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多職種がフラットに語り合える場を――京都リハビリテーション医療・介護フォーラムの設立にかけた思いと活動内容

京都府立医科大学大学院 リハビリテーション医学 教授 三上 靖夫さん

リハビリテーション医療には、医療・介護領域における多くの専門職が関わりますが、それぞれ違う立場にいる職種がスムーズな連携を取るのは容易ではありません。この課題を解決しようと、リハビリテーション医療に関わる多職種が理解と連携を深めるための交流や議論の場として設立されたのが、“京都リハビリテーション医療・介護フォーラム”です。今回は、京都リハビリテーション医療・介護フォーラムを設立された三上 靖夫(みかみ やすお)さん(京都府立医科大学大学院 リハビリテーション医学 教授)に、設立の経緯や活動内容、展望についてお話を伺いました。


京都リハビリテーション医療・介護フォーラムのはじまり

「連携が取れない」という声に何ができるか考えて

私が京都リハビリテーション医療・介護フォーラムの設立に着手したのは2023年のことです。設立のきっかけは、京都府地域リハビリテーション連携推進会議のリハビリテーション部会で座長を務めるなかで聞こえてきた、さまざまな立場の人の声でした。部会では、医師会、歯科医師会、病院協会、看護協会、理学療法士会、介護支援専門員会をはじめとした保健医療福祉関係団体の代表者や行政関係者が集まって意見交換を行います。そのなかで多くの人が「連携が上手く取れなくて困っている」との意見を述べられていました。違う職種の人との連携や、異なる役割を担う医療機関・施設(急性期病院と慢性期病院など)との連携が上手く取れないことに悩んでいる人・施設がとても多かったのです。「これを解決するために何かよい場はないだろうか」と思案し、各専門職団体に呼びかけて京都リハビリテーション医療・介護フォーラムを立ち上げました。

医療と介護の障壁をなくしたい

京都リハビリテーション医療・介護フォーラムには前身の会があります。それが京都リハビリテーション医学会です。この学会は医師が中心の会でしたが、多くの職種が関わるリハビリテーション医療を医師の視点だけで語ることに限界を感じていました。そして、何より医療と介護の連携が重要であるとの確信を持っていました。一方で、急性期医療の現場を見てきて、医療職の介護に対する関心の低さ、また介護職の医療に対する遠慮を感じてきました。医療と介護の隔たりは、私が要介護5の父を自宅で介護していた際、担当だった介護支援専門員さんから聞いていた現場の生々しい裏話からも感じていたことでした。自身の介護体験も重なり、まずは医療と介護の間にある垣根を低くして、多職種がフラットに意見交換できる場を作る必要があると考えたのです。


“もっと知ろう つながろう” ――初の開催となったフォーラム2024

皆で作り上げたテーマとプログラム

設立1年目に行ったのは、京都リハビリテーション医療・介護フォーラムのベースとなる仕組みづくりと、京都リハビリテーション医療・介護フォーラム2024(以下、フォーラム2024)に向けた準備です。2024年2月3日~4日に開催したフォーラム2024には医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士、介護支援専門員、介護福祉士、医療ソーシャルワーカー、看護師、保健師、学生など、リハビリテーション医療・介護に携わるさまざまな職種が集まり、参加者は470名を上回りました。フォーラム2024のテーマは“もっと知ろう つながろう”としました。職種間で連携を取るためには、まずはお互いの職種について理解する必要があります。1日目は“しろうデー”としてお互いを知ることをテーマに、2日目は“つながろうデー”としてつながることをテーマにしたプログラムを実施しました。

本フォーラムの大きな特徴は、参画した団体の皆さんと一緒に企画を練ってプログラムを作り、運営まで共に行ったことです。何を知りたいか、どの職種とつながりたいかについて意見を挙げてもらい、その希望に応えるプログラムを用意し、職種を越えて皆で運営にあたりました。

医療・介護の多職種が本音で語り合える場に

しろうデーで行った、“まず知ろう!各専門職~実際現場はどうなん?~”では、それぞれ違う職種の10名の専門職に登壇してもらい、現場のリアルな状況を紹介し、他職種からの質問に答えていただきました。医療から介護まで多彩な専門職が一堂に会し、1つのテーマについて語る機会はなかなかないため、珍しい試みだと参加者の皆さんも驚かれたようです。また、つながろうデーで行った“ギャップを埋めよう! 病院と在宅~より良い住まいと暮らしを提供するために~”では、各職種の特色や強みを理解してもらうためにまず病院と在宅の立場でそれぞれ発表しました。その後、回復期から在宅への連携のギャップを埋めるためにどうしたらよいかを、登壇者全員でディスカッションできたことは、とてもよかったと思います。また、“今のリハビリテーション医療・介護こんなんで委員会2024~つながるための言いたい放題~”と題したプログラムでは、多職種の登壇者が本音で生討論を行いました。

このフォーラムでは、一般的な学術集会で行われるスライドを使ったプレゼンテーションをあえて省いたのも大きな特徴です。リハビリテーション医療・介護に携わっていても、立場や職種により見える景色は異なります。それぞれが感じる連携面の課題について、壇上で本音のディスカッションを展開したことで、参加者にも共感いただけたのではないかと思います。


フォーラム2025 のテーマは“もっと!! 広げよう! 深めよう!”

顔が見えるだけではなく、意見を言い合える関係を目指す

2025年2月8日〜9日には、第2回目となる京都リハビリテーション医療・介護フォーラム2025(以下、フォーラム2025)を開催予定です。フォーラム2024の“もっと知ろう つながろう“から、さらに連携を広げ深めていくことを目指して、フォーラム2025のテーマは“もっと!! 広げよう! 深めよう!” としました。連携においては、お互いを知る だけではなく、深くつながることが大事だと考えています。 よく“顔が見える連携”が大切だといわれますが、顔が見えていてもお互い意見を言える関係性を築けていなければ連携はできません。フォーラム2025では、顔が見えるだけではなく、意見を言い合える関係にまで深めていくことを目指しています。

また、参加者の職種をさらに広げ、歯科医師と管理栄養士にも新たに加わっていただき、“栄養・口腔(こうくう)・嚥下(えんげ) どう繋がる? 繋がるとどうなる?”と題したプログラムを企画しています。2024年の診療報酬改定では、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算が新設されたこともあり、フォーラム2025でこれらの職種との連携を深められればと考えています。

一度で終わりではなく、ずっと続けていくことが大切

2024年に行った多職種について知るためのシンポジウムや本音で語り合う生討論は、フォーラム2025でも実施予定です。語り尽くせない部分まで深めていくために、今後も続けていくことが大事だと考えています。

新たなプログラムもいくつか設けており、その1つとして京都市障害者スポーツセンターの紹介を予定しています。パラリンピックのイメージが強い障がい者スポーツですが、健康増進のためにもいろいろな障がいを持った人がスポーツを行っていることを、多くの人に知ってほしいと思っています。また、“義肢装具士とセラピストが協力すると何が生まれる?”では、協力できそうに見えてまだつながっていない職種をつなげ、連携を深めていきたいと考えています。“真のDXにせまってみた”は、働き方改革やペーパーレスの推進といった課題に直結していますので、今後も継続して話し合うことになるテーマではないでしょうか。

フォーラム2025は、昨年よりもさらに多職種で作り上げる会にしたいと思い、会長を設けず実行委員会の主催にしました。昨年は私が会長を務めましたが、医師が会長をするとどうしても“医師がやっている会”に思われがちで、連携の妨げになるような気さえします。今年は裏方に徹して、フォーラム2025の成功を支えたいと思います。


今後の展望

2024年に発生した能登半島地震の際、京都JRAT*で支援活動を行い、私自身も3月に理学療法士と共に珠洲市へ向かいました。被災地で再認識させられたことは、平時から多職種で連携しておくことの重要性です。日頃から連携を深めておかないと、いざ災害が起きたとき立ち向かうことができないことを強く実感しました。

京都リハビリテーション医療・介護フォーラムは、さまざまな職種の間にある垣根を取り払いたいという一心で活動しています。毎年開催されるフォーラムでは、今後もリハビリテーション医療と介護が本当の意味で連携できるようなテーマを取り上げていきたいと思います。また、連携面の課題に加え、京都府内では地域ごとにリハビリテーションに関わる専門職の人材に偏りがあることも課題です。京都リハビリテーション医療・介護フォーラムの活動が、こうした課題の解決にもつながっていくことを願っています。

*JRAT:地震や豪雨などの被災者をリハビリテーション関連の職種が連携して支援するための活動を行う組織。

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