病気 2022.02.09
高次脳機能障害の自助グループ「えこまち」の活動と意義・・・互いの状況を理解できる存在の大切さ
Solaeさん、のんさん、やまみさん
事故による外傷や病気などで脳が損傷した場合、言語、記憶、視空間認知(物の位置や向きを認識する能力)、思考といった神経の機能が障害される「高次脳機能障害」をきたすことがあります。高次脳機能障害は見た目で症状が分かりにくいことから、社会生活を送るうえでさまざまな苦労を感じることも。愛媛県の松山リハビリテーション病院は高次脳機能障害のグループ訓練を行うなかで自助グループを形成し、当事者同士の交流を図っています。その1つ「えこまち」のメンバーであるSolae(ソラ)さん、のんさん、やまみさんの3名に、えこまちの活動内容や成果、印象的だった出来事を伺いました。
高次脳機能障害の自助グループ「えこまち」の活動
松山リハビリテーション病院は愛媛県の「高次脳機能障害支援拠点機関」に指定されており、診断から精神障害者保健福祉手帳の申請や就業・就学、復職のサポートなどさまざまな支援を行っています。またリハビリテーション(以下、リハビリ)の一環として高次脳機能障害の2年1クールのグループ訓練を行うとともに、定期的に当事者の自助グループを形成しています。
その中で、訓練を終える頃、自主的に活動を継続したいと希望し、病院スタッフの協力を得てOB・OG会のような形で活動を始めました。それが今の「えこまち」の前身です。えこまちというグループ名は、メンバーが提案した言葉から考案しました。愛媛県在住の「え」、コミュニケーションを取りながらの「こ」、学んでの「ま」、チャレンジしたいの「ち」、それぞれの頭文字です。
自助グループとしての活動は、当初1か月に1回集まってその間にあった出来事を振り返ったり、困ったことを共有してメンバーの工夫やアイデアを聞いたりしていました。その後、読み聞かせの練習を継続するうちにピアノやギター、英会話、手話歌などそれぞれが得意なこと・好きなことを取り入れ、ひとつのかたちにした朗読会発表をするようになりました。
えこまちの活動報告が載る掲示板
活動の成果や喜び、印象的だった出来事
ソラさん・・・自分のためのリハビリが誰かのためになる
同じような状況の方たちと出会い、話すことはとても重要です。自分たちにしか分からない悩みもありますから、お互いの気持ちを理解し合える方たちと共に過ごす時間は大切なものです。えこまちの活動では、メンバー全員で練習して発表するというチャレンジをして、それが達成できたときには皆のキラキラした笑顔が見られてとても幸せな気分になるのです。
さらに活動の中で「起き上がり小法師」という絵本を作る縁に恵まれました。取り上げてくださるメディアなどもあったおかげで、絵本は愛媛県内にとどまらず全国の方々に届くことになりました(詳しくはこちらの記事をご覧ください)。えこまちライブでは絵本の朗読や楽器の演奏、手話歌などを行います。自分たちのために始めたリハビリが、誰かのためになったり周りの方に喜んでもらえたりするのはとても励みになりますし、生きがいになります。
印象的だったのは、のんさんと一緒に託児所で読み聞かせを行ったときのことです。読み聞かせの後、0~3歳くらいの子どもたちが私たちの元によちよちと近づいてきてはハイタッチをしてくれました。そのときはたまらなくうれしかったですね。現在はコロナ禍で託児所には行けていませんが、再開できるのを楽しみしています。
託児所で読み聞かせを行うソラさん(写真左)と、のんさん(同右)
のんさん・・・朗読を通じて思いが伝わった
ソラさんと一緒に小学校で絵本の読み聞かせをしたとき「言葉には力がある」という感想をくれた子がいました。自分の思いが伝わったことを感じてうれしかったです。そのときに読んだのは「わたしは樹だ*」という屋久杉を題材にした絵本で、子どもたちに生きる力や命の大切さを伝えたいと思っていました。小学生には少し難しいテーマかもしれませんが、たとえ全員でなくとも、誰かが分かってくれたらよいなと思いながら選んだ絵本です。
吉田町の小学校で行った絵本の読み聞かせ
印象的だった出来事は、2018年の松山デザインウィークでえこまちライブを行った際に高校の先輩が聴きに来てくださり、「涙を浮かべて聞いている人がいたよ」と教えてくれたことです。そのときは、ソラさん作の「起き上がり小法師」を読みました。
*わたしは樹だ:松田素子(文)、nakaban(絵)、アノニマ・スタジオ(出版社)
松山デザインウィークにて(のんさん:後列左から2番目)
やまみさん・・・手話歌の発表で自信が持てた
私は幼い頃、ガールスカウトで習った手話歌(音楽に合わせて歌詞を手話で表現すること)が好きで、えこまちライブでも手話歌を担当しています。高次脳機能障害により新しいことを覚えるのは難しくなったのですが、子どもの頃に覚えたことはすぐにできるので、手話歌は私の特技の1つです。ただ、新しい曲を覚えるのには時間がかかります。毎日練習を重ねて初めての発表会に臨み、何箇所か間違いながらも無事終わりました。終わった後には皆がほめてくれて、自信につながりました。
コロナ禍でなかなか対面での練習ができていませんが、状況が落ち着いてまた集まれたときには皆に手話歌を披露できるよう練習を頑張りたいです。いつも皆には助けてもらってばかりですが、少しずつできることを増やしたいと思っています。
手話歌を練習するやまみさん
高次脳機能障害で悩みを抱える方々へのメッセージ
ソラさんより
突然の事故や病気などで高次脳機能障害になった方は「どうして自分がこんな思いをしなければならないのか」と戸惑うことがあると思います。しかし、気持ちを理解してくれる仲間と出会い交流するうちにきっと笑顔になれますし、安心できる場所や楽しめることを見つけられるはずです。それが日々の原動力となり、新たな一歩につながるかもしれません。諦めずに信頼できる仲間を見つけて、ご自身の好きなことを続けてみてください。
のんさんより
私は今、少し落ち込んでいます。皆さんにもそんなときがあるでしょう。ソラさんが言うように、仲間との活動は大切です。また明るい気持ちになれたら、活動に専念したいと思います。
やまみさんより
悩まれている方もきっと多いと思いますが、「自分だけではない」と知ってほしいです。「コロナ禍の状況が落ち着いたら”えこまち”においで」と言いたいです。私は活動の中でよく泣いてしまいます。だから、泣いても大丈夫です。自助グループの中で波長の合う人と出会い、日々を楽しく過ごしてくれたらうれしいです。
これからの目標
ソラさん
最近、朗読会で扱う新たな絵本の題材ができました。その朗読会に向けて皆で練習することが直近の目標です。また「起き上がり小法師」の原画が出版社から戻ってきたので、近いうちに原画展を開きたいと思っています。原画展ではえこまちライブも行い、いつものライブを少しブラッシュアップして来場者に向けて発表したいです。
先ほどやまみさんが「えこまちにおいで」と話してくれました。これは、私たちの今後の目標です。今のメンバーは愛媛県在住ですが、これからは地域の枠をなくして「愛媛・発」の活動の1つとしてえこまちを発展させたいと考えています。コロナ禍を経て、zoomなどのウェブ会議システムを使い全国の方々とつながることができるようになりました。これまでよりも出会いのチャンスが広がりましたので、これを生かさない手はありません。私たちがえこまちの活動に支えてもらったように、今支えを必要としている方が参加できるようこの活動を広げられたらよいなと思います。
のんさん
すぐに気持ちを切り替えることは難しいことなので、ゆっくりと前向きに日々を過ごしていきたいです。えこまちの活動は大事にして、また高次脳機能障害についてもっとたくさんの方に知っていただけるよう啓発活動を続けていきます。
やまみさん
高次脳機能障害のことをもっと多くの方に知ってほしいので啓発活動を続けていきます。また、えこまちライブをいろいろな場所で開催したいです。それらに加えて、仕事を離れてから1年ほどが経ちましたので、可能ならまたどこかで働きたいです。