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“The 地域包括ケア病院”を目指し、地域に寄り添い続ける志田病院

志田病院 理事長兼院長 志田知之先生

団塊の世代が75歳以上となる2025年に、創立100周年を迎える医療法人 天心堂 志田病院。佐賀県の南部医療圏で“The地域包括ケア病院を目指す”というテーマを掲げ、地域の方たちが住み慣れた場所で最期まで安心して暮らせるように、“住まい”を中心とした医療・介護・予防医療・生活支援の提供を行っています。今回は、同院で理事長兼院長を務める志田 知之(しだ ともゆき)先生に、同院の取り組みについてお話を伺いました。


志田病院の沿革

大正時代に医院としてスタート

当院の歴史は、大正時代までさかのぼります。初代院長の志田 英利(ひでとし)が1925年に鹿島市乙丸に医院を開設したのが始まりでした。その後、1937年に移転新築し、1955年には法人化して医療法人 天心堂 志田病院として再スタートを切っています。翌年には結核病棟を増設し、47床(一般病床25床、結核病棟22床)となりました。

1973年に私の父である志田 誠二(せいじ)が2代目理事長兼院長を継承した後は47床全てを一般病床に転換して病院を新しく建て替えました。父は外科医でしたので、新病院には手術室もあり、当時は開腹手術も行っていました。その父の急逝により、私が3代目理事長兼院長を継承したのは1996年のことです。当時は職員数34人の小さな組織でした。

 

2000年から病床機能を目まぐるしく転換

私が理事長兼院長に就任後、最初の転機となったのが2000年です。同年3月に現在の地に病院を移転新築した後、4月から介護保険制度がスタートしたことに伴い、医療療養病床27床と介護療養病床19床で再始動しました。その後は、診療報酬、介護報酬改定で目まぐるしく変化する情勢に対応し、少ない病床を可能な限り有効活用するべく、病床機能を目まぐるしく転換してきました。

2005年には介護療養病床を廃止し、全て医療療養病床に換えました。当時から、リハビリテーションを必要とされている患者さんが多かったので、2007年には、回復期リハビリテーション病棟と療養病棟の2病棟体制に移行しています。その後、多くの理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)が入職し、当院のその後の発展につながりました。現在、回復期リハビリテーションは当院の柱のひとつになっています。

 

地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟の2病棟体制に

新館に併設されたエバーガーデン(リハビリ庭園)

 

もう一つの当院の柱である地域包括ケア病床を導入したのは2015年です。前年4月の診療報酬改定で地域包括ケア病棟入院料(入院管理料)が新設されたことを受け、同月に“地域包括ケア病床開設準備プロジェクト”を発足。当該病棟の看護体制変更や連携医療機関への訪問、データ提出加算への対応など、整備を行いました。2015年1月には療養病棟18床のうち8床を地域包括ケア病床に変更し、翌年に療養病棟の名称を地域包括ケア病棟に変更。その後は、回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟(地域包括ケア病床、療養病床)の2病棟体制になりました。

2019年6月、病院の隣接地に新館が完成した後は、回復期リハビリテーション病棟32床、地域包括ケア病棟48床(地域包括ケア病床28床、療養病床20床)とし、現在に至っています。


佐賀県鹿島市という地域の特徴と志田病院の課題

佐賀県の全圏域が病床過剰地域――限られた病床を有効活用

当院が位置する佐賀県南部医療圏は、人口が減少して高齢化も進んでいる地域です。また、小規模の私立病院が林立しており、病床過剰地域(既存病床数が基準病床数を超える地域)となっています。しかし、同じ南部医療圏でも地域差が見られ、現場としては病床が不足しているという実感を持ちながら運営を続けてきました。

基本的に病床を増やすことが難しい状況のなか、当院では1~2床ずつでも病床機能を変更し、その都度、必要とされている機能に充てることで、より地域のニーズに合った医療を常に提供できるよう努めてきました。

 

自宅での看取り率が低い――ご本人の意向に沿った“お看取り”を推進

鹿島市を含めて佐賀県南部は、自宅での看取り率が低いことも特徴として挙げられます。私は、地域の医師会で在宅医療や地域医療の担当を務めており、自宅での看取りを推進する活動を行ってきました。在宅や施設での看取りを進めることは、地域における医療提供体制を安定させるとともに、患者さんの「住み慣れた環境で最期を迎えたい」というご希望に沿うことにつながります。私としてはできるだけご本人の意向を汲んで、その思いに応えたいと考えています。しかし、ご本人が希望される場所で最期を迎えていただくことが十分に達成できているとはいえず、いまだに当院および地域の大きな課題であると考えています。


志田病院の診療体制

 

地域の患者さんを支える外来診療

外来としては、内科、外科、小児科、消化器科、整形外科、リウマチ科、リハビリテーション科を有しています。お子さんから高齢の方まで、幅広い年代の患者さんが家族ぐるみで受診されます。

また、外来診療の場では介護の相談にも応じています。開設以来、地域に密着した医療や介護を提供してきた当院では、医師、看護師、介護スタッフらが外来の患者さんをさまざまな面からサポートしています。

 

ACPを意識した、人生の最終段階における医療の提供

当院は、在宅療養支援病院として訪問診療にも力を入れています。人生の最終段階における医療(終末期医療)から看取りまで、在宅で行えるように支えることを目指しています。

一方、入院患者さんに対する人生の最終段階における医療の取り組みも、年々充実してきているのを感じています。QOD(死に向かう患者さんへの医療の質)の向上を目的として、今後の治療・療養について患者さんやそのご家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス“ACP(人生会議)”を意識した形で行っています。私自身、ACPの指導者研修会でも学び、看護師や介護スタッフにも院内でも研修会を行うなど、学ぶ機会をつくっています。

 

地域の健康保持と増進に貢献

健診バスによる巡回健診を実施

 

地域密着型の医療機関として、予防医療にも注力しています。2008年に健診車を導入して巡回健診をスタートし、2011年には健診センターを開設しました。現在は全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診施設として、同協会に加入している事業所の従業員を対象に健診を行っています。現在利用している大型の健診車にはX線装置を備え、院内で行っているものと同じ内容の健康診断を提供できます。

 

介護保険適用の施設を2003年から順次開設

法人全体としては、介護保険が適用される高齢者施設の整備も進めてきました。2003年にグループホーム“さくら荘”を開設したのを皮切りに、2006年にデイケア“きんもくせい”と居宅介護支援事業所、2007年に小規模多機能ホーム“くすの木”、2010年にデイサービス“花水木”を新設し、2013年にはどなたでも利用可能なサロン“こもれび”のほか、2施設目のデイケア“あすなろ”および小規模デイサービス“さざんか”も開設しました。


志田病院の取り組み

院内で独自のシステム化を推進

当院はシステム開発部門を有し、業務管理やカルテ管理などを担う独自の病院情報システムをFileMakerで構築しています。システム開発担当者が中心となり、院内で使用するツールやシステムの開発・運用を継続的に行ってきました。

中でも、たとえば独自のデータベースを構築したことにより、他院とのデータの共有がよりスムーズにできるようになったほか、グループホームをはじめとした法人内の介護保険施設でも綿密な情報共有を行い、さまざまな活動や医療安全の取り組みを法人職員一丸となって実践することにつながっています。

FileMakerは、FileMaker, Inc.の登録商標

 

質の高いサポートを目指し、病室に複数の医療機器を導入

 

また、医療安全の取り組みの一環として、病棟にはより新しい医療機器の導入を進めています。離床センサーを内蔵するベッドや、ベッドに臥床されている患者さんの睡眠状態や心拍数などをリアルタイムで計測するシステムを導入し、さらなる安全性の向上を図っています。パラマウントベッドのスマートベッドシステムを九州ではもっとも早い時期に導入していますが、ベッドサイド端末には当院オリジナルのピクトグラム(絵文字)を表示させるカスタマイズを行い、看護や介護における細やかな情報共有につなげています。

パラマウントベッドは、パラマウントベッド株式会社の登録商標

 

職員の研究発表、講演聴講

当院は研究発表にも力を入れており、毎年研究発表会を開いています。当院の職員をはじめ、連携医療機関の職員にも参加していただいています。一般演題の発表を終えた後は、各分野の一流の先生方による特別講演を拝聴しています。

当院の職員たちは、外部の学会でも積極的に演題発表を行っています。自分で研究を行ってデータを出し、外に発信できる形にまとめる習慣をつけることで、職員の能力や意欲の向上につながっています。

 

目標管理シート(BSC)の導入

法人全体および各部署単位で、それぞれのBSC(バランスト・スコアカード)という目標管理シートを作成し、1年間その目標を達成に向け、管理を行いながら業務を行うシステムを導入しています。毎月の幹部会議で進捗を確認しており、よりよい医療サービスを提供する体制づくりに取り組んでいます。

 

職員が演奏を披露するライブ室

 

新人歓迎会や文化祭などのイベントの折には、職員をねぎらう意味もこめて、職員で結成したバンド(志田先生はドラム担当)によるパフォーマンスを披露しています。


志田病院が目指す地域包括ケア

地域包括ケア病棟 明るく広々とした食堂・談話室

 

目指すは“The 地域包括ケア病院”

当院は、法人全体で地域包括ケアの実践に力を注いでいます。具体的には、地域の方たちの医療と介護および在宅と入院を切れ目なくサポートするために、近隣の医療機関とも密に連携し、急性期の治療を終えた患者さんの受け入れ(ポストアキュート)、在宅療養中の患者さんの受け入れ(サブアキュート)、在宅復帰の支援などに取り組み、地域包括ケアシステムの構築に積極的に貢献してきました。私たちこそが地域包括ケアを担う病院だという意味を込め、職員には折に触れて“The地域包括ケア病院”を目指そうと話しています。

 

地域包括ケア病棟――サブアキュートの役割を中心に担う

当院の地域包括ケア病棟は、外来や訪問診療で診ている方の入院が多くを占めます。つまりサブアキュートの役割が中心で、肺炎、尿路感染症、心不全など、さまざまな病気の治療に対応しています。同病棟に入院後は在宅復帰支援計画に基づいて、医師、看護師のほか、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカーなど多職種が協力し、在宅復帰の支援を行います。

 

回復期リハビリテーション病棟――ポストアキュートの役割を中心に担う

急性期病院の受け皿としてのポストアキュートの部分は、回復期リハビリテーション病棟での受け入れが多くを占めています。脳血管疾患や大腿骨頸部骨折などの急性期医療を終えた患者さんに対し、ADL(日常生活動作)の向上を目的として集中的にリハビリテーションを行います。こちらもさまざまな職種のスタッフが連携して在宅復帰をサポートしています。

 


志田病院の展望

当院は “The地域包括ケア病院”として、たとえば認知症がある高齢の方をより安全に受け入れるとともに、介護施設との連携をさらに密に行っていくことに努めています。そのほか、健康診断も含めて、生活支援および病気の予防にも力を入れていきたいと考えています。介護の分野では“住まい機能”の向上を目指し、現在空いている建物に有料老人ホームまたはサービス付き高齢者向け住宅を開設することを計画しています。

 

これまでお話ししてきたように、当院は開設以来、かかりつけ医として一次医療(プライマリ・ケア)を担うとともに、亜急性期から慢性期の入院医療を提供し、地域で求められるニーズを常に模索しながら地域密着の医療を行ってきました。今後も、地域の方たちが住み慣れた場所でいつまでも安心していきいきと暮らせるように、高いゴールに向かって進化し続ける “The地域包括ケア病院”を目指したいと思います。

 

1996年から二人三脚で志田病院の運営にまい進している、副理事長で小児科診療担当の志田 かおる先生(左)と志田 知之先生(右)

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