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2025年問題の救世主となるか――「特定看護師」活躍の可能性とは?

国分中央病院 理事長 藤﨑剛斎先生

団塊の世代が後期高齢者となる2025年が近付いてきました。少子高齢多死社会の到来に向けてさまざまな計画・改革案が提示されており、その1つとして進められているのが「特定看護師の養成」です。ところが修了者総数は現状4,393人にとどまり(2021年9月時点)、課題は山積しています。そのようななか、早くから特定看護師の育成に取り組んできた医療法人美﨑会 国分中央病院 理事長の藤﨑 剛斎(ふじさき たかよし)先生に、特定看護師活躍の可能性についてお話を伺いました。


医師に見間違えた米国の診療看護師

2010年、施設見学と研修のために訪れた米国のリハビリテーション(以下、リハビリ)病院で、私は初めてNP*(Nurse Practitioner:診療看護師)に出会いました。その女性はスクラブの上に白衣を着て、極太の聴診器を首にかけ、病棟のカウンターで堂々と看護師に指示を出していました。その貫禄から、私は彼女を女性医師だと信じて疑わなかったのですが、後でNPだと知り大きな衝撃を受けたものです。「あれが噂に聞いていたNPか……。日本でも同じような仕組みができるといいのに」そう思いました。

*NP:1960年代の米国で創設された看護師の新たな資格。背景には医療費の高騰や医師不足などがある。各州で決められた裁量権の範囲で看護師が自律的に診療行為を行うことができる。


特定看護師 活躍の可能性とは?

私が現場で特定看護師に求めているのは、アセスメント(評価) を理解したうえでの医療行為の提供です。ひいては、カルテを記載できる状態が理想的と考えています。

もちろん、医師のタスクシェアの観点では処置を代行するだけでもありがたい場面はあります。しかし、実のところ医療行為を行うだけでは不十分で、なぜその処置が必要なのかを理解し適切に病状を評価できて初めて一人前の特定看護師として活躍できると思います。

特定看護師が医師の代わりにカルテを記載し、ほかの看護師に適切な指示を出すことができれば、現場の負担はかなり軽減されるでしょう。そうなれば、まさに私が米国で目にした「医師と紛うほどに活躍していたNP」のように活躍できると思うのです。

 

ただし、研修受けただけではカルテ記載できるレベルまで到達するのは難しいのも事実です。本人がそこまで成長したいと思うのであれば、やはり研修受講後もちゃんと自分自身で研鑽を積む必要があります。特定看護師を目指す方々には、「研修を受講した」「ある程度の手技ができる」というレベルで満足するのではなく、さらにその上のレベルを目指して鍛錬していただきたいですね。

写真:PIXTA


慢性期医療の現場こそ特定看護師活躍のニーズは高い

特定看護師は、急性期病院よりもむしろ慢性期医療の現場で活躍できる可能性があると思います。なぜなら、慢性期病院ではマンパワーが不足していることも多いからです。特に看護師だけで対応する場面も多い在宅医療などはニーズが非常に高いでしょう。

アセスメントができ、ほかの看護師に指示を出せるような特定看護師がいれば、現場はかなりスムーズに回ると予想されます。ただ、特定看護師が現場をコントロールするということは、すなわち相当のスキルや知識が必要になりますし、そのぶん責任も重くなります。そのハードルを超えることができれば、特定看護師は裁量権の範囲が広く、やりがいも大きいのではないでしょうか。


国分中央病院における特定看護師の育成

国内では2015年に「特定行為に係る看護師の研修制度」が施行され、その活躍が推進されるようになりました。当院では第1回の研修に3人参加してもらい、特定看護師の育成に積極的に取り組んできました。これまでに12人ほどの看護師が研修を受け、現在4人がそのまま当院で活躍しています。

参加者の決め方は、基本的に理事長・役職者の指名制です。日頃からの業務・患者さんへの向き合い方を考慮して人選のうえ、本人の承諾を取って研修への参加者を決めています。また自発的に研修への参加を希望する人がいた場合には、審査を実施して参加の可否を決定します。なお、当院では研修に関わる費用負担は全て病院負担です(2022年3月時点)。


藤﨑先生が考える「特定看護師としての素質」

特定看護師として活躍できる素質について、「患者さんのことをしっかり観察しているかどうか」という点がもっとも重要と考えています。患者さん(とその状態)を「点」で捉えるのではなく「線」で捉えること。たとえば熱発した患者さんに対し、「熱が出たので解熱剤を投与します」と対応するのではなく、「なぜ熱が出たのか」を考え、熱のほかにも「痰が多い」「尿が濁っている」など全身の病状を把握し、その時点で適切な評価と処置を行い、その後の計画まで考慮することが求められます。看護師一人ひとりの心がけと視野の広さ、知識が重要になるのです。


特定看護師の育成における現在の課題

特定看護師の制度が始まった当初、厚生労働省は2025年までに特定看護師を10万人養成するという目標を掲げていましたが、実際には修了者総数4,393人にとどまっています(2021年9月時点)。

この背景には、看護師や医療機関にとって研修を修了するインセンティブが少ないことがあるでしょう。たとえば米国のNPの平均年収は約1,200~1,300万円ですが、日本ではそこまで給与が上がりにくいという現状があります。研修カリキュラムを段階的にして、それをクリアするごとに報酬が上がるような仕組みができれば理想的だなと思いますね。


特定看護師を目指す方へのメッセージ

あの日米国で衝撃を受けたNPのように現場で活躍する特定看護師が、日本でこれからも数多く出てきてくれることを強く望みます。私は特定看護師に求めるレベルが高いと自覚していますが、カルテ記載やほかの看護師への指示ができなくとも、医師が本来の業務に集中できる時間を稼ぎ出してくれるような特定看護師がいてくれたら、きっと慢性期医療の現場はとても助かるでしょう。

 

特定看護師を目指す方には、先ほどお伝えしたように患者さんの状態を「点」ではなく「線」で捉えることができる看護師になってもらいたいです。一朝一夕にできることではないですし、研修後もトレーニングを続けるのはたやすいことではありません。しかし、特定看護師として活躍する人材を医療現場・日本が求めています。ぜひ皆さんには特定看護師の研修を修了して活躍の場を広げてほしいと思います。

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