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地域の“よろず相談所”たる有吉病院を受け継ぎ、これからも人々を支えたい――田中 圭一先生の思い

医療法人笠松会 理事長 田中圭一先生

医療法人笠松会 有吉病院は、1980年の開設以来、かかりつけ医として地域の医療ニーズに応え続け、現在では医療療養病棟と介護療養病棟を備え、さらに、関連社会福祉法人でグループホームやケアハウス、介護施設などを併設し、支援や介護を必要とする方々への切れ目ない医療、ケア提供体制を整えています。

田中 圭一(たなか けいいち)先生は、院長の有吉 通泰(ありよし みちやす)先生からの要望を受けて事業承継を行い、2011年より同法人の理事長を務めています。田中先生に、これまでのあゆみと今の思いを伺いました。


叔父に影響を受け、医師という職業に憧れた

幼い頃から漠然と、医師という職業に憧れていました。医師だった叔父に影響を受けたのかもしれません。白衣姿がかっこよかったですし、医師というのはみんなの病気を治して感謝される、人の役に立てるすごい仕事なのだと思いました。

ほかの仕事に就こうと考えたことはないですね。生命そのものに興味が強く、動物が好きだったので、もしほかに自分にできるものがあるとすれば、獣医師でしょうか。人の命や人生に関わることのできる医師という仕事は私にとって天職だと思っています。


「なんでも診ることができる医師になりたい」と思い、内科全般の診療に従事

医学部を卒業したのち、一般内科と消化器内科を専門として、門司掖済会病院、市立若松病院(現 産業医科大学若松病院)、製鉄記念八幡病院、小竹町立病院などで内科全般の診療に従事してきました。

内科の分野を選択したのは、「なんでも診ることができる医師になりたい」と思ったからです。その考えは今でも変わらず、地域医療の中で、患者さんやスタッフからどんなことでも相談してもらえる医師になりたいと思っています。


地元で縁のあった有吉先生に呼ばれ、後継者として有吉病院へ

 

有吉病院の前には、隣町にある小竹町立病院で7年間内科部長を務めていました。元々、父の運営する施設と有吉病院での関わりがあり、院長の有吉 通泰(ありよし みちやす)先生とは30年ほど前からの知り合いです。私の結婚式には来賓として参加していただきました。そのようなご縁がありつつ、小竹町立病院での働きぶりを評価してくださったのか、有吉先生が私を後継者としてここへ呼んでくださいました。

 

「病院を譲ります」と言われたときには、正直戸惑いましたね。なにしろ、自分が育てた子どものように大切な病院を、昔から知っているとはいえ一知り合いでしかない私に譲るなんて、にわかには信じがたいことだったからです。しかし、いろいろと話していくなかで、有吉病院は地域の皆さんに必要とされていて、その理念と歴史を受け継ぎつないでいく後継者を探していたことを知り、そのうえで私を頼りにしてくださったことを嬉しく思いました。


事業承継において最終的に大切なことは、信頼し合える人間関係

実際に事業承継すると決まってからは、主に事務的な部分が大変でした。持ち分に関すること、資金調達など。“病院の後継者”という問題は、全国で聞かれますよね。親子でも難しいのですから、他人ならなおさらでしょう。しかし、最終的にはお互いをリスペクトすること、理性を持って話し合うこと、つまりは人間関係が重要だと感じました。

病院の買収などでは、スタッフ一新などの話を聞くことがありますが、私の場合は、前の職場で共に働いていた事務長だけを連れてきました。その方とは高校時代から30年以上の付き合いです。有吉先生との間に入ってもらい、調整役を担ってもらっています。


“有吉病院らしさ”を受け継ぎながら、経営と診療に携わりたい

福岡県宮若市の人口は28,000人ほど(2019年10月時点)で、2025年には26,000人ほど、2040年には23,000人ほどに減少していくと推測されています。このようなエリアに有吉病院はあり、交通の便もよいとは言い難い立地ですが、元日を除く364日外来診療を行っており、多くの患者さんの診療にあたっています。

有吉先生の患者さんとの関わり方は、私が知っているものとは大きく異なりました。有吉先生は患者さんのファミリーツリーを広く把握していて、お互いに携帯番号まで知っているほど、関係がとても深いのです。病気のことはもちろんですが、患者さんの困っていることを受け止め、相談に乗っている有吉先生の姿を見て、この病院は地域に根ざした“よろず相談所”のような存在だと思いました。

 

有吉病院に勤め始めた頃に、診療の待ち時間を減らそうと思い、「私が診ましょうか」と患者さんに声をかけたことがありますが、「いいえ、有吉先生を待ちます」ほとんどの方に断られてしまい、かなり落ち込みましたね。一方で、患者さんに絶大な信頼を得ている有吉先生は、やはりすごいなと感嘆しました。

これからは法人理事長として、副院長として、経営と診療の両面で役に立ちたいと思っています。有吉先生がこれまで積み重ねてきた“有吉病院らしさ”を受け継ぎながら、必要に応じて私なりの視点をうまく生かせたら嬉しいです。


地域の方々を支える病院、法人として心の通った医療とケアを提供し続ける

 

有吉病院での診療に加えて、関連福祉法人でグループホームやケアハウスなどを運営しており、そのなかで、患者さんやご家族の生活、人生に関わることが多くなりました。お看取りする患者さんもいらっしゃいます。一人ひとり人生観、死生観が異なりますから、その思いに寄り添いながら最善の道を探っていく過程は、簡単ではないですが、非常に大切なことです。ACP(人生会議)を適切に行い、亡くなる方も残された方も満足できる死(私はこれを“満足死”と呼んでいます)を迎えられるようにするのも、私たちの大切な役目です。

 

このように、医療的な介入にとどまらず、患者さんの思いを丸ごと受け止め、できる限り希望を叶えられるよう、心豊かな生活を過ごせるようにアプローチすることにやりがいを感じます。そして、患者さんやご家族が満足して「ありがとう」と言ってくださるときには、非常に嬉しいです。これからも私たちは地域の方々を支える病院、法人として、心の通った医療とケアを提供し続けます。

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