介護・福祉 2021.05.21
“口から食べる幸せを守る” 良質な食支援 実践のポイント
NPO法人口から食べる幸せを守る会 理事長 小山珠美さん
何らかの理由で口から食べることが難しくなった場合、胃などに直接栄養や水を取り込む“人工栄養(経管栄養)”を選択することがあります。現状の医療・介護の現場では、口から食べたいという本人やご家族の願いが叶わず、人工栄養となるケースも少なくありません。できる限り口から食べられるようサポートするにはどのような視点や対策が必要なのでしょうか。“NPO法人口から食べる幸せを守る会”の理事長を務める看護師の小山 珠美(こやま たまみ)さんに、良質な食支援における実践のポイントについて伺いました。
“口から食べる”を支える――実践のポイント
13のポイント
「自分で口から食べたい」と望む方をサポートするためのポイントはいくつかあります。
✔︎ おいしく食べる意欲を維持する
✔︎ 全身状態を良好にする
✔︎ 呼吸状態を良好にする
✔︎ 口や喉の機能を良好にする
✔︎ 認知機能が低下している方へ適切にアプローチする
✔︎ 咀嚼(噛んで飲み込む)ができるようにする
✔︎ 安全に飲み込みを行えるようにする
✔︎ 安全でおいしく食べるための姿勢調整(ベッド・車椅子・椅子)
✔︎ 食事動作を安全に行うための工夫(食べ方・テーブル・スプーンなど)
✔︎ 活動性と社会参加を高める
✔︎ 人工栄養でも口から食べることをゼロにしない
✔︎ 状態に合わせた食事形態を検討する
✔︎ 栄養状態を良好にする
これまでの慣習では、脳卒中や肺炎で入院すると、“とりあえず”絶飲食と安静が指示されることが多くありました。しかし、徐々に“とりあえず”が必ずしも正しいとは限らないことが分かってきたのです。たとえば誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん:食道へ入るべき唾液や食べ物などが気管に入り、細菌を気道に誤って吸引することにより発症する肺炎)の場合、食べる機能の評価や食事を開始する目処を立てずに絶飲食と安静を行うと食べる機能を低下させやすいことが知られています。
長く絶飲食することの弊害を回避するためには“とりあえず”の絶飲食と安静をやめること、「口から食べることが可能か」を頻繁に検討することが重要です。
先に挙げた13のポイントについて、より詳細な説明はこちらの“おいしく食べ続けたい!食事サポーター講座標準テキスト”をご覧ください。
“KTバランスチャート”の活用
私たちは、口から食べるための支援に必要な要素について、専門家でなくても評価でき、ケアに生かせるよう“KTバランスチャート”というツールを作成しました。KTバランスチャートは、食べたいと望む方に対してどのようにケアすれば食べる力が改善するのかという視点に立って作成されたツールです。13の独立した観察・評価項目をそれぞれ1〜5点で評価し、レーダーチャートを作成します。この13の項目は先ほど挙げたポイントに紐づいています。KTバランスチャートの活用についてはこちらをご覧ください。
KTバランスチャートの13項目
人工栄養が本当に必要かを定期的に評価する
経管栄養などの人工栄養が本当に必要かについて、定期的に評価することが重要です。口からの食事をやめなければいけないのは、ごくごく限られたケースだと思います。たとえば意識障害が重度であるとか、口腔がんや消化器系のがん、消化管から出血がある、手術の直後など、人工栄養を選択せざるを得ないケースもあるでしょう。
しかしそれでもゼロにする必要がないこともありますし、状態が改善した時点で経口摂取を試みる意義は大きいです。ケースによっては、経口摂取か人工栄養かという2択ではなく、両方の可能性を考えるのもよいと思います。
写真:PIXTA
摂食嚥下チームを機能させる
良質な食支援を1人のスタッフだけで実現するのは困難です。そのためにはやはり医師(脳神経内科・脳神経外科・耳鼻咽喉科・口腔外科など)、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士、管理栄養士など多職種による摂食嚥下(せっしょくえんげ)チームがうまく機能する必要があります。
摂食嚥下チームをうまく機能させるためのポイントは3つです。1つ目は、チーム全体で活動の目的を共通認識すること。チームを作ることはあくまで手段であり、その目的は患者さんの経口摂取のサポートであると常に意識することが重要です。2つ目は一人ひとりがそれなりの実力を有する、あるいは相応の努力をしていること。人数や職種だけをそろえてもなかなかうまくいきません。3つ目は、マネジメントできる人材を配置してメンバーの舵取りを行うことです。活動の方向性を示しつつ、各人が持つ知識や技術を生かせるようマネジメントする必要があります。
※次の記事では、小山先生が口から食べる重要性に気付いた経験について伺います。