介護・福祉 2022.09.14
長い歴史とともに地域に貢献する金上(かながみ)仁友会のあゆみと展望――安藤正夫先生に聞く慢性期医療の醍醐味とは
医療法人 金上仁友会 理事長/金上病院 院長 安藤 正夫先生
宮城県角田市において、病院や介護施設、訪問看護などの医療・介護サービスを包括的に提供する医療法人 金上(かながみ)仁友会。医療法人 金上仁友会 理事長であり金上病院 院長の安藤 正夫(あんどう まさお)先生は、時代とともに変わる医療・介護ニーズに応える形で変化を続け、サービスの拡充にも努めてきました。今回は安藤 正夫先生に法人の歴史やこれまでの取り組み、また慢性期医療の醍醐味について伺いました。
金上病院のあゆみ
金上病院のはじまり
当院の歴史は1843年に金上 元東がこの地に医業を開祖したことに遡ります。そして1940年、私の祖父である金上 良仁が金上病院を設立し、現在の病院という形での運営が始まりました。祖父は当時この地域では珍しい産婦人科医でしたので、近隣はもちろん遠方からも多くの患者さんが来院されたようです。また教育熱心な人柄で、地域の教育や文化の発展にも多大な貢献をしたと聞いています。
その跡を継いだのが、外科医だった父、安藤 祐介です。昔はさまざまな病気の治療を外科手術に頼っていた時代でしたので、父は1日に何件もの手術をこなしていました。しかし、外科手術に頼らない治療法がだんだんと確立され、地域の小さな病院で外科手術を行う時代ではなくなりつつある一方で、強く必要性を感じ目を向けたのが介護分野でした。そして、祖父の代から計画していた介護老人保健施設(以下、老健)「ゆうゆうホーム」が東北・北海道エリアの第一号として1988年に設立されました。
院長に就任
私は当初、父の跡を継ぐ予定はなく、消化器内科医として大腸内視鏡を専門に学会活動などに励んでいました。ところが、病院を継ぐ予定だった兄が継がないことになり、私が代わりに院長に就任することになったのです。
院長就任後は、内視鏡検査・治療を中心にして臨床に携わりながら、1つの病院でできるだけ専門的な医療が受けられる体制を整えることに注力しました。当院のある地域は交通の便が非常に悪く、患者さんがいくつもの病院に通うのは大変だったことが理由です。そこで大学病院などから医師を招き、複数の専門外来を開設することにしました。加えて、以前から取り組んでいた訪問診療や訪問看護などの訪問系サービスの拡充にも努めました。
時代の変化とともに、病院も変化を続けてきた
私が院長に就任してまもなく、2006年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に伴い、国は介護療養病床の段階的な廃止を決定しました。それまでは国によって介護療養病床の整備が促されていましたので、当院にも60床ほどの介護療養病床がありました。これほどの病床をどうすればよいのか……と最初は途方に暮れる思いもしましたが、院内のスタッフとともに勉強し知恵を出し合いながら、少しずつ介護療養病床を減少させ、病棟再編を進めてきました。その後、2014年度の診療報酬改定で地域包括ケア病棟が新設されたのを機に、次は一般病棟を中心に徐々に地域包括ケア病棟主体の体制に転換してきたのです。
そして今現在も、病棟再編の計画を進めています。この地域の人口は年々減少傾向にあることから、それを見据えた基盤整備を進めており、病棟に関してもダウンサイジングする方向で検討しています。これからも人口動態や医療制度は絶えず変化していきますので、変化に柔軟に対応できない病院は生き残れないと考えています。
人材への取り組み
子作り・出産・子育てのしやすい法人を目指して
この地域は医療や介護の担い手が不足している現状があり、特に看護師不足は深刻です。そこで人材の確保や、長く働き続けてもらうための取り組みとして、「子作り・出産・子育てのしやすい職場」を法人のモットーとして掲げています。実際、男性の育休取得率も非常に高く、2018年度には宮城県医師会のイクボス大賞も受賞しています。院内保育園も設けており、「保育園があるから働き続けられる」と言ってくれるスタッフは多数います。副理事長・副院長である私の妻も院内保育園を利用して子育てと仕事を両立してきました。
15年後を見据えた若手育成
今後、もっとも行わなくてはならないと考えているのが「人材育成」です。私を含め、これまで法人の中心的役割を担ってきたスタッフが年齢を重ねてきたこともあり、これからは若手にバトンを引き継いでいく必要があると考えています。そこで、今年度の法人の目標の1つとして「15年後を見据えた若手の人材育成」を掲げました。どのような事業を展開しようと、結局それを動かすのは「人」です。人が育ち、よい環境ができれば、そこには自然と素晴らしい仲間が集まってくると思うのです。
安藤正夫先生ご提供 新人歓迎会の様子
そのほか、人材に関する取り組みとして、昨年から人事部門はMS法人(メディカル・サービス法人)4に委託する形を取っています。人事部門の仕事が多岐にわたり多忙を極めていたこともあり、法人で働くスタッフの心のケアや、職場に対する意見や要望などを吸い上げる体制が整っていなかったことが理由の1つです。メンタル面でのケアが必要なスタッフが気軽に相談できる窓口をつくるなど、今後よりシステマチックに人事部門を機能させていきたいと考えています。
新型コロナや自然災害……有事への対応
地域の医療資源が限られているなか、有事の際にも医療・介護機能を止めることなく継続することは当法人の使命です。新型コロナウイルス感染症については、グループホームと病院、それぞれでクラスターが発生しましたが、どれだけ感染対策を徹底していても、感染を100%防ぐことは困難だということを痛感してきました。できる限りの対策として、たとえ無症状だったとしても感染している可能性があると想定して動くようにスタッフには伝え、勤務中には全員がN95マスクを着用しています。N95マスクはつけているだけでも息苦しいので、着用しながらの勤務は大変な苦労をさせてしまっていると思うのですが、スタッフの協力のおかげで医療・介護機能を継続できています。
また当法人では、東日本大震災や今年3月に発生した地震災害、また数年前には阿武隈川の氾濫による水害も経験しています。こうした自然災害の発生時の対応として、BCP(事業継続計画)*を策定していますが、十分には機能していないのが現状です。今後起こり得る有事に備えて、BCPをブラッシュアップしていくことが今後の課題です。
*BCP……災害などが発生した場合に組織の事業を継続することを目的とし、発災時の限られた必要資源を基に非常時の優先業務を目標時間・時期までに行えるよう策定する計画
慢性期医療の醍醐味――長い歴史の中で“1つの家族”に関わり続ける
私たちの病院は日本慢性期医療協会でも提案している地域慢性期多機能病院の位置付けです。地域救急・慢性期救急に対応しつつ急性期の治療が一段落した後の医療・介護に関して在宅サービスや福祉を含めたコーディネータとしての役割も果たします。「何か困ったことがあったら、金上病院に頼めばいろいろやってくれる」と思ってもらえるような、面倒見のいい病院を目指したいと思っています。
最近、「1人の患者さんを長く見守れることに慢性期医療の魅力を感じる」と言ってくれるスタッフが増えてきているように思います。私自身、この地で医療に携わるようになってから、その魅力を心から実感しています。さらには1人の患者さんのみならず、その方の親御さんやお子さん、さらにはお孫さんまでを診ることもあります。1つのご家族と何世代にもわたり長く関わり続け、人間同士の関係性を作り上げていくことは、慢性期医療の醍醐味にほかなりません。
安藤正夫先生ご提供 訪問診療の様子
今後の展望
金上病院では「地域に信頼される誠実な医療・介護」を理念として掲げています。この地域に人々が住み続ける限り、この理念を実行し続けることが私たちの使命だと考えています。
長い歴史の中で地域に根差し、住民の方々とのつながりがあるからこそ提供できる医療・介護サービスを私たちは担っています。スタッフが心からこの地域に貢献したいと思うのは、そうした古くからのお付き合いの中での信頼関係があるからだと思うのです。その点において代わりとなる存在はほかにはいません。歴史的なつながりがあるからこそできる医療・介護サービスを継続していく責務が私たちにはあるのです。
そのために重要なのは、やはり人材育成です。先述のように、15年後を見据えて次の人にバトンをつなげられるようにするのが、今私がやるべきことです。地域のためを思い、医療・介護に貢献できる意欲ある人材が育っていけるような組織にしていきたいです。