病院運営 2020.05.01
心の通った医療、ケアの提供を目指して――“個室ユニットケア”などをはじめとする有吉病院の取り組み
医療法人笠松会 理事長 田中圭一先生
医療法人笠松会 有吉病院は、1980年の開設以来、かかりつけ医として地域の医療ニーズに応え続け、現在では医療療養病棟と介護療養病棟を備え、さらに、関連社会福祉法人でグループホームやケアハウスなどの介護施設を併設し、支援や介護を必要とする方々への切れ目ない医療、ケア提供体制を整えています。
2011年より同法人の理事長を務める田中 圭一(たなか けいいち)先生に、有吉病院の目指す姿と取り組みについてお話を伺いました。
医療法人笠松会 有吉病院の目指す姿
有吉病院は、“私たちは、高齢者の方々が、安心して過ごして頂けるように、皆様方の立場に立って心の通った医療とケアの提供を目指します”という理念を掲げています。
介護が必要になったときには、家族にかける負担をなるべく減らし、自分らしさを大切にして暮らしたい、安心して生活したいという思いを抱くでしょう。私たちは、自分が患者さんだったらどのような病院に通いたいか、入院したいかということを常に考え、患者さんの不安をできる限り解消し、その心に寄り添える病院でありたいと考えています。
【有吉病院の目指す姿】
- 地域の赤ちゃんから高齢の方まで、全科を総合的に診療する
- 医療機能を充実させ、どんな病気にも適切に対応する
- 急性期から慢性期、介護期まで幅広く対応する
- 住民の皆さんにとって何でも相談できる身近な存在である
- かかりつけ医として初期診療にあたり、自院で対応困難であれば適切な専門医を紹介する
- 個人の尊厳を尊重し、認知症に適切に対応する
- 患者さんの負担をできるだけ軽くする
がんや臓器不全などの終末期に患者さんやご家族の意向に十分配慮した医療を提供し、住み慣れた地域で満足できる看取りを行う
有吉病院の特徴と取り組み
支援や介護を必要とする方への切れ目ない体制を整えている
医療法人笠松会 有吉病院は、1980年に19床で開設し、かかりつけ医として地域の医療ニーズに応えるための努力を重ねてきました。現在は、医療療養病棟56床(個室36床、二人部屋20床)、介護医療院90床(全室個室ユニット型)の計146床の療養病床を有し、地域密着型の療養病院としての役割を担っています。
私たちは、高齢の方が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう、医療法人内で訪問看護やデイサービスセンターを運営し、さらに、関連社会福祉法人でグループホームやケアハウスなどの介護施設を併設し、支援や介護を必要とする方への切れ目ない医療、ケア提供体制を整えています。
個人の尊厳を重視したケアを体現するための“個室ユニットケア”
有吉病院では、人々の暮らしを支える医療、個人の尊厳を重視したケアを体現するべく、2002年より療養病棟で“全室、個室ユニットケア”を導入しています。
ここで言う個室とは、単なるシングルルーム(一人部屋)ではなく、個人の尊厳を重視したプライベート空間です。介護が必要になっても安心して過ごせるように、医療、看護、ケアを24時間体制で提供し、“その人らしい生活を継続、保証するためのもの”それが当院における個室ユニットケアです。
有吉病院の個室(療養病棟)
個室ユニットケアの重要性を提唱してきた外山 義(とやま ただし)先生によると、地域で生活してきた高齢の方が施設に入所する際、それまでの生活とのさまざまな“落差(ギャップ)”が浮き彫りになるといいます。それは、空間の落差(1人になれる落ち着いた空間がない)、時間の落差(集団のスケジュールに合わせなくてはならない)、規則の落差(施設ごとの規則や管理が生じる)、言葉の落差(命令口調、呼び捨てやちゃん付けで呼ばれる)、役割の喪失の落差(地域や家庭で担ってきた役割を失う)です。
私たちが考える“個室ユニットケアの目的と意義”についてご説明します。
- 少人数のケア体制により、患者さんやご家族との関係を強化する(馴染みの関係)
- 自分の住まいと思えるような環境をつくる(暮らしの継続)
- 面会者の訪問回数や時間の増加により、家族との関係が深まる
- 個別ケアによって、これまでの生活習慣を尊重する
- 24時間の介護と医療で、暮らしを保障する
- 固定配置により患者さんの変化に気づきやすい
- 認知症における問題行動を減少させる
- 急変時に対応しやすい
- 院内感染のリスクを抑える
- 緩和ケアや看取りをスムーズに行う
当院の介護療養病棟については、設計上、施設基準に合致しない部分があったため、現在の体制を維持しながら60床を改築、新たに30床を増築し、2020年2月に90床全てを介護医療院へ転換しました。
治す医療から支える医療へ――介護医療院の役割とは?
私たちは、病院主体ではなく患者さん主体で医療のあり方を考え、“治す”だけの医療から“支える”医療に転換していく必要があるでしょう。介護医療院に関して、たとえば「今度この病床は介護医療院になるので退院してください。あなたは在宅へ移行です」などと迫られる患者さんがいたとしたら、本末転倒です。介護医療院は住まいの機能を兼ね備えた医療施設としての役割があるので、本来、その人らしい生活を継続するための理想的な環境になるべきです。
私が考える介護3施設の役割としては、まず介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は(重度の)介護を必要とする方の生活施設であり、介護老人保健施設は病院と自宅にある中間施設かつ在宅復帰を支援する施設、そして介護医療院は、住まいと生活を医療が下支えする施設です。このように介護医療院は、住まいの機能を確保したうえで医療機能を内包した新たな施設類型なのです。
このような国の方向性は、私たちが当院においてユニットケアなどを通じて目指してきた姿、つまり“暮らし支える医療の提供”や“安心して過ごせる環境づくり”に近いと感じました。私たちはこれからも、患者さん一人ひとりに合わせた医療、看護、介護を提供することで、その人らしい生活を継続できる環境をつくり続けていきたいと考えています。
有吉病院におけるこれからの展望
医療機関は、規模や機能によって担う役割が異なります。商業施設にたとえるなら、都会のデパートのような大きな総合病院もあれば、生活に密着したコンビニエンスストアのような診療所もあります。当院は、郊外型のショッピングセンターのような姿を目指すべきです。それはつまり、地域の方々の医療、ケアのニーズに幅広く応えられる機能を持ち合わせること。「有吉病院に来てよかった」と思ってもらい、自分や家族が入院するときに選ばれる存在でなければなりません。
入院で急性期の患者さんが一定以上いることを考慮すれば、今後、病床の適正化も必要と考えています。いずれにせよ、地域包括ケアシステムの中で、将来的な人口動態の変化と自院に対する医療ニーズを見極め、高度急性期病院との連携を深めながら、医療、看護、介護の質を高めていくことが重要と考えています。