病院運営 2021.03.30
橋本病院/千里リハビリテーション病院における新型コロナウイルス感染症への対応
医療法人社団和風会 理事長 橋本康子先生
2020年から世界中で混乱を巻き起こし、日本では第4波の発生が懸念されている新型コロナウイルス感染症。全国の病院でさまざまな対応策が講じられています。医療法人社団和風会 理事長の橋本 康子(はしもと やすこ)先生に、同法人が運営する橋本病院、千里リハビリテーション病院ではどのように対応をされているのか、具体策とポイントを伺いました。
新型コロナウイルス感染症による収益面での影響
両病院で、出入口における体温測定、手指の消毒を行っています。また、1回目の緊急事態宣言が発出されたときから面会を制限しています。当初は面会を全面的に禁止していましたが、入院されている方が数か月という長い期間ご家族に会えなくなるのを避けるため、千里リハビリテーション病院ではロビーに面会ブースを設置しました。
千里リハビリテーション病院の面会ブース
このように空間を分けて、1回およそ10〜15分ほどの時間で訪問された方と面会し、お話や荷物の受け渡しができるようになっています(要予約)。このような状況でもご家族やご友人と会ってコミュニケーションをとることは、ご本人の気力の回復、認知機能低下の予防のために重要です。
敷地内に5床の感染症病棟を設置して陽性患者さんに対応
千里リハビリテーション病院では、通常の病棟とは別にプレハブの感染症病棟を設置しました。屋外に設置し、通常の病棟とは完全に動線を分けています。感染症病棟の5床は大阪府の要請に応じて患者さんを受け入れるためのベッドで、そのほかに当院で陽性患者さんが出た場合すぐ入院できるよう2~3床程度用意しています。
千里リハビリテーション病院では入院時にPCR検査を実施しており、陽性者が出た場合はすぐに感染症病棟で受け入れ、できるだけ影響が波及しないよう対策を整えています。
千里リハビリテーション病院の感染症病棟
新型コロナウイルス感染症に罹患すると、治療中の過度な安静や食欲低下に伴い、低栄養、脱水、ADL(日常生活動作)の低下などが見られます。そのような場合、まずは食事で栄養を取り、回復の状態に応じて積極的なリハビリを行うことが重要です。“感染症は治ったけれど低栄養に陥り、寝たきりになり命を落とす”ということが起きないよう、早めの離床とリハビリを心がけています。
千里リハビリテーション病院の感染症病棟の一室
リハビリを行ううえでの感染対策のポイント
リハビリのスタッフは患者さんのすぐ近くにいますし、接触する機会も多いです。椅子から車椅子に患者さんを移動させるとき、食事を介助するときなどもそうですし、さらに1回の接触時間が長いため感染リスクは自ずと高まります。そのため徹底的な感染対策が必要です。ポイントは、“自分がすでに感染している”と想定すること。特に若い人は症状もないことが多く、気付かぬうちに感染を広げてしまう可能性があります。そのため、重症化しやすい高齢の患者さんが多くいるリハビリの現場では、自分がすでに感染しているという意識を持つことが重要なのです。
このような考えに基づき、防疫用の4層マスクを職員に配布し、リハビリや介助の際にはフェイスシールドとゴーグルなどの感染防具を付けるよう徹底しています。また、医療用ガウンの正しい着脱方法について定期的に講習を行っています。さらに職員にはマスクを外す機会を極力避けてもらうため、複数人での会食などを控えるよう伝えています。
橋本病院でのクラスターへの対応
2020年12月に橋本病院で職員1名の新型コロナウイルス感染が判明し、翌日に入院患者さんと職員全員にPCR検査を実施。その結果、患者さん23名と職員10名の陽性が確認されました。初動として対策本部を立ち上げ、入退院や外来診療、通所リハビリ・訪問リハビリの移動などを全てストップ。また職員の家庭や近隣住民の方々を感染症から守るために、職員には宿舎を用意しました。ありがたいことに、地域のホテル業者さんから「うちを使ってください」という申し出を受けたのですが、職員の中から陽性者が出た場合にご迷惑をかけてしまうと思い、お断りしたという経緯があります。
最終的には累計で患者さん46名、職員36名の陽性者が確認されました。現在は感染が収束しており、通常どおり外来診療と入院、通所リハビリ・訪問リハビリなどを行っています。今回のクラスター発生であらためて新型コロナウイルス感染症における“早期発見・早期隔離”の重要性を痛感しました。この教訓を両病院で生かし、入院時には全例PCR検査を実施することや観察期間は個室を用意すること、職員についても小さな体調不良を見逃さずに必要に応じPCR検査を行う体制を整えています。
全国の医療従事者へのメッセージ
今回クラスターを経験して、新型コロナウイルスの感染がいかに広がりやすいかを痛感しました。まずは早期発見できる体制をつくり、もし陽性者が発生した場合は即座に隔離できるよう体制を整えることが重要だと思います。
慢性期病院として軽症・中等症の新型コロナウイルス感染症患者さんを受け入れていくことは、感染症に対応するためのノウハウを蓄積すること、そして地域医療への貢献につながります。大変な状況ではありますが、それぞれの病院が自院の機能を発揮し、協力していくことが大切ではないでしょうか。医療者の皆さん、共に頑張りましょう。
※橋本 康子先生が携わる日本慢性期医療協会の研修についてはこちらをご覧ください。