問いに対しては、「年齢や基礎疾患などの条件によって異なり、死亡率はインフルエンザよりかなり高い」と答えられます。

若年層で基礎疾患がなければインターフェロン産生能が高いので重症化しにくいですが、加齢に伴いインターフェロン産生能は低下するため重症化のリスクは上がります。つまり、小児や若者にとってはインフルエンザと同じくらいの病気といえるかもしれませんが、高齢の方や基礎疾患のある方にとってはまったく異なる病気なのです。

特に現在は変異ウイルスが出現しており、ウイルスの感染性がさらに上がっています。それに伴い若年者も高齢の方も以前より感染しやすい状況にありますから、重症化のリスクは当然上がっているといえます。今この段階で「新型コロナは風邪と同じだ」と軽視するのは、あまりに楽観的すぎるでしょう。

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