介護・福祉 2021.06.24
介護職がやりがいを持って働ける環境づくりのポイントとは?
社会福祉法人 元気村グループ 理事長 神成裕介先生
少子高齢化の進展に伴い介護人材の不足が問題になっており、このままでは2025年に37万人以上の介護人材の需給ギャップが生じる見込みです。また、一般的な介護職の離職率*は19%(常勤:2017年度)と高く、課題は山積しています。このようななか、全国で多数の介護事業を展開する元気村グループでは人材採用・育成に力を入れ、結果、グループ内の離職率が10.4%(常勤:2020年度)と低くなっています。理事長の神成 裕介(かんなり ゆうすけ)先生に、介護人材の育成やその根底にある思いを伺いました。
*離職率=1年間の離職者数÷労働者数
一般的に介護分野で離職率が高いのはなぜか
おそらくマッチングの問題があるでしょう。本人が想像したものと実際の業務内容にギャップが生じている可能性があります。一概にはいえませんが、ほかの業界から転職する方の中には介護に漠然としたイメージを抱いており、実際に働いてみて「こんなに大変だとは思わなかった」と離職に至るケースがあるようです。
一方、元々介護の分野に魅力を感じており志のある方、専門学校などである程度勉強している方たちはそう簡単には辞めません。つらい状況があるとしたら、理想や志を抱いて介護の世界に入ってきたのに、介助のスキルだけをひたすら提供するような環境で介護職のやりがいや楽しさを経験できずにいることです。
採用・育成では介助スキルよりも“スタンス”を大事に
元気村グループでは人材の採用・育成において、まずスタンス(物事に向かう姿勢)を大事に、そのうえでスキルを磨くことを重視しています。スキルが前提になるのは順番が違いますし、先にお話ししたようなつらい状況が起こりかねないからです。
具体的には、新卒採用のスタッフに対する1年間の研修では介助のスキルだけを詰め込むプログラムは行わず、現場でメンターを付けて介護のやりがいや楽しさを体験してもらい、「自分たちはなぜこの仕事をするのか」「介護とは何か」というスタンスを学ぶ研修を行います。通常、新しいスタッフには人員不足を補うために、まずスキルを身に付けさせることが多くあると思います。しかし、それでは介護のやりがいを感じたりスタンスが確立されたりする前に介護の大変さや忙しさを感じ、疲れてしまうことが多いのです。スキルは後からいくらでも身に付けることができますから、まずは介護のやりがいや楽しさを経験し、スタンスを確立するところから始めることが大事だと思います。
中国大連爽やかな風社区養老センターの様子
また、グループの採用基準も変わりました。従来は医療・社会福祉関連の学生を中心に採用していましたが、現在は経歴よりも「人と関わることが好き」といった本人の思いを重視して採用を行っています。これは、スキルよりもスタンスを重視するというグループ全体のあり方を反映した変化です。このような取り組みを通じて、介護分野に飛び込んでくれた方がその思いを実現できるようサポートしたいと考えています。
自発的に考え行動することを尊重する
介護の現場でスタッフがやりがいを持って働けるよう、当グループでは自発的に考え行動することを尊重しています。「利用者さんと接するスタッフが主役である」という考えに基づき、スタッフ一人ひとり・各施設の自発的な取り組みを応援するのです。これまで実際におむつをゼロにする活動やノーリフティング・ケア(持ち上げない・抱え上げない・引きずらないケア)の導入など、よりよい介護を実現するための取り組みがスタッフ・施設から提案されました。
現場を見に行って、スタッフから「これをやってみたい」という意見を聞けば、「どんどんやってみよう」と応援します。また、グループの役職者はビジネスチャットツールで常時つながっており、チャットですばやく意見を交換して現場から出た要望やアイディアをスムーズに反映できるようにしました。
面白いのは、そのように自発的に考え行動している施設では離職率が低いことです。これは仮説ですが、自ら考え行動し取り組める状況では、仕事が楽しくなるのでしょう。マニュアルの遂行はもちろん大切ですが、管理がメインになってしまうとどうしても窮屈ですよね。一人ひとりが考え行動すること、それを尊重する文化をつくることが重要だと思います。
写真:PIXTA
マニュアルよりも柔軟性――現場を第一に
私たちは理念の1つである“現場主義”を徹底しています。統一されたルールやマニュアルなどは最低限ありつつ、それよりも現場での柔軟な運用と最適化を重要視しています。
たとえば施設の管理者は通常1名ですが、ある施設では管理者を3名配置しました。全員女性でお子さんがいらっしゃるので、互いに協力し補い合って管理者業務を遂行してくれています。また、お子さんを連れてきてよいという職場もあります。そこでは、お子さんのいるスタッフが働きやすくなり、利用者さんも子どもとの時間を楽しんでくれるという2つの利点が生まれました(現在は新型コロナウイルス感染症の影響により対応を変更)。
定年退職後や子育て世代がより働きやすい環境へ
介護人材不足の課題を踏まえ、今後は定年退職された方の採用やジョブシェア、さらに子育て世代がより活躍しやすい環境づくりについても考えるべきでしょう。たとえば週に数日働ける方を3人1組にして仕事をシェアできるような体制、子育て世代が働きやすいシステムなどの構築を検討しています。
※お話の続きは、次の記事をご覧ください。