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人口構造の変化により医療介護ニーズはどのように変容するのか

厚生労働省 医務技監 鈴木康裕先生

これから、日本は急激な人口減少を迎え、高齢化率は増加を続けると推測されています。このような流れのなかで、医療の内容は徐々に「病気を完治させる医療」から「病気と共存するための医療」へと変容しつつあり、慢性期医療の需要が高まっています。


これから、日本はどのように変化していくのか?

人口全体における高齢者の割合が増加し「比率高齢化」が進む
今、日本は急激な人口減少の局面を迎えています。2060年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は40%近い水準になると予測されています。以下「日本の人口推移」のグラフをご覧ください。このグラフにおける2015年までの実績値と、それ以降の推計値から読み取れる「高齢化」には大きな違いがあります。

 

2015年までの実績値における高齢者人口(65歳以上)は、棒グラフの緑部分で表されています。高齢者人口が大幅に増加していることから、このような時代には、医療・介護サービス需要の増加に対する「サービス供給量の増加」がもっとも必要といえます。
一方、2015年以降の推計値では、高齢者人口そのものの絶対数は大きく変化しませんが、高齢者の割合が40%近くにまで達しています。このように、人口構造全体における高齢者割合の増加を、私は便宜的に「比率的高齢化」と呼んでいます。

 


比率高齢化の進行による社会への影響

税金や社会保険料の納付者人口が減少し、国家財政を直撃する
「比率的高齢化」が進行すると、どのような問題が起こりうるのでしょうか。まず、税金や社会保険料の納付者の人口減少は、国家財政を直撃するでしょう。

 

労働力の確保が困難になる

以下のグラフをご覧いただくとわかるように、2016年から2060年にかけて労働力人口は4割ほど減少する見込みです。このように、生産年齢人口(15〜64歳)が減少することで労働力の確保が困難になると予想されます。


このようななかで労働力を維持するために、どのような対策をするべきでしょうか。その方法はいくつかあります。

✓AI(人工知能)やIoT*を活用する
✓M字カーブ(女性の労働力率の一時期的な低下)の谷をできるだけ落とさない
✓定年退職後、何らかの形態で雇用を継続する
✓外国人労働者の就労拡大を進める

 

*IoT・・・IoTのコンセプトは、自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインターネットにつながり、情報のやり取りをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出すというものである。これにより、製品の販売に留まらず、製品を使ってサービスを提供するいわゆるモノのサービス化の進展にも寄与するものである。

 

医療・介護分野へのインパクトはより大きい
医療・介護分野にかかる職種は、人手不足の状態が続いています。高齢者の増加によって医療・介護の需要は高まる一方、労働人口は減少し、医療・介護分野にはより大きなインパクトがもたらされ、サービスの供給量が不足することが予想されます。

 

2025年は団塊の世代が75歳以上になる「分水嶺」
2025年には、団塊の世代が75歳以上に到達します。団塊の世代とは、ご存知のとおり1947〜1949年までの3年間に生まれた世代を指します。この3年間の出生数は約806万人であり、2003〜2005年の出生数(約330万人)と比べて2.5倍ほどです。このような世代の方々が高齢化する、あるいは亡くなっていくことによる人口構造への影響は非常に大きいでしょう。いわば2025年という年は、大きな分水嶺ともいえるのです。


医療介護に関するニーズはどのように変化するのか?

2035年からの10年間で、医療ニーズは右肩下がりに転じる
2035年には、団塊の世代が85歳以上に到達します。この頃を境に、それまで右肩上がりだった日本の医療ニーズは、右肩下がりに転じるでしょう。(ただし、地域ごとの人口変動によってその時期に差はあります。)つまり、2035年までは医療ニーズ(特に回復期、慢性期)が膨らみ続けますが、その先の10年間で徐々に減っていくと予想されます。日本の医療はこれから、「増えていくニーズ」と、その後の「減っていくニーズ」という、2つの大きな時代に直面すると考えられるのです。


「完治させる」医療から「病気と共存する」ための医療へ
これまでお話しした人口構造の変化に加え、医療技術の進歩、高齢化の進展によって、医療の内容も移り変わっています。
以前は、感染症や外傷などが重篤化しやすかったため「完治させる」ことを目的とした急性期の治療がメインでした。しかし、医療技術が進歩したことで、それらが徐々に克服され、高血圧や糖尿病などの生活習慣病などの治療が注目されるようになりました。生活習慣病の多くは完治することが難しく「病気と共存する」ための治療、つまり慢性期医療が必要となります。
また、高齢者は加齢に伴いさまざまな臓器の機能が低下している傾向にあり、多かれ少なかれ慢性疾患を抱えています。高齢化が進展する日本で、慢性期医療の需要は高まり続けています。

 

医療的管理+生活のケアを叶える「介護医療院」のニーズが高まる
以下のグラフからわかるように、親族世帯(2人以上の世帯員から成る世帯のうち、世帯主と親族関係にある世帯員のいる世帯)における核家族世帯(夫婦のみ世帯、夫婦と子世帯、ひとり親と子世帯)の割合は増加し続けています。


核家族化が進むと、家庭で高齢者の世話をすることが難しくなり、病院あるいは在宅医療のニーズが高まります。病床規制が実施されるまでは、医療機関がその受け皿になっていましたが、今後は「介護医療院*」がそのひとつの答えになり得ると考えます。なぜなら介護医療院は、医療管理の体制が整い、かつ生活のケアを叶えるハイブリッドな施設といえるからです。

*介護医療院・・・介護医療院とは、要介護者であって、主として長期にわたり療養が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設。(引用元:厚生労働省「介護医療院の概要」)

 

記事2では、地域包括ケアシステムの役割と課題についてお話しします。

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