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患者さんの精神的な健康をサポートしたい――星 隆行さんが慢性期医療にかける思い

大宮共立病院 介護福祉士 星 隆行さん

入院病棟で従事する介護福祉士は、看護師やリハビリテーションのスタッフなどと連携しながら、患者さんの精神面も含め日常生活をサポートしています。大宮共立病院の医療療養病棟で働かれている星 隆行(ほし たかゆき)さんに、介護福祉士としてのあゆみや慢性期医療への思いについてお話を伺いました。


祖母の介護経験から始まったキャリア

私が介護福祉士を目指すようになったのは、祖母の介護の経験がきっかけです。私が高校生のときに祖母が認知症を患い、自宅で介護をした経験は非常に大変なものでした。祖母は感情の起伏が激しく、物を投げたり、排泄物を漏らしてしまったり、徘徊してしまったり……。そのようななかでも笑顔を絶やさず、働きながら世話をしていた母親の姿をみて、家族として支えることの重みを感じました。その一方で、自分ももっと力になれるのではないか、同じように介護が必要な人の力になれるのではないかという思いが生まれ、介護の道に進むことを決めたのです。

実は高校卒業後は体育の専門学校に通っていたのですが、その学校を卒業して大宮共立病院に入職しました。右も左も分からないなか認知症病棟に配属され、そこで先輩や仲間たちに助けられながら実務を経験し、介護福祉士の資格を取りました。入職して15年後に現在の医療療養病棟に異動となり、10年が経ちます。気付けば入職して26年目、すっかりベテラン層の仲間入りを果たしました。


患者さんとの関わり方を模索し続けた

認知症病棟に配属されたばかりの新人の頃は、仕事が楽しい反面、大変なことも多くありました。担当のアルツハイマー型認知症の患者さんが「お金を取られた」「早くうちに帰らなくちゃいけないんだよ」と、帰宅願望が強く離院してしまい、興奮している患者さんの対応に困り果てながら、3時間病院の外を一緒に歩いたこともありました。当時の私は認知症に対する知識が薄く、患者さんとどう関わればよいのか模索しながら働く日々でした。そんなとき、当時の看護師長から「認知症の患者さんは自分を映す鏡。優しくすれば優しく返してくれるし、不機嫌に接すれば怒られることもある。自分の関わり方で患者さんは変わってくれるんだよ」と教えていただきました。認知症の患者さんは非常に正直です。成人の患者さんとは言葉だけで意思疎通ができることが多いけれど、認知症の人にはそれが通じないこともある。でも、正しいケアをすればきちんと心を開いてくれる。だからこそ、本当のケアがとても大切なのだと学んだのです。


病院に勤める介護福祉士として

医療療養病棟に異動してからは、点滴や経管栄養を必要とする患者さんが入院されていて、医療知識が必要な場面が多くあります。認知症病棟とは違う大変さがあり、戸惑ったこともありましたが、改めて勉強させてもらいました。

医療療養病棟の介護福祉士として、医師や看護師を始め、リハビリスタッフ、栄養課のスタッフなど多職種との連携を図り、患者さん一人ひとりの生活の質を向上させることができたらと思っています。病棟にいる介護福祉士の目は非常に大切です。看護師は患者さんの日常のケアをしつつも、やはり診療補助がメインの業務であり、医療処置が多くなります。患者さんの食事や排泄、清潔面は介護福祉士がしっかり担当し、看護師に安心して業務に集中してもらいたいと考えています。またリハビリスタッフに対しても、私たち介護福祉士からできることが多くあります。たとえば「食事中の姿勢はこうだけど、ベッドの中では違う姿勢になっている」「排泄やお風呂の場面ではこういうことがある」といった情報提供は、常に患者さんを見ているからこそできます。逆に私たちは医療面における情報を吸収させてもらい、うまく連携をすることで患者さんの適切なケアにつなげたいです。


入院患者さんに楽しいひと時を過ごしてほしい

現在、私は介護係長として他病棟との連携を図るほか、教育委員として後輩指導に携わっています。また、介護力強化委員として年間の行事の企画に力を入れています。介護力強化委員会では介護職のメンバーが主体となり、お花見、夏祭り、文化祭、クリスマス、節分など、季節に合わせてさまざまな行事を病棟単位で定期的に開催しています。病院内で季節感を感じてもらうための飾りつけや、季節のおやつの提供などをしており、少しでも患者さんに楽しいひと時を過ごしてもらえたらと思っています。

季節に合わせた院内の飾りつけは、主に患者さんがリハビリテーションに向かうための廊下で行っています。今年(2024年)の夏は耳で夏を感じてもらえたらと思い、風鈴を飾り、さまざまなセミの音をラジカセから流しました。ほかにも、花火やひまわりの飾りつけをしています。医療療養病棟の患者さんは多くの時間をベッドや病棟内で過ごすため、少しでも入院生活での楽しみが増えてほしいという思いで行っています。患者さんの普段見られない笑顔が見られ、喜びの声をかけてもらえるとうれしい気持ちになりますし、次も頑張ろうという気持ちにもなります。また「昔、子どもと花火を見に行ったね」「あのときの花火みたいだね」と昔を回想してお話しされている姿を見られるのもとてもうれしく、コミュニケーションの一助になっていると感じています。

超高齢社会を迎えるなか、慢性期医療の役割は時代とともに拡大しつつあるのではないかと感じます。病院は単に治療をする場所、リハビリテーションを行う場所だけではなく、精神的な健康のサポートをする場所としても重視されてきています。患者さん自身が主体的に生活や趣味を楽しむためのサポートをしたり、コミュニティ活動を促進できるようなプログラムを提供したりすることで、患者さんがより充実した療養生活を送れるのではないかと思います。


星 隆行さんが目指す未来――患者さんの笑顔のために

ここまで介護福祉士として大宮共立病院で働き続けてこられたのも、よい上司やよい仲間に支えられ、成長できたからこそだと思います。これからもこれまでの経験を生かして後輩たちにとってよいお手本となり、共によい介護を提供していけるよう努力していきたいと思います。

またこれからも、患者さんが楽しめるイベントを積極的に企画していきたいです。今後やってみたいこととしては、院内にある大きなホールで映画館を再現できたらと思っています。ホールを薄暗くして、映画のチケットやパンフレット、できればポップコーンなども準備して、懐かしい映画を楽しんでもらいたいです。また、夏はプロジェクターを使って、映像によって大きな打ち上げ花火を上げてみたいです。そして患者さんから「今日も最高だったよ!」と笑顔で言ってもらえたらうれしいです。

同じ慢性期医療に関わる現場の人たちとの交流も深めていきたいです。近年インターネットの普及やオンラインミーティングツールの発展により、同じ分野で働く人たちとの情報交換がこれまで以上に容易になってきています。お互いの取り組みやよいところを知り、これからの慢性期医療を盛り上げていけたらと思います。

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