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老年病学の魅力とは?

東京大学医学部附属病院 老年病科科長 秋下雅弘先生

「老年病学」とは、高齢者の健康維持をおもな目的として、病気や障害の適切な治療・予防を研究する専門領域です。現在、世界でも類をみない超高齢社会である日本において、老年病学はますます重要性を増すと考えられています。


老年病学とは?

 

  • 75歳以上の後期高齢者の方をメインの対象とする

一般的に「高齢者」といえば65歳以上をさしますが、老年病学における診療経験からは、75歳以上の「後期高齢者」は、若年成人と異なる特徴を示すことが多い印象です。よって、老年病学の対象を年齢で区切るとするなら、75歳以上の方(後期高齢者)といえるでしょう。

 

  • 患者さんの全体像を把握し「全人的に」診療を行う

高齢者の多くは、複数の臓器に障害を持っています。このような場合、臓器を個別に検査して薬剤治療を重ねることは、かえって患者さんに負担を与えかねません。そのため、患者さんの全体像を把握し、総合的な視点を持って治療を行うことが大切です。

また、老化による肉体的・精神的・社会的な衰弱「フレイル」の予防と対策は、老年病学における重要なテーマとなっています。

このように、老年病学では患者さんの「病気だけ」を治すのではなく、患者さんの全体像を考慮して「全人的に」診療にあたることが必須ともいえます。


老年病学の魅力とは?

  • エビデンスが少ないからこそ、自ら切り開ける

老年病学には、エビデンスが確立されていないことが多くあります。そのぶん、臨床医として「自ら判断し、経験を積む」面白さがあるでしょう。

エビデンスが揃い、診療ガイドラインが固まり切っている分野であれば、もちろんそれに沿って患者さんを治療すればよい。しかし、老年病学という分野はエビデンスが少ないからこそ、自ら切り開く余地があるのです。これが、老年病学の魅力だと思います。

 

  • 患者さんやご家族から「ありがとう」と感謝される

老年病学をやっていると、患者さんから「ありがとう」と感謝される機会が数多くあります。これは、何よりも嬉しいことです。

もちろん、なかには難しい症例も、結果的に患者さんが亡くなってしまうケースもあります。しかし、患者さんと真摯に向き合い、治療を完遂すれば、患者さんやご家族から本当に感謝されます。これまでの経験で、老年病学とは「失敗が必ずしも失敗ではない」分野であると感じています。


まとめ

65歳以上が人口の3割を占める超高齢社会で増加し続ける「誤嚥性肺炎」というテーマには、治療という側面にとどまらず、摂食・嚥下機能の維持やリハビリテーション、再発予防、廃用症候群(過度な安静や活動性の低下によって体にさまざまな症状が起こること)の予防など、老年病学や高齢者医療の魅力が詰まっています。
患者さんを全人的に捉え、幅広い選択肢のなかから最適な診療を行うこと。その経験は、これからの日本を支える慢性期医療において、重要な資質となるでしょう。

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