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在宅医療の課題と展望とは? 医療法人社団つくし会の取り組み

医療法人社団つくし会 理事長 新田國夫先生

医療法人社団つくし会(以下、つくし会)は、地域で支え合う“やさしい町”を目指し、1990年に東京都国立市に新田クリニックを開設。現在は同エリアで在宅医療や高齢者複合施設などの事業を展開しています。高齢化が進展する日本において、今後ますますニーズが高まるとされる在宅医療の課題や今後の展望、つくし会での取り組みについて、理事長の新田 國夫(にった くにお)先生にお話を伺いました。


在宅医療のあるべき姿とは?

“治すための病院医療”と、“支えるための在宅医療”

病院で提供される医療は、基本的に、病気やけがに対して治療を行い、患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高めることを目指します。特に、急性期医療(病態が不安定な状態から、治療によりある程度安定した状態に至るまでの期間)を備える病院では、患者さんが自宅に戻るまでの期間に “治すための医療”を提供する機会が多いです。

 

一方、在宅医療はまず患者さんの生活、人生があり、長く関わります。そのなかで医療やケアなどを提供し、ご本人が望む生き方や意志、健康、自宅での生活を支えます。つまり、“治す”という医療的要素に加えて、患者さんの生きがいや生活の満足度という視点が必要になるのです。このような点から、在宅医療は、患者さんを“支えるための医療”と言えるでしょう。たとえば、患者さんが片麻痺であったとしても、できるだけ不自由なく生活を送れるように、ご本人の意志を尊重し、必要に応じて医療、ケア、社会的サポートを提供できる体制を整える。そのようにして、患者さんの人生を支える存在になること、それが在宅医療のあるべき姿だと思います。

 

在宅医療は、患者さんとご家族の思いを支える一つの選択肢

1950年には8割ほどの方が自宅で最期を迎えていましたが、徐々にその割合は低下し、今、自宅で亡くなる人の割合は20%以下といわれています。代わりに、医療機関で亡くなる人の割合は増加し続けており、今や8割を超えています。このように、50年ほど前までは当たり前だった家での看取りが減ったことで、おそらく“死”は人々にとって遠い存在になっていることでしょう。

このような変化の背景には、高齢化の進展や人口構造の変化、それらによる医療資源の確保の難しさなどがあると思われますが、私は、“人生の最期を自宅で過ごしたい”という患者さんや、“自宅で家族を看取りたい”というご家族の思いを支えたいのです。もちろん、最後までできる限り医療的なケアを受け、延命を望む方もいるでしょう。それは選択肢の問題ですし、どちらがよいという話ではありません。いずれにせよ、患者さんとご家族の思いを支える一つの選択肢として、在宅医療はあるべきだと考えます。

 


在宅医療を取り巻く現代社会の課題

  • 家族構成の変化による介護者不在、介護力不足の問題

介護保険制度をはじめとする国の取り組みに象徴されるように、在宅医療の必要性は社会の中で徐々に理解されてきました。しかしながら、現在、介護者の不在、介護力の不足という問題が残されています。1980年代以降、65歳以上の人が子ども夫婦と同居する世帯は減少し続け、一方、65歳以上の夫婦のみの世帯や単独世帯は増加の一途をたどっています。このように家族構成が変化するなかで、高齢になった夫婦のどちらかが要介護になる老老介護や、独居で介護が必要になるケースなどが問題となっています。これらの事例では、介護者の不在、もしくは介護力の不足によって在宅療養が困難になってしまう可能性が高いのです。

このように、家族が同居して介護できるという前提が当たり前でない今、それを在宅で暮らすことができない要因に終わらせず、最期まで自宅で過ごしたいと望む方々の思いを叶えるのが、在宅医療の役割だと感じています。


つくし会の取り組みと、新田先生の思い

地域に貢献するべく、どのような患者さんでも受け入れる

私たちは、“どのような患者さんでも受け入れる”という方針で在宅医療に取り組んでいます。この根底には、地域で暮らす人々に貢献したいという思いがあります。

 

国立市の街並み

 

国立市には、古くは江戸時代から甲州街道沿いを中心に居を構える人々と、戦後の開発以降に移り住んできた人々がいます。一概には言えませんが、それぞれ家族意識や暮らし方(一戸建てか、マンションかなど)、地域との関わり方が異なります。たとえば、昔から住んでいる方は住民同士のつながりが強固で、独居でも近隣の方との交流が盛んであるのに比べ、戦後に移り住んできた方は時代の流れもあるのか、地域内でのつながりがあまり多くない印象です。

 

このように、同じエリアでも患者さんごとに生活スタイルや地域との関わり方が違うため、私たちは患者さんが置かれている環境や状況、ご本人の考えやご家族との関係性などをヒアリングしたうえで、カンファレンスなどを通じてスタッフ内で情報共有を行い、患者さんやご家族の希望を叶えるための最善の方法を探っています。

 

できる限り患者さんを取り巻く環境を考え、ご本人の苦悩を取り除き、不安を解消する

私たちは、まず患者さんが抱える苦悩をできる限り解消すること、そして、患者さんとご家族の不安を解消することを心がけています。患者さんが抱える苦悩とは、身体的な苦痛だけではありません。その人が暮らすなかで、生活がしにくくなる、日常生活を送ることができなくなることも苦悩の一つです。そのため、医療的な介入によって患者さんの身体的な苦痛を取り除くのは当然のことと捉えていますが、さらに、精神的な苦悩に関してもできる限り解消できるよう、医療の専門家として助言を求められれば答えています。


在宅医療に携わるご家族へのメッセージ

在宅医療の中心となるのは、患者さんご本人の意思です。私たちは、ご家族にご協力いただき、患者さんの本当の思いを理解し、その意思を尊重したいと思っています。“心身の状態やタイミングによって患者さんの意思は変わる可能性がある”ということも、大切なポイントです。誰でも、元気なときと病気のときでは、物事の優先順位や考え方に変化が起こる可能性がありますよね。ですから、人生会議(ACP)では、繰り返し話し合いを行うのです。

私たちはこれからも、患者さんとご家族を支えるための医療、ケアを提供し、1人でも多くの方が心豊かに生活できるよう、努力していく所存です。ぜひご家族の方には、一緒に患者さんを支えていただければ嬉しく思います。

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