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日本の社会と医療を見つめて――小山 秀夫先生の思い

兵庫県立大学 名誉教授 小山秀夫先生

 大学院を卒業後、旧・厚生省に入省して病院経営・医療管理に携わり、さらに診療報酬制度や介護報酬制度の歴史に深く関わってこられた小山 秀夫(こやま ひでお)先生(兵庫県立大学大学院 経営研究科 特任教授・兵庫県立大学 名誉教授)。その経緯を見守ってきた小山先生に、現在の思いをお聞かせいただきました。


医療と介護――高齢者医療の礎を築く

 上智大学大学院博士後期課程を終了し、1990年に旧厚生省 病院管理研究所医療管理部の研究員に厚生技官として入省。病院の幹部職員の教育研修を担当しました。当時まだ29歳で、病院長や看護部長、事務部長といった方々に対して病院経営についてお話をさせてもらい、時には厳しい言葉をいただいたこともありました。また、老人保健法における診療報酬の新設にかかるデイケア、訪問看護、リハビリテーション施策などの調査研究事業に従事しました。

 

 1982年、老人保健法の制定に際して新設された“老人特掲診療料”は、高齢の方と若年者では必要な医療資源の量が異なるとの想定に基づき発案されたものです。1987年の老人保健法改正に際しては、新たに創設する老人保健施設の人員・施設・運営基準を設けるべくアメリカのナーシングホームなど海外の事例を調査しました。また、2000年に介護保険法が施行されるまでの数年間は、介護保険にかかる要介護認定の創設に携わりました。


国民の生活必需品・ライフラインである“医療”という分野で

 医療は国民の生活必需品であり、ライフラインです。日本では医療保険制度や医療費の支払いシステムは社会化してパブリックなものになっていますが、医療の供給体系は必ずしもパブリックではなく、その多くが民間の医療機関によるものとなっています。日本のように、公的な支払い制度の下で民間の医療機関が医療を提供する、という形は経営学から見ると歪んでいます。海外の例として、イギリスでは保険制度も供給体系もパブリックが主体ですが、アメリカでは主に民間が医療保険、医療提供を共に担うといったように、国によって保険制度と医療提供の主体が異なる点は興味深いです。


何かを知りたいと思ったら徹底的に調べてしまう

 何か壮大な夢を抱いたわけではなく、幼い頃から研究者になりたいと思っていたわけでもありません。ただ、人並みには“社会の役に立つ仕事がしたい”とは感じていました。大学院に進んだのは、大学時代に満足いくほど勉強できなかったからです。もっと本を読んだり、自分の興味を深めたりする時間が欲しかったのです。

 そうして進んだ大学院では、主に社会保障や社会政策について学びました。父が学者で家にはたくさんの本があって、今思えば、父の本がきっかけとなり社会保障に興味を抱いたのかもしれません。何かを知りたいと思ったら徹底的に調べてしまうのです。世の中は分からないことばかりですから。目の前にいる人の気持ちなどは、自分にとって特に分かりにくいものの1つです。しかし、過去の人々がどのように考えて行動していたのか、その痕跡を探して歴史を紐解くことは好きです。このような性質があるからか、調査研究をする仕事は苦になりません。


現在、そしてこれからのこと

 人生は成り行きの連続です。“Be here now.”の精神で、立派な目標は立てません。目の前のこと、今日のことにしか集中できないたちなのです。2020年1月からは社会医療研究所の所長も務めています。同研究所の活動として1974年創刊の『社会医療ニュース』を定期的に発行していますので、読者に面白がってもらえたら嬉しいですね。

 

 

 現在は兵庫県立大学大学院で教鞭を執る傍ら、セルソース株式会社で監査役を務めています。これまでに多くの学生を指導してきました。論文指導などを通して相手と真剣にコミットし合うのは非常に楽しいです。論文にはどうしてもその人がにじみ出てきますし、譲れない部分を議論し合うなかで心の深い部分で相手と組み合うような感覚は、私にとって貴重な機会です。学生たちには、「少なくとも75歳までは世のため人のために生きたほうがいいよ」と話しています。

 セルソース株式会社は医療機関や研究機関と連携し、再生医療のプラットフォームを展開する企業です。脂肪由来の幹細胞を抽出・培養する加工受託サービスなどを行っており、革新を続ける再生医療の分野には大いに期待をしています。

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