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軽視してはいけない「巻き爪」――原因や症状、高齢者における典型例は?

巻爪レスキューつくば オーナー/看護師 右田 貴子さん

巻き爪は「たかが巻き爪」と軽視してしまいがちではないでしょうか。しかし巻き爪による痛みや傷を放置すると、想像以上に全身に悪影響が及ぶ恐れがあります。特に高齢者は巻き爪をきっかけに筋力低下や精神状態の悪化などが引き起こされることも多く、よりいっそうの注意が必要です。本記事では巻き爪の基礎知識に加えて、高齢者における巻き爪の典型例・弊害について巻爪レスキューつくば オーナーを務める看護師の右田 貴子(みぎた たかこ)さんにお話を伺いました。


巻き爪はなぜ起こるのか

巻き爪になる原因の1つが「爪への外力」です。たとえば、自分の足に合ったサイズの靴を履いていない、靴の履き方が正しくない、歩き方に問題がある、着圧ソックスで締め付けられている……などが挙げられます。これらの原因によって爪に過剰な力が加わり続けると、爪がまっすぐ伸びることができずに変形や肥厚(ひこう)が生じたり、巻いてしまったりします。

靴のサイズについては、小さすぎる靴はもちろん、大きすぎる靴もよくありません。歩いているうちに靴の中で足が先端に詰まって指がまったく使えなくなりますし、圧迫されてしまいます。また外反母趾(がいはんぼし)などの指の変形では、圧がかかる方向が変わることが巻き爪の原因になります。

 

※正しい靴の選び方や履き方、歩行方法については次ページをご覧ください。

 

2つ目の原因は「爪に下からの力がかからないこと」です。爪は本来“巻きたい性質”を持っています。通常は立ったり歩いたりしたときに下から上のほうに向かって垂直の力が加わることで爪は広がった状態を保っていますが、力が加わらない状態が続くと、爪が巻こうとする力のほうが強くなってしまうのです。足の指が浮いてしまう「浮き指」や、ペンギンのような踵歩き、寝たきりの状態が長く続くことなどによって生じます。

 

これら以外に、爪に関する病気も変形爪や巻き爪を引き起こす原因になります。具体的には、爪白癬(つめはくせん:いわゆる爪水虫)、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう:膿のたまった発疹(ほっしん)が手のひらや足の裏に数多くみられる病気)、乾癬(かんせん:皮膚が粉をふき、赤く盛り上がった状態になる病気。爪の変形を伴うこともある)などが挙げられます。

また抗がん剤の影響による爪の変形で巻き爪になってしまう方もいらっしゃいます。そのほか、遺伝的に巻きやすい性質の爪かどうかも巻き爪のなりやすさに関係しています。


放置されがちな巻き爪――全身への影響もあり注意が必要

爪が巻いていれば巻き爪と診断されますが、見た目よりも痛みが出て初めて巻き爪を自覚する方が多くいらっしゃいます。痛みは日常生活に支障をきたしますし、痛みを放置した状態で歩き続けると、皮膚が傷ついて出血したり、傷口から細菌が入って感染を起こしたり(爪周囲炎)してしまいます。爪周囲炎では発赤、腫脹により疼痛(とうつう)は強くなり、浸出液や排膿によりジュクジュクすると、不快感も増してしまうでしょう。

 

傷口に細菌が感染した状態で放置しておくと、敗血症(はいけつしょう:細菌の感染を制御できなくなり、全身の臓器が機能不全に陥ってしまうこと)にまで至ってしまうこともあります。特に自己免疫疾患や免疫機能低下がある方は要注意です。また免疫力を抑える治療を行っている方は、感染により治療を継続できなくなってしまうことも考えられます。さらに下肢の血流障害や糖尿病による神経障害がある方では壊死(えし)のリスクがあり、場合によっては指を切断せざるを得ない恐れもあります。

 

巻き爪は放っておくと全身に影響が及ぶリスクがあるにもかかわらず、実際のところは軽視され放置されてしまいがちです。ただその背景には、巻き爪のよい解決方法が周知されていないこともあると考えています。巻き爪で病院を受診すると、端の部分を焼き切ったり、抜爪(ばっそう:爪が巻いている部分を切る手術)の必要があると言われたりすることもいまだにあるのが現状です。


高齢者における巻き爪の典型例は?

高齢者に特徴的な巻き爪の典型例としては、白癬の合併が多いことが挙げられます。そのほか、巻き爪に影響を与えるような慢性的な基礎疾患を抱えている方も多くいらっしゃいます。巻き爪の疼痛を感じていても視力の低下や柔軟性の低下から足指を観察することが難しいこともあります。また痛いから歩かない、歩かなければ大丈夫、年だから仕方がないという理由や、足を見せるのは恥ずかしいと諦めて放置されていることも少なくありません。

 

合併症以外の部分では、正しい靴の選び方・履き方を知らない方が多いことも挙げられます。日本には日常生活で靴を脱ぎ履きする文化があるため、靴は脱ぎやすく履きやすいことが重視されています。しかし前にもお話ししたとおり、ゆとりのありすぎる靴は中で足が動いてしまうため、かえって指先が詰まったり圧迫されてしまったりします。にもかかわらず、足に痛みがあるからと緩い靴を選んだり、靴紐を緩めたりとまったく真逆の誤った対応をしてしまう方が多くいらっしゃるのです。

 

そのほか、高齢者では体のいろいろな部位に痛みを抱えている方が少なくないため、巻き爪以外の痛みに気を取られて巻き爪に気付きにくいことも特徴です。


高齢者の巻き爪はフレイルを招く恐れも――積極的なケアの必要性

歩く時間が短くなると爪に対して下からの圧力が加わらなくなるため、巻き爪そのものの悪化にもつながります。巻き爪が悪化すると、痛みによって歩くことが余計に億劫になり、さらに巻き爪が悪化してしまうという悪循環に陥ります。加えて高齢者は爪の柔軟性も失われていることから、下からの圧力により爪が開きにくいことが予測されます。寝たきりの状態が長く続いている方は足を地面について歩く機会がないため、巻き爪があっても気付きにくいので注意が必要です。

 

高齢者の巻き爪はフレイル*を引き起こす可能性もあります。足の痛みで歩行や運動ができなくなると筋力の衰えるスピードも加速します。日常生活に必要な動作ができなくなってしまうかもしれません。足の痛みをかばうために体のバランスが崩れ、膝や股関節(こかんせつ)の痛みが強くなることもありますし、痛みのストレスだけではなく、日常生活動作が困難になると生活の質が低下し、精神面にもかなり影響することが考えられます。

 

そのため特に高齢者の巻き爪は決して軽視することなく、早めにケアすることが大切です。次ページでは、巻き爪ケアの方法や対策についてお話しします。

 

*フレイル:加齢と慢性疾患が積み重なることで脆弱(ぜいじゃく)になり、病気などの外的なストレスによって生活自立度が損なわれやすくなった状態。

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