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2025年・2040年に向けて病院はどうあるべきか――高度・急性期病院の視点から

公立昭和病院 院長 上西 紀夫先生

2040年にピークを迎えるとされる高齢化。そんななか、必要なときに必要な医療・介護を受けられる体制を維持するために、政府は地域医療構想*や地域包括ケアシステム**を打ち出しています。しかしながら目標達成のためには、解決しなければならない多くの課題があります。今回は、地域の高度・急性期医療を担う公立昭和病院 院長 上西 紀夫(かみにし みちお)先生にお話を伺いました。

 

*地域医療構想:各病院機能の細分化と連携を進め、効率的な医療提供体制を実現する取組みのこと

**地域包括ケアシステム:高齢者のサポートを目的として、地域が一体となって住まい・医療・介護・予防・生活支援を行う体制のこと


2025年/2040年問題とは?

少子高齢化が深刻化している日本には、団塊の世代が全員後期高齢者となることで75歳以上の人口が全人口の約18%を占める「2025年問題」、そして65歳以上の人口が全人口の約35%になり、高齢者人口がピークを迎える「2040年問題」という2つの大きな課題が存在します。特に深刻なのは2040年問題でしょう。少子化に伴って現役世代も減少しているなか、少ない人数で高齢者特有の疾患(たとえば繰り返す肺炎や骨折など)を診ていかなければなりません。当院のような急性期病院も、本来の役目である高度・急性期治療に注力すると同時に、回復期や慢性期診療に力を入れる地域の病院とうまく連携しながら、地域包括ケアシステムを構築していく必要があります。


自院の病床機能のあり方が、さらに問われる時代に

政府は「ときどき入院、ほぼ在宅」を理想とする「地域包括ケア病棟」を2014年度の診療報酬改定で新設しました。役割は▽急性期治療を終えた患者さんの受け入れ▽自宅や介護施設などからの緊急時受け入れ▽在宅・生活復帰支援――とされています。

 

地域包括ケア病棟を持つ急性期病院では、治療を終えて小康状態となった患者さんを自院の地域包括ケア病棟に転棟させて診療を継続していました。しかしながら近年の改定で、自院の急性期(一般)病棟からの移動を6割未満にとどめ、それを超える場合には診療報酬が大きく減算されることになったのです。

 

また今後、病床機能の適正化がより厳格になることで、本来行うべき急性期医療を十分に担えていない急性期病棟は淘汰されていくことでしょう。こうした事態を見据えて、地域包括ケア病棟や急性期病棟を減らし、回復期リハビリテーション病棟や慢性期病棟を増やす民間病院も増えてきました。しかし当院のような公立病院は、自治体の許可なく病棟編成を変えることはできません。また、急性期にこだわる医師もいるため、病棟編成の変更がさらなる人手不足につながる恐れもあります。

 

イメージ:PIXTA


棲み分けの明確化

当院における対策としては、地域の200~300床病院ときちんと連携して、各病院が本来の病床機能の役割・使命を果たすことだと思います。当院は高度・急性期医療に集中し、急性期~慢性期の患者さんに関しては、地域の病院へのご紹介をより強化せざるを得ないかもしれません。

今まで診てくれていた病気をなぜ診てくれないのか、と患者さんやご家族にご納得いただけないケースも増えるかもしれませんが、当院には高度・急性期治療という使命があります。今後、高齢者特有の疾患が増えてきた際にも、全ての患者さんを受けいれて満床にしてしまっては、本来の務めを果たせなくなります。そういう意味では、今の段階から準備が必要だと思います。

 

幸いにも当院が所属する北多摩北部地区での地域連携は順調で、精神科病院との連携や各病床機能の分配もバランスが保たれています。ただ、今回の診療報酬改定で地域包括ケア病棟の扱いがいっそう難しくなったことをきっかけに、バランスもある程度変化することが見込まれますので、対策を練る必要はあるでしょう。


高度・急性期病院として担っていくべきミッション

新しい治療や救急医療の充実

先にお話ししたとおり、これからは各病院が本来の役割をよりしっかりと果たしていく必要があります。当院としては、がんや心不全、骨折などに対する高度急性期の医療と救急医療、そして小児・周産期医療をより充実させていきたいと考えています。がん治療については、設備投資を行いながらより高いレベルの治療を目指します。救急医療においては泣く泣く断ることのないようにしたいですね。また、近年は出生数の減少が問題になっています。私が産まれたころは200万人以上であった毎年の出生数は、2021年には81万人ほどと減少しています。出産年齢の上昇に伴う課題もあります。この地域では小児・周産期医療の担い手が少ないので、継続して力を入れていこうと思っています。

 

急性期医療の強い追い風「急性期充実体制加算」――ただし施設基準は厳しい

2022年度の診療報酬改定で「急性期充実体制加算」が新設されました。これは、高度急性期医療を提供する体制が十分に確保できている急性期病棟に対して評価するものです。いわゆる”スーパー急性期病院”に与えられる加算といえるでしょう。

 

高度・急性期病院が改めて評価されたことは当院にとって強い追い風となりますが、高い点数が設定されているため、施設基準も非常に厳しく設定されています。特にRRS(Rapid Response System:院内迅速対応システム)という、急変の可能性がある患者さんを早期に把握し、早期から治療介入を行う体制が求められた点は大きなポイントです。RRSによる早期治療ができれば、救命率上昇や早期退院も可能になります。しかしながらRRSチームで中心となる救急医は非常に少なく多忙なことから、RRS体制の構築にも時間を要する施設が多いと思います。

 

イメージ:PIXTA

 

また「感染対策向上加算1」も認定施設基準とされています。ここでは、自院が中心となって地域の医療機関と連携し、感染対策を行うことが求められていますが、そのためには大病院や中小病院などを含む地域全体で感染症対策会議を行い、指導をする必要があるのです。ただ、中心メンバーとなるべき感染症専門医の数も少ないため、RRSチームの構築と感染症向上加算1両方を満たす施設となると、全国でも取れるのは100施設ほどではないでしょうか。

 

しかしながら、急性期充実体制加算が取れるよう整備ができれば、人員確保や働き方改革の推奨も可能になるかもしれません。当院でも加算取得の準備を進めており、2022年7月以降対象となる見込みです。

 

人材の確保

人材確保は病院にとって大きなミッションの1つですが、ありがたいことに当院では年々入職希望者が増加しています。特に救急診療を希望する医師が多いです。研修医に対して厳しくも温かく指導をしている様子を見て、同じように働きたいと思ってくれる見学者が多いようです。最近では関連大学以外からも希望者が出るようになりました。

 

看護師に関しては、口コミの影響が大きいと思います。ひと昔前は在院日数も長く、外来患者数も非常に多かったため、研修に来た看護学生の指導やケアに十分な時間を割けていない状況にありました。そこで、まずは看護学生への声掛けを積極的に行うように、意識を変えるところから始めました。さらに、一時的ではあるものの、病院改装時の病床数減少で、7対1看護体制(看護師1人に対して7人の患者さんを受け持つこと)が可能になったことが、看護師の負担軽減につながったのだと思います。

 

また、病院のホームページには「看護師は病院の宝です」と記載しました。どの職種ももちろん欠かせませんが、病院内で看護師が占める割合は高く、患者さんにも一番近い大切な存在です。以前は募集に対する応募数は定員ギリギリで、離職率も10%以上ありました。一方現在は募集人数に対して3倍ほどの応募をいただいており、離職率も5~6%にまで改善しています。軌道に乗るまでには地道な努力が必要ですが、今後も「職員の満足なしに患者の満足なし」をモットーに、職場としての魅力を高める活動に力を入れていきたいと考えています。

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