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照沼秀也先生が語る、在宅医療にかかわる現状の課題とこれからの展望

いばらき診療所 理事長 照沼秀也先生

我が国では、自宅で最期を迎えたいという国民の声が多い一方で、在宅医療における看取りの数がまだまだ少ない現状があります。本記事では、茨城県内で在宅医療や訪問診療を中心に複数の施設を展開する照沼秀也先生に、在宅医療にかかわる現状の課題やこれからの展望について語っていただきます。


在宅医療に関する課題

  • 日本の在宅医療はまだまだ看取りが少ない

我が国では、自宅で最期を迎えたいという国民の声が多いにもかかわらず、在宅医療の看取りはまだまだ少ない現状があります。

 

厚生労働省「諸外国の看取りのデータ(2008年)」によれば、要介護高齢者の在宅死亡率は13.6%にとどまっており、日本と同じく中福祉・中負担のフランスやオランダでは、それぞれ24.2%、31.0%と、より高い水準を示しています。

 

  • 在宅医療を担う医師の確保

これからの課題は、在宅医療を担う医師の確保だと思います。その背景として、在宅医療にかかる診療報酬がトータルで下降しており金銭的なインセンティブが低いこと、また、在宅医療はさまざまな疾患に対応する必要があるためハードルが高いと思われていることなどが挙げられます。

 

実際、医学部に通う私の娘も、「在宅医療はハードルが高い」と口にします。確かに、大学では臓器別あるいは特定の疾患に特化した医学教育や臨床研修を行いますから、いきなり在宅医療の現場で複数の疾患を抱えた患者さんをみるのは難しい、と躊躇する気持ちはわかります。

 

しかし、どんなことも最初は難しく感じるものです。これからは、在宅医療にかかわる医師が困らないようにきちんと情報を発信し、彼らがうまく在宅医療の環境に馴染める体制をつくることで、在宅医療を担う医師をどんどん育てたいと思っています。


在宅医療に関する今後の展望・希望

  • 「緩和外科」という考え方を広めたい

根治が難しいとされるようなケースでも、苦痛を取り除くことを目的に手術を行う「緩和外科」という考え方は、アメリカのMD Anderson Cancer Center(MDアンダーソンがんセンター)で生まれました。

 

たとえば、S状結腸に発生したがんが進行すると、腸閉塞によって嘔吐の症状があらわれることがあります。その場合、患者さんは1日に何回も嘔吐をするため苦しくなり、QOL(生活の質)に大きな影響を及ぼします。このようなケースに対して、人工肛門をつけて腸閉塞を解除することで、嘔吐の症状が緩和され、数日で食事制限が不要になることがあります。

 

私は、このような「緩和外科」の考え方を、在宅医療に携わる医師のなかで広めていきたいと考えています。

 

  • 終末期の苦痛緩和を目的としたセデーション(鎮静)という考え方

セデーション(鎮静)とは、手術時などに鎮静剤を投与して意識水準を下げる医療行為を指します。特に、終末期の耐えがたい苦痛を緩和させるためにセデーションを行うことがあり、一般的には「ターミナル・セデーション」と呼ばれます。

 

セデーションの程度は、スヤスヤと眠り呼びかければ反応するような状態から、まったく反応を示さない状態まで、鎮静剤の投与量などによってコントロールできます。終末期医療の現場では、まず患者さん、次にご家族の希望を確認しながら、適切に調整を行います。

 

京都民医連中央病院 倫理委員会では「終末期の苦痛緩和を目的としたセデーションに関するガイドライン」を作成しています。これからは在宅医療の現場でも、ターミナル・セデーションの考え方を活用する機会が増えていくと思います。

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