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患者さんの背景を知り権利を守る――西崎病院が行うスピリチュアル伴走型支援

医療法人以和貴会 西崎病院 社会福祉士 眞壁 政也さん

昨今の家族や地域社会のあり方の変化に伴い、医療従事者の患者さんへの寄り添い方にも変化が求められるようになっています。さらに地域の文化的・歴史的背景も相まって、患者さんが必要とするサポートには地域差がみられるようです。患者さん一人ひとりの意思や権利を尊重しつつ支援を続けるためには、どのような視点が求められるのでしょうか。沖縄県糸満市にある西崎病院で医療ソーシャルワーカー(MSW)として従事されている眞壁 政也(まかべ せいや)さんに、“スピリチュアル伴走型支援”についてお話を伺いました。


スピリチュアル伴走型支援とは? ――沖縄県糸満市の課題

退院支援において個々の患者様への伴走型支援を目指しています。伴走型支援とは、患者さんを1人にせず、途切れなくつながり続けることを意味します。当院の所在する沖縄県糸満市には一人暮らしの高齢の人が多く、これからも増えていくことが予想されます。もともと地域や親族と強いつながりをお持ちの患者さんもいれば、そうではない人もいるため、それぞれが持つつながりに応じたサポートが求められます。社会的な孤立やご自身の葬送に関して不安を抱く人も多く、お一人おひとりに寄り添った支援が欠かせません。

さらに糸満市では地域の風習を踏まえた“スピリチュアル伴走型支援”が大切となっています。沖縄県では、家のように大きな門中墓(むんちゅうばか)に血族が大勢入るという独特の葬送文化があります。ただし、門中墓に入ることができる血族や行事の風習は地域や一族によってそれぞれ違うことも多いのが現状です。支援の途中でトラブルにならないよう、事前に各地域の風習の特性、ルールを勉強しておく必要があります。


ある患者さんの事例――自宅への退院と希望する納骨を叶えるために

先日私が担当した80代後半の一人暮らしの女性患者さんの例は、“スピリチュアル伴走型支援”の特徴をよく表しています。この人は自宅で転倒、骨折して急性期治療を受けた後、当院に転院して来られました。前院のMSWより、他市町村に親族が1名ご健在との申し送りを受けましたが、本人と親族を含めた面談にて、信仰上の理由により親族による支援介入は難しいとの結論に至りました。患者さんご本人より「退院したら主人と建てた家に帰りたい。そして死後は主人と同じ門中墓へ納骨してほしい」との希望がありましたので、患者さんの意思を尊重してもらえる具体案を共に考えていくことにしました。この地域には一族の大事なことが書いてある歴史書のような“字誌”と呼ばれるものがあり、そこに門中墓の地図や名前が載っていることがあります。それを探して確認しながら、何とかご主人の門中墓を見つけることができました。そして、門中墓の管理者と連携する必要性を患者さんに説明したうえで、門中墓がある地区の区長さんに管理者の連絡先と名前を教えてもらい、電話して状況を説明したところ、管理者が患者さんに面会してくださいました。幸いこの患者さんの一族には門中墓に関する特別なルールはなく、一族であれば誰でも入れることが分かり、患者さんが亡くなった後は必ず入れるよう取り決めることができました。

また、この患者さんは元々地域との関係性が薄く、ご主人が亡くなられた後は一人暮らしで緊急連絡先もなかったため、社会的な孤立や孤立死が危惧される状態でした。それらを防ぐため地域の見守り体制へアプローチするとともに、民生委員や地域包括支援センターの担当者、社会福祉協議会の担当者、ケアマネジャー、訪問看護の担当者などが連携するための会議を実施したうえで、自宅への退院となりました。

その後、脱水を起こして自宅で倒れているところを地域包括支援センターの定期見回り職員が見つけ、当院に再入院となりました。このタイミングで、地域の生活保護課の担当者、身元保証人、門中墓の管理者が新たに会議に加わり、火葬と納骨までの詳細な段取りを話し合いました。生活保護課との連携なく火葬となってしまうと患者さんの意思が尊重されない可能性があるのですが、今回生活保護課の担当者を交えて事前に話し合ったことで、葬儀会社への火葬代は葬祭扶助の対象として進められることを確認できました。

このようにして、地域文化が与える患者さんへのスピリチュアルな面への影響を受け止め、“自宅への退院”と“門中墓への納骨”という本人の希望を尊重して伴走することができました。今回の事例をとおして、“自分の死”や“生きる意味、存在する意味”について患者さん本人と共に考え、ソーシャルワーカーとして全ての人を全人的に認識することの重要性を再確認できました。


眞壁さんが考えるソーシャルワーカーのあり方とは

私はソーシャルワーカーが携わる各分野において、共通して大切なのは患者さんとの信頼関係を築くことだと思います。自ら率先して自己紹介をするなど、基本的なことから行うように心がけています。もちろん人対人ですから、時には患者さんになかなか心を開いてもらえないこともありますが、時間をかけてコミュニケーションをとっています。ソーシャルワーカーの仕事は患者さんの意思や権利を守るために社会に働きかけていくこと、つまり権利擁護であり、これには患者さんが持つ生きる権利のみならず希望する葬送方法を擁護することも含まれます。ですから、“どのように生きたいか”“どのように亡くなりたいか”“どのように墓に入りたいか”患者さんの希望をしっかりと知る必要があります。私の場合、患者さんに遠まわしに探りを入れるようなことはせず、ソーシャルワーカーの役割をお伝えしながら、率直にどうしたいかを尋ねることが多いです。たとえば、前述の患者さんの場合では「私は、患者さんを地域で孤立死・孤独死させないために、納骨までの段取りをお話しさせていただいております。万が一、ご自身が病院や自宅でお亡くなりになってしまった場合はどのようにお考えですか?」というふうにお話し、ご希望を伺うことができました。


今後の展望と地域包括ケアシステムに求めること

慢性期医療は急性期医療と違って、時間をかけて患者さんと深く関わることができる点が魅力だと思います。ソーシャルワーカーは施設の調整や退院のサポート、さらには納骨までの段取りなど、身寄りのない人のACP(アドバンス・ケア・プランニング)も、先頭に立って支援することができます。患者さんにとってはもちろんのこと、そのご家族にとっても納得のいく支援ができるよう、これからも積極的に取り組んでいきたいです。

最近は特に地域包括ケアシステムの構築が叫ばれていますが、スピリチュアル伴走型支援を含めた地域のネットワークづくりを課題とし、ソーシャルワーカーとしていっそう踏み込んでいきたいと感じています。沖縄には戦争により身寄りをなくした人が多いという社会的な背景があります。今後は地域包括ケアシステムのメンバーに葬儀会社を入れることにより、そのような身寄りのない人の支援を最後まで途切れさせないようにするべきだと考えます。患者さんのカルテに葬儀会社の担当者名や段取りを残した場合に加算がつく仕組みになれば、ソーシャルワーカー全員が自然に最後までサポートできるシステムが構築されるのではないでしょうか。いつの日かそのようなシステムが全国で運用されるようになり、患者さんの不安や心配を取り除くことができるようになることを心待ちにしながら、引き続き患者さんに寄り添い、精いっぱい支援を続けていきたいと思います。

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