キャリア 2024.03.06
言語聴覚士の支援で広がる可能性――地域に出向き活動する佐賀 友美さんの思い
渓仁会真駒内在宅クリニック 言語聴覚士 佐賀 友美さん
言語聴覚士(ST)とは、言葉でのコミュニケーションや食べることが困難な人に対し、さまざまな訓練や環境の調整を図ることで機能の維持向上を目指す専門職です。札幌市南区にある真駒内在宅クリニックでは充実した訪問リハビリテーション(以下、リハビリ)体制により、さまざまな状況にある利用者さんの支援に取り組んでいます。同クリニックの言語聴覚士である佐賀 友美(さが ともみ)さんは、言語聴覚士の支援をより多くの人に届けるために、地域で医療や介護に関わる人々との関係構築に力を入れています。佐賀さんに言語聴覚士を目指したきっかけや思い、今後の展望を伺いました。
言語聴覚士を目指した理由
言語聴覚士を目指した最初のきっかけは、中学生のときに受けた職業訓練の授業でした。作業療法士(OT)にお話を伺う機会があり、リハビリの仕事に興味を持つようになりました。もともと、将来的に人と関わる仕事をしたいと考えていたので、この授業がリハビリの職種を目指すきっかけとなりました。
リハビリというと作業療法士や理学療法士(PT)のイメージが強かったのですが、調べているうちに言語聴覚士という職種もあることを知り、さらにまだ認知度も低く、担い手も少ないという事実を知りました。私自身、食べることも話すことも好きだったので、それを助ける専門家になれることにとても魅力を感じ、言語聴覚士を目指すことにしました。また、私は子どもの頃から町の行事に参加して地域の人たちと関わることが好きでした。年を重ねていくうちに地域で高齢化が進んでいることを目の当たりにし、地域に貢献する仕事に就きたいという思いが強くなっていきました。その思いを実現するために私は、言語聴覚士を目指しました。
大学時代は定山渓病院で長期実習を行い、訪問リハビリにも同行する機会がありました。定山渓病院は慢性期医療を提供する病院で、在宅復帰に向けたリハビリを行う方や長期療養が必要な方など、さまざまな方が入院しています。生活に入り込んだリハビリの提供を実習で間近に見ることができ、将来的に自分が目指す理想の言語聴覚士の姿を明確にすることができました。定山渓病院なら慢性期のリハビリと訪問リハビリの両方に従事できると感じ、入職を決めました。
再び食べる喜びを感じてほしい――ご本人とご家族の希望を尊重したリハビリ
現在、真駒内在宅クリニックでは飲み込みが難しく困っている人(嚥下障害<えんげしょうがい>)、言葉によるコミュニケーションで困っている人(失語症、構音障害など)を対象に、食べる訓練や話す訓練といったリハビリを提供しています。単に利用者さんへのリハビリを行うだけでなく、ご家族への介護指導、食形態や姿勢など環境面の調整を含めた支援も言語聴覚士の仕事です。仕事をしていて一番うれしい瞬間は、食べられなかった人が再び口から食べられるようになったときです。大好きなものを食べられるようになり、ご本人やご家族の幸せそうな表情を見られたときは、諦めずに支援をしてよかったなと心から感じます。
リハビリではご本人とご家族の意思決定を尊重することを大切にしています。治すことの難しい進行性の病気をお持ちの場合、生活をしていくなかで徐々に機能が落ちていき、昨日までできていたことができなくなるケースもあります。こういったケースでは食べることがリスクにつながる恐れもありますが、それでもご本人とご家族が食べることについてどのようなご希望を持っているのかを伺って、その意思決定を大切にしていきたいと思うのです。そのうえで、チームとしてどのような支援を行えば選択肢を広げられるのかを一緒に考えていくことを意識しています。
言語聴覚士の認知度向上を目指し、多くの人に支援を届けたい
現在課題として感じているのは、地域における言語聴覚士の役割についてです。当クリニックがある札幌市南区では訪問言語聴覚士の認知度が比較的高いのですが、地域によっては訪問言語聴覚士の認知度も担い手も不足している現状があります。また、言語聴覚士の存在は知っていても、その資源をうまく活用できていないケースもあります。たとえば、新規の依頼を受けて実際に訪問してみると、もう少し早い段階で支援に入ることができていればと思うことがあります。地域で医療や介護に携わる人たちにとって言語聴覚士が身近な存在となり、地域に入り込んでいくためには、まず言語聴覚士がどのような仕事でどのような支援を行う職種なのかを具体的に知ってもらうことが大事だと考えます。
そこで現在、地域の介護施設のスタッフやケアマネジャーにはたらきかけ、言語聴覚士という職種について知ってもらう取り組みから始めているところです。たとえば、施設の食事時間に合わせて言語聴覚士が訪問するという取り組みを考えています。「この人はむせずに食べられるから大丈夫」と思われていても、言語聴覚士が見ると実は嚥下障害が生じているケースがあります。それに気付かず食事を続けていると、誤嚥性肺炎を発症し命に関わる恐れがあります。
住み慣れた場所で長く健康に安心して過ごしていただき、そしていつまでも好きな食べ物をおいしく食べ続けられるよう、多くの人に支援を届けていきたいです。そのためにまずは地域で医療・介護に関わる人々とつながり、何かあったらすぐに連絡を取り合える“顔の見える関係性”を築いていきたいと思います。