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利用者を単に「ケアされる人」にしない認知症介護の形――DAYS BLG!とは

DAYS BLG! 理事長 前田隆行様

年々増加する認知症と診断される人たち。2025年には高齢の方の認知症有病率が20%(5人に1人)に到達し、2040年には25%(4人に1人)を超えると見込まれています。このようななかで、認知症と共に生きる社会をどのように構築し体現していくのかは、日本の重要な課題です。利用者(以下、メンバー)がボランティアなどを通じて社会参加するという画期的なシステムを採用している通所型の介護事業所「DAYS BLG!*(以下、BLG)」。2012年に東京都町田市でBLGを始めた前田 隆行(まえだ たかゆき)さんに、認知症を取り巻く社会の当時の様子や、BLG創設までの経緯を伺いました。

*DAYS BLG!の由来:DAYS(日々)とBarriers(障害)、Life(生活)、Gathering(集う場)の頭文字、そして!(感嘆符、発信)。毎日の生活場面で生きづらいと思う社会環境が障害であり、その障害を感じている人たちが集い発信することで、生活しやすい社会をつくろう」という意味が込められている。


「なぜ認知症の人を隠すのか」疑問を感じていた

BLGを立ち上げる以前、2000年代の初めの頃は認知症がまだ「痴呆症」と呼ばれていた時代です。これが象徴するように、当時は認知症という病気の理解が進んでおらず、人々の偏見もありました。認知症を疑う症状が出ると、周囲に知られないように家族が本人を社会の目から隠し、隔離する。「もうお手上げ」となった時点で病院に行くので、診断が遅れてしまうことも多かったのです。また、認知症対応型の施設も登場しましたが、身体拘束が行われ本人の人権が無視されてしまう場合も少なくありませんでした。

当時私が感じていたのは、「なぜ認知症の人を社会から隠すのか」という疑問です。隠したところで、根本的な問題解決にはなりません。それに、認知症を発症したからといって何もできなくなるわけではありません。できないことはあるけれど、できることもある。「本人や周りが工夫すれば、認知症とうまく付き合いながら日常生活を楽しく送ることはできる」――そう思っていました。


デイサービスで出会った「働きたい」という男性

BLG創設につながる最初の出来事があります。

それ以前は、認知症対応型のデイサービスに勤めていました。あるとき59歳の男性が見学にいらして、「働きたい」とおっしゃいました。てっきり職員としての勤務を希望されているのかと思ったのですが、よく聞くと彼は認知症の当事者だといいます。「認知症と診断されたが、体は元気で少年サッカーチームのコーチもしていた。だから働きたい」と。

しかし、そのデイサービスは利用者さんが立とうとするとけがしないように「危ないですよ」と声掛けするような、手厚く保護する場所でした。レクリエーションの引き出しはあっても、働きたいという思いに応えられる仕組みがなかったのです。

そこで、まずは法人が持っている古民家の修繕や清掃などを一緒に始めました。男性はとても喜んでくださり、そのうちに「私も参加したい」という方が少しずつ増えていったのです。古民家の修繕が終わり、地域の保育園に声をかけたところ、用務の仕事をぜひお願いしたいとのこと。教室のワックスがけやプール清掃、固くなった砂場をほぐして消毒するといった仕事をしながら、利用者さんはデイサービスでの時間を生き生きと過ごせるようになりました。

 

BLGのメンバーがボランティア活動を行う様子


「老いてもリスクがある人生を楽しみたい」ある女性の言葉

もう1つ、BLGを始めるきっかけをくれたのが、ある女性の言葉です。

当時のデイサービスでは「利用者さんがけがしないように」と気を付けたり、先回りして転倒などのリスクを回避したりしていました。ある日、利用者さんとレンガ敷きの広場に出掛けたとき、Kさん(90歳代の女性)が急に走り出しました。その方は元陸上選手の快活な方で、広々と開けた空間が気持ちよくて走りたくなったようです。

レンガ敷きで地面はでこぼこ。「危ないぞ」と思った瞬間に、Kさんはもう転んでいました。膝をすりむき、小枝が刺さっている――「ああ、やばい」と頭が真っ白になりました。私の顔があまりに焦っていたのか、彼女は諭すように言ったのです。「あのね、前田さん。走ったら転ぶのは承知よ。そんなリスクは日常生活にたくさんあるでしょう。老いてもリスクがある人生を楽しみたい。リスクのない人生なんて、私は嫌よ」

私はハッとしました。確かに、日常生活にはさまざまなリスクが潜んでいる。階段を上り下りするのも、火や包丁を使って料理するのも、日常生活に欠かせないことです。認知症があるからと行動を制限しすぎるのは本人にどんな影響があるのだろう。行動を制限しすぎて廃用症候群(体を動かさないことによって生じる障害)に陥る可能性を考えたら、果たしてどちらのリスクが高いのだろう? ――そんなことを考えるようになりました。この経験は、BLGの活動にもつながる大切な気付きになったのです。


労働の対価を得られるよう厚生労働省に直談判

保育園の仕事を始めるとき、利用者さんから「対価がほしい」という意見が出ました。労働力を提供するのだから、当然ですよね。ただ、当時は介護保険サービスの利用中に対価をもらって働くことは認められていませんでした。「働けるなら介護は必要ないでしょう」という厚生労働省の見解が根底にあったのです。

しかし、本人ができることはあるし、社会保障全体で考えたら医療・福祉のサービスを受けながら働いている人はたくさんいます。介護だけ認められないのはおかしいと思い、就労を希望する利用者さんと共に厚生労働省に何度も出向き、直談判しました。

「利用者さんが介護保険サービスを受けながら働けるようにしたい」と5年間かけて交渉を重ね、2011年ついに、介護サービスを利用する若年性認知症の方が有償ボランティアとして謝礼を受け取ることが認められたのです。この「謝礼」には、最低賃金を超えない金額という意味があります。そのような条件付きではありますが、それまでの制約を崩したという点で、とても大きな変化だったと思います。


単に「ケアされる側」にならない介護のあり方

「介護保険サービスを利用しながら働く」という仕組みをしっかりと体現しようと、翌年の2012年6月にBLGを立ち上げました。それまでたくさんの利用者さんや地域の方々に協力いただいていた経緯もあり、「自分でやるしかない」という感覚もありました。

介護保険サービスを利用する方が「ケアされる存在」になってしまう仕組みではなく、本人が主体的に考え行動し、社会に貢献する存在でいられる介護のあり方をBLGで実現したいと思ったのです。

次の記事では、BLGの特徴や1日の過ごし方についてお話しします。

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