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千里リハビリテーション病院−ホテルのように居心地のよい空間でリハビリを

医療法人社団和風会 理事長 橋本康子先生

「リハビリテーションリゾート」をコンセプトにつくられた千里リハビリテーション病院は、ホテルのように居心地のよい空間と、自然に患者さんが刺激を受けられる構造的な工夫が特徴です。2009年には、『医療福祉建築賞』を受賞しました。医療法人社団和風会 理事長の橋本康子先生に、そのコンセプトに込められた思いを伺います。


「リハビリテーションリゾート」というコンセプトに込めた思い

患者さんが前向きにリハビリできるような居心地のよい空間にしたい

リハビリテーションに特化した病院をつくると決まったとき、せっかくならホテルのように居心地のよい空間にしようと思いました。なぜなら、リハビリは数か月あるいは半年という単位の長い時間をかけて行うものであり、また、何よりも、患者さんが前向きにリハビリできる環境が必要だと感じていたからです。

 

仕事などをバリバリとこなして社会や家庭に貢献し続けてきた方が、急に人の助けが必要な状態になると、自己評価が急激に下がり、「家族のお荷物になりたくない」「もう自分は世の中の役に立たない人間だ」と口にされることさえあります。病気や怪我によってリハビリが必要になった患者さんは、気持ちが大きく落ち込んでいることが多いのです。

 

患者さんのつらさは自身の想像を超えていた

患者さんがどれほどつらいのか、それを痛感した出来事があります。

橋本病院の頃、外来で通われていた80歳代の患者さんが脳梗塞を起こし、右半身に片麻痺が残ってしまいました。しかしリハビリを頑張り、足で車椅子をこげるまでになりました。私は「ここまで回復しましたよ。すごいですね」と声をかけましたが、彼は「まあでも、先生、おれは終わりやな、これで。」というのです。「どうしたのですか」と聞くと、肩を落とし「戦争に行ったとき死にそうになって、もうあんなつらい思いは二度とないだろうと思ったけど、今はそれ以上やな」と口にしました。

 

私はそのとき初めて、命をかけた戦争の体験をしのぐほどのつらさが、そこにあるのだと思い知ったのです。同時に、ここで私がどんなに言葉を尽くして「がんばりましょう」「大丈夫ですよ」と声をかけても、彼の自己評価を上げることはできないとも思いました。現にその方からは「健康な先生には絶対わからんわ」といわれてしまいました。

 

このように現状に絶望しているような患者さんでも、自然とリハビリをがんばろうと思えるような環境をつくりたい。そのために、いわゆる「病院」の無機質で冷たい空間ではなく、ホテルのような癒しがあり、「大事にされている」という感覚を持てるような空間のある病院、「リハビリテーションリゾート」をつくろうと思い至りました。


リハビリのための環境整備・工夫

「個室」はリハビリのアイテムのひとつ

リハビリという視点から考えると、「個室」である必要性は高いと考えています。なぜなら、個室では患者さんがほかの人を気にすることなく自由に動くことができ、活動量を上げるリハビリにもなるからです。

 

たとえば洗面台でも、個室であれば、時間をかけて歯磨きやお化粧をできますし、汚すことを気にして使わなくなることもありません。好きなときに好きなだけ時間をかけて、日常生活の動作を練習できる。これが、とても重要なことなのです。その意味では、「個室」はリハビリのアイテムのひとつともいえます。

 

  • 生活のなかで、自然と刺激が入るように設計した

当院は、生活のなかで自然と刺激が入るよう設計されています。たとえば、居室からリハビリ病棟やレストランに行くまでの間で、1日数回は必ず外気に触れるような構造になっています。外気に触れること自体が刺激ですし、さらに、天候や気温の変化、日夜の移り変わりを感じることは、意識レベルの低い患者さんにとってもよい刺激になるのです。


リハビリ以外でもなるべく自然と歩ける構造に

レストランは、居室からもっとも遠いエリアにあります。その理由は、1日に3回食事をすることは決まっているので、そこで自然と歩く機会をつくりたいと考えたからです。

当院で杖歩行が可能になった患者さんの平均的な歩数を調べたところ、3時間のリハビリ中は、およそ1,500歩でした。そして、レストランまでの3往復が約1,500歩、個室内の歩数も約1,500歩でした。このように、自然と歩ける構造になっていることがわかります。


ペットと一緒の時間を楽しんでほしい

当院は、患者さんやご家族のペットを連れてくることが可能です。患者さんのなかには、「あの子の散歩に行きたいから」とリハビリをがんばっている方もいらっしゃいます。院内や病院の外をペットと一緒に散歩することは、とてもよいリハビリになります。

ペットという存在は、飼い主の自分がどんな状態になっても、関係なく自分に甘えてくれたり、たくさんの愛情をくれたりします。そのようなペットとの関係を、病院のなかでもぜひ楽しんでいただきたいと思います。


日常生活により近く。居室には靴を脱いで上がる

リハビリでは、退院後の日常生活により近い環境で過ごすことが大切であるという視点から、病棟には、靴を脱いで上がるようにしています。

私たち日本人は自宅では靴を脱いで生活しますから、院内でずっと靴を履いたまま生活したりリハビリしたりするのはおかしいのです。靴を履いた状態でのリハビリは、裸足でのそれとは多少なりとも異なります。できるだけ「日常生活に近い環境」でリハビリをすることが、日常生活に戻ることへの近道だと考えています。

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