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誤嚥性肺炎のリハビリテーション栄養

横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科 若林秀隆先生

「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」とは、本来食道にいくべき唾液や食べ物・飲み物などが、誤って気道に入り(=誤嚥)、肺に達することによって炎症が起きた状態をさします。高齢者の肺炎のうち7割を占める「誤嚥性肺炎」は、これからの慢性期医療における重要なテーマといえるでしょう。誤嚥性肺炎のリハビリテーション栄養(以下、リハ栄養)について、お話を伺います。


誤嚥性肺炎による嚥下機能低下

  • 誤嚥性肺炎はサルコペニアの原因になりえる

誤嚥性肺炎に対する入院治療では、「とりあえず安静・とりあえず禁食(病態により食事ができないと判断された状態)」とされることが多く、過度な安静によってサルコペニア(全身の筋肉量、筋力、身体機能の低下)が起こりえます。さらに、腕からの点滴で1日300kcal以下の不適切な栄養管理が行われた場合、飢餓によるサルコペニアを合併します。誤嚥性肺炎による炎症そのものも、筋肉の分解を増やします。これらのことから、誤嚥性肺炎はサルコペニアを引き起こす原因になりえます。

 

  • 高齢者はサルコペニアの嚥下障害になることも

予備力が低い高齢者の場合、誤嚥性肺炎の前は経口摂取できていても、誤嚥性肺炎の後にサルコペニアの嚥下障害となり、経口摂取が困難になるケースもあるため、特に注意が必要です。


誤嚥性肺炎に対するリハビリテーション栄養

(1)嚥下機能の評価

誤嚥性肺炎のリハ栄養では、まず嚥下機能の評価を行います。

食べている様子を3分ほど、摂食嚥下の5段階を意識しながら観察することで、大まかに評価できます。摂食嚥下は、以下の5段階にわけられます。

 

  • 認知期
  • 準備期
  • 口腔期
  • 咽頭期
  • 食道期

食事する様子を観察し、食事を口に入れるまでの動作と認識ができているか、噛めているか、口からのどへ送り込めているか(食べたあとに口を開けて観察する)、むせないかという点を観察します。さらに、のどを聴診して嚥下音と呼吸音をチェックし、胸焼けの有無を尋ねます。これらのステップにより、5段階のどこに問題が起こっているのかを大まかに判別することができます。

 

 (2)スクリーニングテスト

誤嚥性肺炎の患者さんの嚥下機能は、以下の順序で判断します。

 

  1. 全身状態の観察・評価(スクリーニングテストを実施できる状態か評価する)
  2. 改訂水飲みテスト(3mlの冷水を飲み、誤嚥の有無などを確認する)
  3. フードテスト(約4gのゼリーやプリンを用いて、口腔内残留物や誤嚥などの有無を確認する)

 

改訂水飲みテストとフードテストをパスした場合、ゼリーやトロミなどの嚥下調整食を開始できる可能性が高いです。さらに、必要であれば、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査などを行うこともあります。


誤嚥性肺炎の治療における「リハ栄養」のポイント

  • 入院時から適切なリハと栄養管理を行い、体の機能や嚥下機能を維持する

誤嚥性肺炎になる方は、もともと高齢者、低栄養、サルペニアやフレイルによって嚥下機能が低下している、またADL(日常生活活動)の自立度が低く寝たきりである場合がよくあります。

そのような方が誤嚥性肺炎を起こしたとき、「とりあえず安静」「とりあえず禁食」「とりあえず1日300kcal以下の点滴」として抗菌薬と酸素吸入で治療を行えば、低栄養によってさらに体の機能や嚥下機能が急速に低下してしまいます。このことから、誤嚥性肺炎の治療においては、入院時から適切なリハと栄養管理を徹底し、体の機能や嚥下機能を維持することが重要なのです。

 

(1)入院当日にPT(理学療法)とST(言語聴覚療法)を開始する

上記の考えに基づき、誤嚥性肺炎の治療におけるリハの視点では、入院当日にPT(理学療法)とST(言語聴覚療法)をすべての症例に実施すべきです。OT(作業療法)は、ケースに応じて判断します。

肺炎の治療が終わってからリハを始めるのでなく、肺炎の治療と同時並行で、遅くとも入院2日以内にはリハを開始することが重要です。

*PT(理学療法)・・・起き上がりや歩行など基本動作の回復や維持を目的とした訓練

*ST(言語聴覚療法)・・・言語・聴覚によるコミュニケーションや嚥下機能の回復・維持

 

(2)入院当日か翌日に嚥下機能を評価する

誤嚥性肺炎の栄養管理に関しては、入院当日もしくは翌日までに嚥下機能を評価することが重要です。(詳しくは、こちらの記事をご覧ください。)

もちろん、重い意識障害やイレウス(腸閉塞)などによって食事が難しい場合には、禁食と判断することが適切です。しかし、食べられる方の場合はなるべく早く食事を始めなければ、嚥下機能が低下してしまいます。そのため、入院当日か翌日に嚥下機能を正しく評価し、その結果に応じた適切な栄養管理を始めることが重要です。

また、経口摂取が難しい場合には、入院当日から適切に末梢静脈栄養(静脈に細いチューブを挿入して栄養を補給する)を始めます。たとえば、入院当日からアミノ酸を含んだ製剤と脂肪乳剤を使い、1日300kcal以下ではなく、800〜1,200kcalで管理します。


誤嚥性肺炎の予防(リハ栄養の観点から)

  • 口腔ケア

誤嚥性肺炎を予防するためには、口腔ケアが重要です。なぜなら、口の中を清潔に保つことで、仮に誤嚥をしても肺炎になりにくいからです。特に、寝る直前に歯磨きを行うことが大切です。歯がない・少ない場合でもうがいをして、舌や口蓋などの粘膜部分にブラシをかけましょう。


  • 栄養状態を改善して免疫力を向上させる

低栄養は免疫力の低下につながり、誤嚥性肺炎を生じやすくなります。そのため、栄養状態を改善して免疫力を向上させ、誤嚥性肺炎を生じにくくすることが大切です。栄養改善には、記事1でお話したような「攻めの栄養管理」が必要です。

 

  • なるべく外に出て運動する、人・社会と接点を持つ

栄養管理とともに、適度な運動や社会性の維持も重要です。主治医の指導を受けたうえで、適度な運動を行いましょう。また、積極的に外にでて人とふれあい、社会との接点を持つことも大切です。このような生活が、フレイル、サルコペニア、誤嚥性肺炎の予防につながります。


入院中、患者さんご自身やご家族が注意できることは?

  • 患者さん:安静にしすぎない。できるだけ座位(座る姿勢)を維持する

治療するうえで必要な場合以外には、まずは安静にしすぎず「座る姿勢」でいることが大切です。理想的には、日中はベッドに横にならないで過ごせるとよいでしょう。ベッドで横になるのは夕食後から朝食前までと決めて、あとは座る、立つ、歩くなどで日中をすごすことが望ましいです。

 

  • ご家族:専門家による摂食嚥下機能の評価を信頼してほしい

専門家による摂食嚥下機能の評価で「経口摂取をしない」と判断された場合には、その時点ではその評価を信頼していただきたいです。たとえば、差し入れした食べ物を自己判断で患者さんに食べさせるといったことには、窒息などの危険が伴います。

もし主治医やその病院の判断に納得できない、あるいは「おかしいな」と感じたら、ほかの病院にセカンドオピニオンを求めることをおすすめします。たとえば日本嚥下摂食リハ学会のHPでは、一般の方を対象とした相談窓口として、学会評議員が所属する病院(掲載希望があった施設)を紹介しています。

 

また、点滴の内容をチェックしてみるのもよいでしょう。たとえば、点滴のエネルギーはどのくらいか、アミノ酸や脂肪、ブドウ糖などの栄養素がきちんと入っているかを確認して計算します。もし点滴で気になることがあれば、医師や看護師に「痩せているのが気になるので、管理栄養士や栄養サポートチームにみてもらえますか?」と相談するとよいと思います。

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