介護・福祉 2020.01.31
永生病院における管理栄養士の活躍
永生病院 栄養科主任管理栄養士 松葉杏子さん
東京都八王子市にある永生病院の栄養科は、患者さんの入院から退院までを、チーム一丸となってサポートしています。ケアミックス病院ならではの管理栄養士の活躍について、同科の主任管理栄養士を務める松葉杏子さんと、医療法人社団永生会法人本部栄養統括管理部長の佐藤高雄さんに伺いました。
ケアミックス病院における管理栄養士の活躍
永生病院外観
当院は、一般病床と療養病床の機能を併せ持つケアミックス病院です。各病棟を担当する管理栄養士が、患者さん一人ひとりに合わせた栄養ケアを行っています。
ここでは、各病棟における管理栄養士の業務内容をご紹介します。
回復期リハビリテーション病棟
リハビリテーションを行っている患者さんは、リハビリテーションの進み具合によって、栄養の必要量が細かく変わっていきます。当院の管理栄養士は、カンファレンスに参加して、主治医、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、リハビリテーションスタッフたちと相談しながら、食事の提供の仕方や、エネルギー量、必要な栄養素などをプランニングし、提案します。
医療、介護療養病棟
当院では、患者さんの退院支援も含めた栄養ケアを行っています。たとえば、病院では食事ができていた患者さんでも、当院を退院して次に入所する施設では同じような食事が提供されず、うまく食べられなくなってしまうことがあります。そこで、当院の管理栄養士は、患者さんができるだけスムーズに食事できるよう、施設と連絡をとりながら適切な情報共有を行います。
人生の最終段階における医療(終末期医療)やケアを行っている方には、ご家族も一緒に、食事や食卓の提案をしています。
地域包括ケア病棟
地域包括ケア病棟には、急性期治療を終えて病状の落ち着いた患者さんをはじめ、さまざまな病態や事情を抱えた方が入院されます。主な業務内容は、在宅復帰の支援です。普段はご自宅で過ごしている患者さんが入院する場合、特にご家族は、入院中の様子を想像できず不安に思われるのではないでしょうか。そこで、当院の管理栄養士は、ご家族からの食事に関するご質問やご相談にも積極的に応じています。
整形外科病棟
整形外科病棟は、手術を受ける患者さんが入院されます。低栄養の方も多く、手術前後の食欲不振などへの対応が必要となります。栄養状態の改善がその後の機能回復にも大きく影響するため、栄養管理は大変重要です。また、変形性疾患の方においては、生活習慣病を持たれていることが多いため、栄養食事相談の必要性が高いです。術後の全身管理に加え、リハビリにつなげる栄養計画の見直しを行い、必要な方には同じ法人の診療所である永生クリニックにおいて、継続した栄養指導を行います。
管理栄養士の業務のひとつ、外来栄養食事指導
当院の管理栄養士は、永生クリニックにおける栄養食事指導も担当しています。外来栄養食事指導の対象となるのは、糖尿病、脂質異常症、高度肥満症、低栄養状態などの患者さんです。適切なアセスメント(評価)を行い、患者さんに合った指導を心がけています。目標の数値を目指すだけではなく、生活上の不安が少しでも減るような指導に努めています。
外来栄養指導は、継続して行うことが大切ですから、月に1回の診察に合わせて受けることを患者さんにおすすめしています。管理栄養士が患者さんと接するのは1か月のうちのたった1日、それもおよそ20分間だけです。その間に、患者さんの考えや意識を少しでも健康的なほうに向け、その技術を高めるには、患者さんとの関係性が非常に重要になります。
教科書に書かれていることを淡々と説明するのではなく、まずは私たち管理栄養士のことを好きになってもらえるよう努力します。「診察は終わったけれど、もう少し残って話を聞いていこう」と思っていただければ、外来栄養指導を長く続けてもらうことにつながります。不安なことがあるとき、気軽に相談できるような存在でありたいと思っています。
連携して医療やケアを提供する、永生病院のスタッフの魅力
チーム一丸となって入院から退院までサポート
当院では、手術のあとに回復期リハビリテーション病棟へ移る患者さんや、地域包括ケア病棟でご自宅に戻るためのリハビリテーションを行う患者さん、退院先の施設を探しながら医療、介護療養病棟でリハビリテーションを行う患者さんなど、さまざまな患者さんがいらっしゃいます。患者さんの主訴によって、何度か病棟を移動されることがあります。
患者さんができるだけスムーズに病棟を移動できるよう、栄養科内では適切な情報伝達に努めています。チーム一丸となって退院を支援しているからこそ、患者さんの退院を見送ったスタッフから「◯◯さん、退院されました」と報告を受けたとき、大きな達成感があります。
各種委員会に出席
当院の栄養科の特徴は、管理栄養士一人ひとりが、医療安全や感染症対策などの各種委員会に出席していることです。各部署の役席者と話したり、他部署の情報を共有したりすることができるため、院内の状況を把握する機会となっています。
どの管理栄養士も、委員会に初めて出席したときは、うまく発言できないものです。しかし、徐々に慣れていき、各部署のスタッフと知り合うことで “仲間”もできます。他部署のことをよく知っていれば、病院への帰属意識が高まり、より愛着を持って仕事に取り組むことができるようになるのではないかと考えています。
意見交換の場や交流会への参加
当法人の広報室は、地域にお住まいの方に参加していただける意見交換の場や交流会を企画しています。介護やケアに関心を持つ方が集う“ケアカフェ”は、公民館などを貸し切って、コーヒーやお茶を飲みながらディスカッションするもので、毎月開催しています。地域の病院で働く医療従事者をはじめ、さまざまな職種の方が集まって意見交換をしています。お酒を飲む “ケアバル”も、半年に1回ほど開催されています。
また、当法人の職員間の交流会としては、部署の垣根を越えて行う “井戸端会議”があります。スタッフは私服で参加し、ふらっと1杯飲んで帰るだけでもOKという気軽な会です。そこで知り合ったスタッフと委員会や病棟で会ったときは、よりスムーズにお話しすることができるため、日々のチーム医療にも役立っていると実感しています。
永生病院主任管理栄養士 松葉杏子さんの目標
地域に病院が1軒もないと不安だという方は多いのではないでしょうか。当法人、そして当院が八王子市にあり続けるために、私は、自分にできることを常に考えています。
たとえば、離職者を減らすこと。スタッフの紹介や採用にかかる費用を把握し、今いるスタッフを大切にする風土をつくっていきたいです。栄養科という枠を超えてチームを強くするために、当法人の理事長が言う「専門職の分野にとどまらず、組織人として医療の業界を支える存在となる」という目標に向け、成長していきたいと考えています。
次に、栄養管理や食事相談だけでなく、食事にまつわることを今までよりも広く、管理栄養士が担っていくこと。たとえば、看護師も食事記録をするなど栄養ケアに携わりますが、そこに管理栄養士も関わることで専門的な提案が加わります。そうすることで、患者さんへ還元できることが増えるだけではなく、看護師の負担を軽減することにもつながると考えています。
私の目標は、“食事”や“栄養”をツールとして、患者さんの不安を取り除き、安心を増やせるようなサービスを継続して提供することです。
管理栄養士の皆さんへ、松葉杏子さんからのメッセージ
研究会や講演会に参加して学ぶことは大切ですが、私は、そのなかで行われるグループワークや、その後の交流会に参加することも大切だと考えています。
学会が主催する研究会の中には、グループディスカッションに1日を費やすようなものもあります。参加すると疲れることもありますが、自分の取り組みを見つめ直す機会となり、課題をたくさん持ち帰ることもできます。そして、交流会にも臆することなく参加して、同じ志を持つ“仲間”を増やしていっていただけたらと思います。