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「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」――医療・介護のあるべき姿とは【武久先生会長退任記念講演会・後編】

平成医療福祉グループ 会長 武久 洋三先生

日本慢性期医療協会で14年にわたり会長を務めた武久 洋三先生(平成医療福祉グループ会長)が2022年6月30日をもって会長を退任されました。「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」という言葉を掲げ、日本の慢性期医療をリードされてきました。第47回通常総会後に開催された退任記念講演会(2022年6月30日:The Okura Tokyo)の後半では、これからの日本においてあるべき医療・介護の姿についてお話しされました。その内容をダイジェストでお送りします。

※前編はこちらをご覧ください


総合診療ができる臓器別専門医でないと患者は救えない

今後、早急に進めなければならないのが総合診療医の育成です。2004年に始まった新医師臨床研修制度で卒後2年以上の臨床研修(前期研修)が必修化され、その後に専門性を高めるための後期研修を受けることになります。前期研修ではリスクの高い医療行為は避けることとされており、後期研修は実質的に専門医研修のようになってしまっているため、患者を総合的に診療する技術が十分に身につきません。日本専門医機構の報告では、2022年度から新たに専門研修を開始する専攻医は約9,500人で、そのうち総合診療科はたった250人とされています。この数字を深刻に受け止める必要があるでしょう。

 

考えられる対策は、医師卒後研修の抜本的な見直しです。たとえば、前期研修と後期研修を合わせた4年間は総合診療機能を学ぶための研修期間とし、その後に臓器別専門医の研修を行うのはどうでしょうか。もしくは、2年間の前期研修を終えた後に、2年間は総合診療機能の診療技術を磨くとともに、臓器別専門医の研修も並行して行うのもよいかもしれません。

これからの医師は、総合診療だけに特化するのではなく「総合診療医としての訓練を受けた臓器別専門医」でないと患者を救うことはできないと考えています。


急性期治療の過程で生まれる要介護者

高齢者が急性期病院に入院したら、どんな病気でも絶対安静とし、リハビリテーション(以下、リハビリ)も十分に実施されないことが多いです。過度な安静で体はだんだん動かなくなり、結果的に寝たきり状態(要介護状態)となります。そうならないための早期リハビリテーションの重要性をずっと訴え続けてきています。そこで必要なのは、患者数に対する看護師数の配置基準(基準看護)だけでなく「基準介護」と「基準リハビリ」の追加です。

病棟内に多職種のスタッフを配置して、手厚いケアとリハビリを施すことで、要介護者は減少して医療・介護費削減につながります。急性期病院における栄養・水分摂取やリハビリの軽視、身体拘束をなくせば要介護者は確実に減るでしょう。


安易に看取りを考えない

私たちは患者の終末期についてしっかりと考えるべきです。「もう歳だから」という理由で治療に全力を尽くさずに看取りの方針にするのか、治る見込みがあればできる限りのことをするのか、さまざまな意見があるでしょう。しかし、一度高齢者本人に聞いてみてください。十分生きたからいつ死んでもよいか、それとも元気でもっと長生きしたいのか――。後者の答えが多いのではないでしょうか。

 

私たち医療人は患者の「もっと生きたい」という思いを受け止め、全力を尽くさないといけません。症状の改善に努めていても治療法がなかったり、治療が功を奏さなかったりする場合に、初めて看取りを考えます。看取りは簡単です。しかし治療で改善させて日常生活へ帰すことは非常に大変なことなのです。それにしっかりと向き合う必要があります。


これからの病院のあり方――急性期以外は「地域多機能病院」へ

厚労省の患者調査によると、65歳以上の高齢患者の入院受療率が明らかに低下傾向にあります。これは人口減少による影響もありますが、病院を施設代わりにしていた、いわゆる“社会的入院患者”が4人部屋以上の狭い・暗い・汚い病室から、個室で療養環境の恵まれた介護施設にどんどん移っていったためです。

 

そもそも、普段健康に暮らしている時よりも生活環境の悪い状況に患者を置いて治療をするのは、おかしいのではないでしょうか。病院は、患者にとってどうしたらよいかを真剣に考える必要があります。病院がどんどん淘汰されていくなか、的確なアウトカムが出せない病院は次第に地域の信頼を失うことになるでしょう。

 

また2022年度の診療報酬改定では、高度急性期病院が本来持つべき機能が明確に示される形となりました。クリアすべき施設基準が厳しく設定された「急性期充実体制加算」が新設されたのです。実態にそぐわない“なんちゃって急性期病院”を減らそうとする国の方針が浮き彫りになっています。

 

将来的な病院機能は、現在の高度急性期、急性期、回復期、慢性期といった分類から、「(高度)急性期病院」と「地域多機能病院」に2分化されるでしょう。急性期病院は、急性期充実体制加算または総合入院体制加算を算定する病院に限定され、それ以外は地域多機能病院(急性期型・慢性期型に大別)になると考えます。


地域多機能病院として選ばれる努力を

地域多機能病院に必要なのは▽関連施設として介護保険施設の設置や在宅(訪問・通所)サービスの提供▽リハビリの充実による入院期間の短縮▽急性期病院からの紹介入院の増加▽自宅などからの入院患者の増加――です。自宅からの入院患者を増やすには、地域連携部門を拡充する必要があります。加えて外来・往診患者数を増やし、さらに地域の診療所とのこまめな連携により紹介入院を増やすことが重要です。当然、土日や夜間の救急患者を断らないことも必要です。

 

病院は地域の信頼を得る努力をし続けないといけません。日本は国民皆保険制度によって、どの病院でもあまり変わらない負担金で医療を受けることができるため、よりよく治してくれる病院が選ばれます。患者が来なければ病院は生き残れません。外来も入院も、ほかの病院より少しでもよいサービスを提供するべきなのです。患者が病院に望むのは「よい結果」です。

 

急性期医療だけでは日本の医療は成立しません。そして療養病床だけの病院はやがて消滅します。慢性期の高齢者や要介護者の急変にも対応できないような病院は、地域から必要とされなくなるでしょう。良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない――。今日まで訴え続けてきた言葉をお伝えして、退任させていただきます。

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