病気 2020.07.09
摂食嚥下障害に対する支援を提案し続ける、松山リハビリテーション病院言語療法科
松山リハビリテーション病院 言語療法科科長 河島早苗さん
愛媛県松山市に位置する松山リハビリテーション病院は、リハビリテーションを専門とする病院として地域の方々の健康を守るとともに、医療、看護、介護、福祉の充実と拡大を図る病院です。同院の言語療法科は、摂食嚥下(えんげ)障害の患者さんを支える取り組みを提案し続けてこられました。言語聴覚士の河島 早苗(かわしま さなえ)さん、河島 邦宏(かわしま くにひろ)さんに、同科のあゆみや特徴的な取り組みを伺いました。
松山リハビリテーション病院における“摂食嚥下リハビリテーション”のあゆみ
国家資格を取得した言語聴覚士が誕生
1999年、言語聴覚士の第1回国家試験が実施されました。国家資格を持つ言語聴覚士が誕生し、新しいことに取り組んでいこうという勢いのある時代だったと思います。当院でも、新しく2名が入職して6名体制で摂食嚥下障害に取り組むことになり、X線照射下で行う飲み込みの検査“嚥下造影(VF)検査”や食事場面などに、言語聴覚士がどんどん介入していくようになりました。
看護師や介護士と連携し、より専門的な食事介助を目指して
言語聴覚士が摂食嚥下リハビリテーションに介入し始めた当初は、病棟の看護師や介護士と連携する体制を整えることが課題でした。
私たち言語聴覚士は、学校や勉強会で学んだ摂食嚥下リハビリテーションの知識を生かして、より適切な訓練方法につなげたいという強い思いがあったものの、食事介助を実践している看護師や介護士の方には、「これまでの方法でもうまくいっていたのに……」と疑問に思われたかもしれません。
若手の言語聴覚士は特に、スタッフ間でコミュニケーションをとったり、患者さんの情報を共有したりすることにまだ慣れておらず、チームワークが取れるようになるまで時間がかかったことを覚えています。
回復期リハビリテーション病棟の設立が転機に
看護師や介護士とスムーズに連携できるようになってきたのは、私が入職してから3年後、2002年頃のことだったと思います。
当院に回復期リハビリテーション病棟が開設されて、病棟全体の士気が高まっていた時期です。看護師や介護士の方が、「とろみ剤がダマにならないよう溶かしたい」「とろみの加減をもっと一定にしたい」と、それまで以上に熱心に嚥下のことを研究されていました。そこで、私たちが言語聴覚士として情報共有する機会も増え、学んできた知識を生かすことができるようになったのです。
松山リハビリテーション病院言語療法科の“嚥下体操”
嚥下体操を広めたい――言語聴覚士がビデオテープの作成に注力
私たち言語聴覚士は、回復期リハビリテーション病棟が設立されたのとほぼ同時期に、摂食機能療法の中でも予防や機能維持を目的とした“嚥下体操”に力を入れ始めました。そのとき、「ビデオテープを作って、院内で嚥下体操の映像を流してみてはどうだろう」というアイディアから、実際にビデオテープを作成することになったのです。
自分たちがモデルになって、「ぱぱぱぱぱ」と発音したり舌を出したりする体操を行い、自分たちで考えた原稿を読み上げ、撮影も全て行いました。摂食機能療法の算定ができるようになり、言語聴覚士として何ができるか、という思いで熱心に取り組んだことを覚えています。
退院後も自主訓練できるよう、嚥下体操の指導を継続
ビデオテープができ上がると、嚥下体操の映像は院内のテレビで定期的に放送されるようになりました。そして、その放送を患者さんと一緒に見ながら摂食嚥下リハビリテーションを行い、より効果的に訓練できるような指導をしたり、自主訓練で継続できるよう退院時にビデオテープをお渡ししたりして、患者さんの嚥下障害の予防や機能維持を図りました。
全館で放送されたのは1年ほどで、DVDの普及に伴ってビデオテープ自体を使うこともなくなっていきました。しかし、今でも患者さんには、嚥下体操のやり方や手順を示した“お口の体操”のプリントをお渡しし、日々の生活に嚥下体操を取り入れていただけるようサポートしています。
医療、介護、福祉に若者が関心を持ってくれる未来へ
当院独自の取り組みの1つとして、リハビリテーションに関わる医療機器開発が挙げられます。リハビリテーションを行いながら「こんな機器があったらいいのに」と考えていたところ、愛媛県内にある新居浜工業高等専門学校の卒業生が当院に入職し、それがきっかけで医療機器の開発が実現に向かっていきました。
実際に3つの医療機器を開発し、慢性期リハビリテーション学会で“嚥下時における取付型背もたれ角度測定器の開発”などの演題発表を行っています(2019年11月時点)。
もちろん、医療機器を“ただ作って終わり”ではなく、作ったものを現場で使ってデータを取り、医療機器としての効果を確実に立証することが目標です。
日本では法律の壁により、医療機器の開発が容易ではなく、本当にやりたいことの中でも数分の一しか実現していないことが現状です。しかし、リハビリテーションを行うなかで気づいたことを形にするために取り組むことそのものが大切だと考えており、医療機器開発はこのまま続けていくつもりです。
そして、製品化には至らなくとも、工学部出身者が医療機器開発に携わり、医療・介護・福祉の領域においてその機器の存在価値が出てくることが、重要だと考えています。少子高齢化が進むなか、若者が医療・介護・福祉に興味を持ってくれる呼び水にもなるのではないかと期待しています。