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“食事”を通して患者さんの不安を取り除けるように――松葉杏子さんのあゆみ

永生病院 栄養科主任管理栄養士 松葉杏子さん

東京都八王子市の永生病院において、栄養科の主任管理栄養士を務める松葉杏子さん。外来と病棟それぞれの栄養ケアを担うとともに、近年は管理栄養士の業務の“見える化”に取り組み、目標達成に向けてチームを牽引してこられました。

学生の頃から“病院で働く管理栄養士”を目指していた松葉さんに、管理栄養士という仕事を選んだきっかけや、管理栄養士としてのあゆみを伺いました。


管理栄養士の仕事を選んだきっかけ

子どもの頃から健康面に自信があって、「自分の“健康”が何かの役に立つかもしれない」と思っていました。また、両親が医療系の仕事をしている関係で、医療、介護、福祉の話題を耳にすることが多く、具体的な職業を思い浮かべることはできていませんでしたが、「不安を取り除くようなサービスの仕事ができたら」と考えていました。

転機となったのは、高校生の頃の職業体験です。いくつかの病院で看護師の1日体験をしても、なかなかピンと来ずに悩んでいたなかで、管理栄養士の栄養指導を見学しました。

そのとき相談に来られていた患者さんは、不機嫌な様子の男性でした。食事について語らず、怒っているように見えましたが、管理栄養士さんがしっかりと話を聞いていた様子が印象に残っています。

当時の私にはよく分かりませんでしたが、きっと、質問の仕方も上手だったのだろうと思います。栄養指導が終わる頃には男性は笑顔になっていて、「自分はこういうところが悪いから、それをやってみるよ。また来月お願いね」とおっしゃって出ていかれたのです。ご自身が抱える問題を言葉にし、課題を抽出し、宿題を持って帰る、その一連の流れに感動しました。そして、私も栄養の勉強をしてみたいと思ったのが、管理栄養士の学校に入ったきっかけです。


勉強を続けながら、病院で働く管理栄養士を目指して

学生時代からずっと、病院で働きたいと考えていました。管理栄養士として、受診される患者さんの不安を少しでも減らすことに貢献したいと思ったからです。

そこで、卒業後は病院給食の会社に就職しましたが、厨房から出ることができず、患者さんと接する機会がほとんどなかったため、患者さんと直接関われる仕事に就きたいと思い退職しました。そして、次は何か自信になるものを持って転職活動に挑みたいと思い、西東京糖尿病療養指導士の資格を取ることを決めました。講習会への参加が必要な期間は、保育園で嘱託職員として勤務しました。勉強を続けながら、離乳食、食育、親御さんの悩み相談などに携わることができ、短い期間でしたが本当によい経験ができたと思います。その後、特別養護老人ホームで2年ほど働いたのちに、当院の求人を見つけ、入職したことで、学生時代からの念願を叶えることができました。


働き方や考え方に影響を受けた、憧れの先輩方

私には、これまでに大きな影響を受けた方々がいます。そのうちの1人は、前の職場で出会った管理栄養士の先輩です。先輩のいる事業所で働いていたとき、作業工程表がいつも見やすく管理されていたことや、チームの人たちが残業せずに帰宅できていたことが印象に残っています。さらに、先輩は、私たち後輩の悩みを聞き取っては、本社で意見を述べ、本社からの返答は必ず持ち帰って共有してくれました。当時、「私もこんな風に働きたい」と思ったものです。

 

また、異業種との出会いも、私の働き方に影響を与えてくれました。仕事を通じて出会った企業の方々との会話の中で仕事の魅力を伝えていくためには営業的なアクションが必要であること、スタッフをきちんと評価する人事の重要性、広報活動では結果の調査も必要ということなど、いろいろなことを知りました。それを当たり前にこなしている方々がこんなにいるのかと驚き、大きな影響を受けました。


生活習慣病の予防の重要性を伝えたい

一般的に“生活習慣病”という言葉は知られていますが、他人事のように感じている方は多いのではないかと思います。しかし、一度病気を発症すると、患者さんやご家族の生活が大きく変わってしまう可能性があります。その様子を目の当たりにした経験から、私は予防の重要性を伝えていきたいと思っています。

30代の男性が脳血管疾患で入院されたときのことです。この患者さんは、小さなお子さんと赤ちゃんのいるお父さんで、生活習慣病のある方でした。健康診断で異常を指摘されても「また指摘されちゃった」と飲み会の席で笑って話すなど、真剣に治療に取り組んでこられなかったそうです。

回復期病棟において、入院中の食事は経管栄養食から始まることとなりました。しかし、患者さんは「栄養剤が入ると気持ち悪い」とおっしゃいます。

今思えば、退院後の生活への不安や、失語症で気持ちをうまく言葉にできないこと、排泄介助が必要なことなど、精神的な苦しさがきっかけで、症状が強く出ていたのかもしれません。

症状については、患者さんのうなずきを確認して対応するなど、言語聴覚士(ST)との協力も必要でした。経口摂取を始めると、以前の自分に少し近づけたと感じられたのか、患者さんはほっとしたようです。それから鼻のチューブが抜けて、1日3回のおかゆ食になり、患者さんの「自分で食べられるようになりたい」という思いが強くなっていく様子が見て取れました。

その患者さんは、今でも後遺症が残っており、本来の状態に戻ることはできていません。私はこの出会いを通して、生活習慣病予防に対する栄養指導技術を磨き、管理栄養士として努めていこうと強く思い、日々勉強に励んでいます。


管理栄養士としてのポリシー

 

私のポリシーは3つあります。1つ目は、“食事”というツールを使って、患者さんの不安を少しでも取り除けるような提案や関わり方をすることです。

2つ目は、栄養学の発信源となることです。当院を訪れたメーカーさんは、「おいしい栄養補助食品を作りました」と、新しい商品をパンフレットやリーフレットで説明してくださいます。多額の開発費が投じられた大事な研究の成果ですから、私たち管理栄養士が地域の方へしっかりと伝えて、メーカーへもフィードバックしていきたいと思っています。

3つ目は、やりがいを失うことのないよう、常に意識を高く持つことです。管理栄養士として社会に貢献するサービスとは何であるのか、そのうえで私は何ができるのかを常に考え、仲間と共に成長し、栄養ケアの実践を継続していきます。

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