医療政策 2018.06.19
JRAT(大規模災害リバビリテーション支援関連団体協議会)とは?
長崎リハビリテーション病院院長 栗原正紀先生
東日本大震災をきっかけに発足したJRAT(大規模災害リバビリテーション支援関連団体協議会)。JRATは、関東・東北豪雨災害、熊本地震災害をはじめとして、災害のフェーズに合わせたリハビリテーション支援を実施しています。JRATの活動や発足の経緯について、代表を務める栗原正紀先生にお話を伺います。
JRAT(大規模災害リバビリテーション支援関連団体協議会)とは?
- 災害のフェーズに合わせたリハビリテーション支援を行う
JRAT(大規模災害リバビリテーション支援関連団体協議会)では、災害のフェーズに合わせたリハビリテーション支援を実施しています。
- 基本方針「災害弱者などが自立生活を再建するためのリハビリ支援」
平時から参加団体が相互に連携し、各地域において住民とともに災害に立ち向かえるように「災害リハビリテーション支援チーム」を発足させます。大規模災害の発生時には、災害弱者*、新たな障害者、被災高齢者などが自立生活を再建できるようリハビリテーション支援を行うことを目的とします。
*災害弱者・・・視覚・聴覚障害者、肢体不自由者、乳幼児、高齢者、傷病者・入院患者、妊産婦等の自力避難等の対応が困難な人,外国人・旅行者など、災害時に被害を受けやすい立場の方。
- さまざまな職種が参入し連携をとる
JRATには、以下のようにさまざまな職種が参入し連携をとります。
- リハビリテーション科医師
- 理学療法士
- 作業療法士
- 言語聴覚士
- 看護師
- ケアマネジャー
- 義肢装具士
- そのほか医療福祉関連職
大規模災害に見舞われた地域(以下、被災地)の避難所では、災害による混乱や環境の変化により、生活が不活発になります。そのため、体の機能や認知機能の低下、呼吸・循環器疾患、深部静脈血栓症(DVT)などが起こりやすくなります。
JRAT発足までの経緯
- 東日本大震災で「リハビリが必要なときがくる」と確信した
2011年に東日本大震災が発生したとき、テレビ放送で大勢の高齢者が避難所へ集まっている様子をみました。そのとき、私は直感的に「これは危険だ」と思いました。なぜなら、避難生活では、日常生活動作が減ることで、筋力低下、血液循環不良、体の機能低下などさまざまな症状が起こる可能性があるからです。さらに、高齢者は予備力が低いため、寝たきりになってしまうリスクもあります。
そこで私は、長崎大学に連絡をとりました。
「被災地でリハビリが必要なときが必ずくる。必要な状況になったら連絡をくれ。」
私は派遣するメンバーを募り、準備をしていました。しかし、なかなか出動できるチャンスがありません。長崎大学からはDMAT(災害急性期に活動できる機動性を備えトレーニングを受けた医療チーム)が被災地に赴き、急性期治療の現場で活躍をしました。しかし、震災による混乱が続いていたこともあり、「生活を再建する」という視点でリハビリを実施するまでは至りませんでした。
- さまざまな方面から管理体制を整備
このような状況に危機感を覚え、震災発生から2か月後の同年5月には、まず現地の保健所と連絡をとりました。その後は全国レベルでリハビリ関連団体が集まり、徐々に管理体制を整えていきました。
東日本大震災発生時の経験から、管理体制や現地の理解がなければ、支援や協力すらできないことを学んだため、公的承認(国:内閣府・厚生労働省・国土交通省など)を得ること、財源確保、日本医師会との連携を含め、多方面から体制を整備しました。これが、JRAT発足までの経緯です。
JRATの実績・これからの目標
- 「救命だけでなく、被災地での生活を再建する」
2013年にJRATを立ち上げてからは、2015年の関東・東北豪雨災害、2016年の熊本地震災害などを中心に活動を行いました。
「救命だけでなく、被災地での生活を再建する」
この考え方は、地域医療におけるリハビリと共通のものです。
今後、JRATでは、
- JRATの法人化
- 全国レベルでのDMATやJMAT等災害支援団体との協業体制
- 47都道府県での「地域JRAT設立」
- ブロック単位における情報共有、組織化
- 平時からの教育・啓発・人材育成
などに努力していきたいと考えています。